079 シーサケット、ロマゴンを返り討ち [Sep 9, 2017]

WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2017/9/9、スタブハブセンター)
  シーサケット・ソールンピサイ(43勝39KO4敗1引分け)3.2倍
Oローマン・ゴンサレス(46勝38KO1敗)1.3倍

世界的な関心はスーパーシリーズに持って行かれてしまったけれど、日本のファンにとってスタブハブセンターの3試合はたいへん楽しみである。欲をいえばここにジョンリエル・カシメロが絡んでくれるとよかったが、まあ米国でのスーパーフライの興行ということが重要だから、欲張っても仕方がない。カシメロは日本で誰かに呼んでもらおう。

まずシーサケットとロマゴンの再戦。3月の一戦は私もロマゴン中差判定勝ちと付けていたので、たいへん気の毒な判定だった。ただ、振り返ってみるとロマゴンのKOチャンスはほとんど全くなく、軽いとはいえダウンがあり、バッティングだから仕方ないとはいえ出血して攻勢を受けたのは見栄えが悪かったことは確かである。

とはいえ、フライ級まであれほど圧倒的な強さを見せていたロマゴンが、スーパーフライに上げたとたん精彩がなくなったような気がする。クアドラス戦もシーサケット戦も、かつてのような破壊力が全く見られなかった。

その理由として、誰もが考えるのがウェイトが適正かどうかである。周知のとおりロマゴンはミニマム級スタートで、体をみる限りウェイトがきつくて階級を上げるようには見えない。もちろん、若い頃のように減量はできないだろうし、トレーニングだって以前とは違っていると思われる。それでも、フライ級のリミットを維持するのがそれほど困難とは思われない。

重い体で、体の大きい相手と戦うのであるから、どうしても力が入る。力が入るとパンチは効かないし、スタミナもロスする。ロマゴンはカウンターも巧いけれど、持ち味は前に出てコンビネーションの中で強打を決めることである。50%か60%で打っても効いてしまうのに、80%90%になれば相手が倒れてしまうのは当然である。

実際、フライ級まではそうした戦いができていた。ところがスーパーフライでほとんどできていないのは、たかだか2kg弱でかなり影響があるということである。もちろん、年齢的な衰え(ロマゴンももう30である)もあるけれど、それ以上に、ウェイトを上げたことによる悪影響がロマゴンの動きを鈍くしているようだ。

かたやシーサケット。前回の戦いではバッティングによるロマゴンの負傷が非常に有利に働いたが、それでも、佐藤洋太をロープに釘付けにしたような圧力はみられなかった。もともと、的確なパンチを決めるというよりは、ロープに詰めて荒っぽい連打で相手がギブアップするのを待つという戦い方だから、スキルではロマゴンには一歩も二歩も譲る。

今回も、ロマゴンが負傷するようなことがなければ、パンチの的確さという点でかなり差があるだろう。そして、シーサケット自身も30歳なので年齢的な上がり目はそれほど強調できない。国際式以前にムエタイをやっていただろうから、蓄積されたダメージも当然あるだろう。

私がこの一戦の最大のポイントと考えるのは、ロマゴンのコンディションである。かつてP4P上位にも名を連ね、米国本土でGGGとカップリングされるほど注目されたロマゴンも、ここで連敗すると米国でのキャリアはほぼ終わりになる。普通ならそういうケースでは目一杯仕上げてくるものだが、中南米系の選手の場合、モチベーションがどんどん下がる例が少なくない。

近年では、同じニカラグアのマヨルガもそうだし、チャベスJr.、エリック・モラレスなどが思い浮かぶ。そうした例では、ベストコンディションとはほど遠い状態でリングに上がり、しかも体をみてそう分かるレベルだった。日本人なら1万ドルと10万ドル、100万ドルの違いは明らかだが、彼らにとってみんな「たくさんのおカネ」になってしまうのだろうか。

