073 徳本峠&ジャンクションピーク [Jun 25, 2018]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

6月の終わりに、梅雨の中休みを狙って上高地に行くことにした。テント泊で経費を節減すれば、交通費の増える分を宿代の節約でカバーできるのではないかという胸算用である。小梨平をベースキャンプとして、天候が許せば2回のデイハイクをしようと計画を立てた。

上高地に行くのは2度目である。前回は登山ではなく観光だったので、大正池から明神まで梓川を遡り、対岸をバスターミナルまで戻るオーソドックスなコースを歩いた。したがって、明神より上流には行っていないし、標高差のあるコースも歩いていない。

そこで今回は、明神より上流へ行くコースと標高差のあるコースを選ぶことにした。まず初日は標高差のあるコースである。上高地からデイハイクとなると、徳本峠か、あるいは逆方向の岳沢が考えられる。今回は、徳本峠にした。徳本峠から霞沢岳方面に1時間歩いたところに、ジャンクションピークがある。1回目は、そこを目指す。

テント泊だから、日が暮れると眠り夜明けとともに起きる。午前4時に起きて朝の支度をし、デイパックを持って5時50分にスタート。着替えとかEPIガスはテントに置き、デイパックの中は雨具・ヘッデン等の緊急用品と行動食・非常食、水2リットルと地図類だけなので5kgにならないくらい。荷物が重くてへたばることはないが、2000mを超える山は久しぶりである。

久しぶりのテン泊なので心配したが思ったより熟睡できて、朝の体調は悪くない。前月の御前山よりずいぶん足が軽い。小梨平から明神まで、林間の道を歩く。

このあたりはほとんど平坦で、道幅も車が通れるくらい広い。ただ、明神に近づいたところで、川沿いで路肩が崩壊し、道幅の半分以上が崩れてしまっていた。もしかすると、このせいで明神のトイレが使用不能になっているのかもしれない。この箇所では林の中の迂回路に誘導され、さらにその奥に新しい林道が建設中であった。

この時間だと、まだ人はほとんど歩いてなくて、かわりにサルの群れが林道を川に向かっていた。私がすぐそばを歩いているのに、特に気にする様子もなく平然としている。そういえば、行きのバスで「サルや熊に絶対にエサは与えないでください」と注意があった。

崩壊地からすぐに、見覚えのある明神に到着。6時35分だから、キャンプ場から45分。河童橋・明神間が約1時間だから、キャンプ場まで歩いた分だけ短くなる。明神館前のベンチでひと休み。

さて、この日は標高差約900mのジャンクションピークが目標である。900mなら3時間というのが私の目安であるが、明神までの林道歩きも長いし、実際に歩かないとどのくらいかかるか分からないというのが正直なところである。「プロ・アドベンチャーレーサー」陽希くんは、上高地から霞沢岳まで登ってさらに蝶ヶ岳まで1日で歩いたが、私にはその半分でもきつい。

とはいえ、霞沢岳はいつか行ってみたい山であるので、その予行演習の意味もあって、ジャンクションピークを選んでみたのである。徳本峠・ジャンクションピーク間の約4倍が霞沢岳までの所要時間になるので、あまりに時間がかかるようならそもそも行くのは無理ということになる。

さて、明神から徳本峠の分岐まで、地図をみるとすぐのように感じたのだが、明神館が見えなくなってさらに林間を進み、橋をひとつ渡ってようやく分岐になった。7~8分はかかったと思う。

分岐のところには道標とともに注意書きの看板が立てられていて、ここから先は登山道なので登山装備がない人は入らないように、入る場合は必ず登山届を出すようにと書かれている。

そんなに険しい道なのだろうか、ヘルメットを持ってこないといけなかったかなと思ったが、よく考えるとこれはハイヒールと手提げバッグで入山するような観光客に対する注意だろう。実際に富士山では、そんな服装の外国人観光客が大勢入ってくると聞いた。地図・コンパスやヘッデン、雨具をちゃんと持っている人は、もちろん大丈夫なのである。

分岐を過ぎてしばらく、明神までの林道とほとんど変わらない平坦で広い道が続く。ただ、明神までは少ないとはいえ歩く人がいてすれ違ったり抜かれたりしていたのが、徳本峠への道に入るとほとんど誰もいなくなった。


朝の林道にはひと通りがなく、サルの群れが水を飲みに来ていた。サルも顔を洗うのだろうか。


明神を過ぎて7~8分歩くと、徳本峠方面への分岐となる。ここから先、登山装備がない人は入ってはいけないと書かれている。


分岐を過ぎ、林の中を徳本峠に向かう。しばらくは道幅の広い平坦な道が続く。

 

分岐を過ぎても当分の間は、砂利の敷かれた広い道が続く。タイヤの幅で轍(わだち)が2本続き、轍の間は草が生えている。常識的に考えると車が通った跡なのだが、この奥に何かあるのだろうか。30分ほど歩くと道は細くなり、本当の登山道となる。沢を渡る細い橋があったから、ここから先にはさすがに車は入れないはずである。

