366 キューブラー・ロス「死ぬ瞬間」 [Mar 14, 2014]

1969年に書かれたこの論文はその後に続編も発表され、わが国でも注目を集めた。ターミナルケアやホスピスなどは、この人に大きな影響を受けて今日の姿になった。その意義は十分に尊重するものの正直あまり関心がない分野だったのだが、ふと読んでみる気になったのは年を取ったせいもあるのだろう。

元の題名が” On Death and Dying ”だから、副題である「死とその過程について」がまさに著者の付けた題名である。だからこの本には、「死ぬ瞬間」のことなど書いていない。ざっくりと言ってしまえば、癌などの病気で余命宣告を受けた人が、それをどう受け入れていくかというとについて書かれている本である。

有名な「死に至る5段階」も、そういう文脈で理解する必要がある。5段階とは、1.否認と孤立(Denial)、2.怒り(Anger)、3.取り引き(Bargaining)、4.抑うつ(Depression)、5.受容(Acceptance)で、末期患者が混乱した状態から死を受容する状態に至るまでの経過をモデル化したものである。

著者自身も、すべてのケースが5段階の順序で現れる訳ではないと断っており、5段階の中には無理やり作ったと思われるものも含まれている。どうもアメリカ人は5段階が好きで、何でも5段階にする傾向があるのかもしれない。日本だと4段階(起承転結)にするのだろうけれど。

(キューブラー・ロスはスイスに生まれチューリッヒ大学で学んだが、米国人と結婚して渡米し、主な活躍の場は米国である。)

さて、この本のかなりの部分がインタビューやフィールドワークである。したがって5段階モデルも、患者の話を分類したり類型化するとそういうことが言えそうだというようにとらえられる。もちろん著者は医者であって病気や治療についてはプロなのだけれど、人間の生死そのものについてプロである訳ではないことに注意する必要がある。

おそらく、インタビューからあるモデルを作ってそれを一般化するような作業においては、「対象者(この場合は患者)が真実を語っていて」、しかも「聞き手が正確に相手の言いたいことを聞き取る」ということが必要であるが、それは医者だからできるというものではないと思っている。

極端なことを言えば、患者は真実など語らないし、聞き手は自分の聞きたいことしか聞かない。アメリカではフィールドワークというと御大層なもののように言うけれども、こうしたインタビューにしろ、カウンセリングにしろ、企業経営のコンサルティングにしろ、アメリカ由来の人対人の対応からすごいものが生まれてくるとは私は思っていない。

死に至るのはまさに時間の問題であって、長いか短いかの違いがあるだけである。おそらく「死ぬ瞬間」があるとすればそれは物理的な問題であって、自分のことだとすればなるべく痛くなく苦しくないことが望ましいというだけである。5段階があるとすれば自分自身ではなく、自分以外の誰かの死に対してではないかと思っている。

その意味では、医学的観点よりも宗教的観点の方が、この問題を扱うにはふさわしいということになるだろう。半世紀前の著作なので、あるいは言い古された感想なのかもしれないが。


終末期医療に関する古典的著作。ホスピスのあり方などに影響を与えた。

[Mar 14, 2014]