そういう一抹の不安がなくはないけれど、ベストに仕上げてきてスーパーフライ級の体に慣れてくれば、ロマゴンが普通に戦えば負ける相手ではない。前に出るシーサケットを捌きつつ強打を決め、最後はシーサケットを後に下がらせることになるのではないかと思う。ロマゴンKO勝ちを予想する。

WBC世界スーパーフライ級挑戦者決定戦(9/9、米カーソン)
Oカルロス・クアドラス(36勝27KO1敗1引分け)1.9倍
  ファン・フランシスコ・エストラーダ(35勝25KO2敗)1.9倍

ともにロマゴンに1敗している両者による挑戦者決定戦。オッズは1対1の五分、ボクシングではたいへん珍しい。スーパーフライでの実績に比較してこのオッズということは、おそらく現地の知名度や人気はエストラーダの方が上だろう。帝拳所属であり日本での試合も多いクアドラスだが、そのファイトスタイルはメキシカンに受けそうもないのが残念である。

まずはエストラーダ。フライ級時代にブライアン・ビロリア、ミラン・メリンド、ジョバンニ・セグラ、エルナン・マルケスに勝っているのだから、超一流であることは間違いない。ロマゴンを追ってスーパーフライに上げてきたが、27歳と年齢的にはまだ上昇余地を残している。

好戦的なファイトスタイルで、昔ながらのメキシカンファイターである。ディフェンスも巧みだしカウンターも打てる。心配があるとすればスーパーフライの実績がないことで、2試合前のタブゴン戦は判定勝ちしたけれど体にキレがなかった。前の試合は115ポンドでKO勝ちしているが、ディフェンシブなクアドラス相手にいつもの追い足が発揮できるかどうか。

かたやクアドラス。公称身長はエストラーダと同じ163cmなのだが、後重心のアップライトで戦うためか背が高いように感じられる。シーサケットからタイトルを奪い、ルイス・コンセプション相手に防衛しているのだからこちらも実績的には十分ながら、足を使って軽いパンチをヒットするスタイルはメキシコのお客さんには受けそうにない。

ある意味、ロマゴンよりもしつこく連打するエストラーダだけに、受け身になると厳しいかもしれないが、当てさせないで足を使う展開になれば危なげがない。現時点でもシーサケット相手なら勝てると思うし、スーパーフライにフィットしていないエストラーダなら捌いてみせるだろう。クアドラス判定勝ち。

ただ、私が希望するカードは井上vsクアドラスとロマゴンvsエストラーダなので、この試合が引分けとかにならないとなかなか実現しそうにないのが残念である。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(同)
O井上尚弥(13戦全勝11KO)1.07倍
  アントニオ・ニエベス(17勝9KO1敗2引分け)10.0倍

モンスター井上の米国緒戦。相手選びに難航したようで、ニエベスはデビュー以来バンタム級で戦っていて、スーパーフライまで落としたことがない。ウェイトを作れなかったらどうするんだろうと余計な心配をしてしまう。2ポンドオーバーくらいなら、ノンタイトルでやるのかもしれない。

それでも、井上自身が減量に苦労すると聞くので、試合当日のウェイトはそれほど変わらないだろう。そうなると、いつもの破壊力のある攻撃がバンタム級の相手に通用するのか興味深い。スパーリングでは当然上の階級とやっているだろうが、実戦はまた違う。あのロマゴンさえ、スーパーフライに上げて苦しんでいるくらいである。

さて、そのニエベスだが、前の試合で現WBOバンタム級2位のニコライ・ポタポフに1-2判定負け、2015年にバンタム級上位ランカーのステフォン・ヤングと三者三様引分けという実績がある。10回戦3試合をいずれも判定勝負という点からも、50%に届かないKO率からも、あまり決定力のある選手とは思われない。

したがって、井上にとっては比較的リスクが小さい相手ということになるだろう。幸い、西海岸はそれほど日本と環境が違わないので、コンディショニングさえ失敗しなければ、いつもの試合振りを見せてくれそうだ。

井上のボクシングは強打が注目される傾向があるが、私はディフェンスにも注目している。足の使い方もいいしガードもしっかりしている。ほとんど打たれていないのは、これまでの試合で顔を腫らしたことがないことからも明らかである。山中のように髪型を気にしすぎたり、亀1のように変なパフォーマンスに走らず、このまま正統派のボクシングを極めてほしいものである。

まだ24歳なので、将来的にはスーパーバンタムくらいまで階級を上げることになりそうだ。残念ながらその頃にはリゴンドーはいないかもしれないが、半分くらいの試合は米国で戦ってほしいものである。

 

WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ(9/9、スタブハブセンター)
シーサケット・ソールンビサイ O 4RKO X ローマン・ゴンサレス

今回は全くの完敗。ロマゴンにとっても私の予想にとっても、言い訳の利かない完全KO決着であった。

ロマゴンのコンディションがよくないのは、1Rで分かった。かつてのロマゴンは、振りは小さくても効くパンチを相手のガードの内側にヒットしていた。ところが今日のファイトでは、シーサケットの頭の上を空振りしているようなパンチだった。インサイドからボディを攻めていけば間違いないのに、なぜああいう戦い方をしたのだろうか。

バッティングをもらうのが怖いというのは分かるが、ボクシングなのだから相手の頭が全くぶつからないというのはありえない。ましてシーサケットは手と頭が同時に飛び込んでくるのが持ち味である。長丁場が弱いというのがシーサケットの弱点なのだから、同じバッティングを避けるにしても、位置取りや足の運びで頭を避けるという方法があったはずである。

その場合、ロマゴンの戦術としては前半はポイントを失うのを覚悟で徹底してカウンター狙い、隙があればシーサケットのボディを攻めておくということが考えられる。私はロマゴンが作戦を変えるというのを聞いて、そんな展開を予想していた。まさか、いちいちバッティングをアピールするのが作戦だったという訳ではなかろう。

ところが、試合が始まってパンチが上ずっているのがロマゴンで、ボディを攻めているのがシーサケットである。予想していたのとは全く逆の展開なのである。そして4R、ラウンド前半に軽い連打で主導権を取ったシーサケットがいったん引いて、ロマゴンが攻めてきたところをカウンターを決めた。みごとな作戦勝ちである。

結論として、ロマゴンにはスーパーフライは重すぎたということで間違いないと思う。プラス30歳という年齢があり、蓄積されたダメージがあり、長らく第一線を続けて来たことによる有形無形の金属疲労(勤続疲労?)もあった。試合前の予想で懸念としてあげた、中南米選手に特有の下り坂になった時の歯止めのきかなさということもあるのではないか。

この連敗で、残念ながらチョコラティートのアメリカでの商品価値もほとんどなくなった。本場米国に先立って日本で人気が出たロマゴンだが、世界戦線での復活はもはや困難だし、米国でメインイベントを張れるのもこれが最後であろう。今日の同じリングで「モンスター」井上が強烈な米国デビューを果たしたのと対照的で、まさに新旧交代となった。

とはいえ、シーサケットがロマゴンの地位を奪うことにはなりそうにない。次の防衛戦は、今日ぎりぎりの判定勝ちで挑戦権を獲得したエストラーダが地元でタイトルマッチを開催できる可能性が高まったといえそうだが、スタブハブセンターでマイケル・バッファーがアナウンスするようなビッグマッチにはならないだろう(それはクアドラスでも同様だが)。もしかするとエストラーダの前に、誰かが日本で挑戦する可能性もある。

むしろこの展開で、井上が次の試合をロマゴンと戦うことはなくなっただろうから、じっくり調整してできればバンタムに上げて試合してほしいものである。ウェイトがきついと拳も痛めがちだし、かつて海老原も浜田も拳の負傷でブランクを作っていた。まだ若いしあせることはない。あと、米国での受けを考えると、モンスターより「Baby Face Assassin」の方がよさそうだが。

対ロマゴン戦は大橋ジム的には、八重樫をワンサイドでKOしたロマゴンへの敵討ちという意味もあったのだが、かつて八重樫に敗れたことのあるシーサケットが連勝してくれたので、そのあたりはいいことにしたらどうだろうか。