橋を渡ってしばらくすると、再び道が広くなった。さっきの橋を車で渡ることはできないから、歩行者のために広くなっているのだろう。うれしいことである。そして、いよいよ傾斜が急になってきた。

徳本峠への道は、黒沢という沢沿いを遡行していく。基本的には沢に並行して進むのだが、ときおりスイッチバックで標高を上げ、沢を十数m下に見る高い場所まで登ることもある。どことなく、甲武信ヶ岳の信濃川水源標への道に似ている。あの時は、早起きして登山道まで車で入ったためか足が重かった。今日は比較的足が軽い。

ガイドブックによると水場のある第1ベンチが休憩適地と書いてあるが、その前に沢と合流するあたりで、おあつらえ向きに登山道から河原に下りる道がある。たいして距離もないので、河原に下りてみた。水は岩の下にもぐってしまったのか、流れは見えないし音も聞こえない。ガレ場の適当な場所に腰を下ろすと、なんと明神岳・穂高岳が目の前にあった。

明神では、明神岳は上から迫ってくるような感じなのだけれど、徳本峠方向に遠ざかってかつ標高が上がったので、目の高さにピークがあるように感じる。さらに標高が上がって遮るもののない霞沢岳はさぞかしいい景色だろうと思った。今回はジャンクションピークまでだったけれど、この景色はこの後も樹間から目を楽しませてくれた。

ガレた河原でひと休みして出発すると、第1ベンチはすぐ先であった。ベンチ自体は傾いてしまって座るのは難しく、水場というのはすぐ横を流れている沢である。普通は水場といえば、地表に出てすぐの水であることが多いのだが、ここでははるか上から流れている沢の水を汲むようである。

ためしに水に触ってみると、冷たいことは冷たいがびっくりするほどではない。信濃川水源標の水がびっくりするほど冷たかったのを覚えているが、十数mでも地表を流れていると温まってしまうようである。ちょうど、水路を迂回させて田圃に入れる水を温かくしているのと同じ理屈であろう。

手持ちの水がなければここで汲んでいかなければならないが、まだ水は十分ある。この日はこのまま手持ちの水でやり繰りすることにした。(翌日に横尾の奥のワサビ沢で湧いていた水の方がずっと冷たかった。こちらは、特にガイドブックでは水場とは書いてなかったけれど)

第1ベンチを過ぎて、引き続き道はスイッチバックで標高を上げてゆく。この日唯一の梯子が現れるが、びっくりするほどの急傾斜ではないし、鎖やロープも現れない。荷物が軽かったせいかもしれないが、へたばることもなく歩くことができた。

次の第2ベンチは、ベンチというよりかつてベンチであった材木が置いてあるだけである。「徳本峠まで最後の水場」とあり、第1ベンチ同様に沢が流れてきているけれど、やはり地表に出てしばらく流れている水である。第1ベンチの沢よりかなり細いのは、上流だからだろう。

第2ベンチから上は、いよいよ沢から離れて登って行く。右手上の稜線も、だんだん近づいてきた。スイッチバックを3、4回繰り返すと、「徳本峠・島々」の標識に出た。残り距離が書いてないのが残念だが、いよいよ峠が近いような地形だ。さらに10分ほど登ると、「徳本峠0.2km」の標識のある分岐に到着。8時40分。予定していたよりも1時間早い。

明神から徳本峠のコースタイムは2時間半、ここまでかかった時間は休憩入れて1時間55分だから、コースタイムより速く登ってきたことになる。奥多摩でも丹沢でもコースタイムで歩けることなどほとんどないから、これは私にとって驚くべきことである。


分岐から30分ほど歩くと、道は本当の登山道となる。とはいえ、ずっと砂利が敷かれていて心配せずに歩ける道である。


標高が上がると、背後に明神岳・穂高岳の眺望が開ける。上に見えていた頂上がだんだん目の高さに近づいてうれしい。


明神から2時間で霞沢岳分岐に到着。コースタイムより速いのは、荷物が軽いとはいえ私にとって驚くべきことである。

 

さて、計画では徳本峠小屋でひと休みしてからジャンクションピークに向かう予定だったが、まだ時間が早いし体力にも余裕がある。残り標高差は300mほどなので、このまま直行することにした。「霞沢岳 4.3km」と書いてある方向に向かう。

しばらくは等高線に沿ったトラバース道が続くが、やや方向を変えるといよいよ本格的な登りが始まる。ここまでの登りとは、道幅も傾斜も全く違う本当の登山道である。ただ、路面には細かく砂利が敷かれて道は整備されている。

霞沢岳へは以前は登山道がなく、沢を詰め藪を漕いで上高地からの標高差約1200mを登ったという。近年になってようやく登山道が開かれたが、これには徳本峠小屋のスタッフはじめ有志のたいへんな努力があった。そのご苦労の甲斐あって、こうして体力のない私でも歩くことができる。ありがたいことである。

ただ、登山道としてはそれほど古くからあるものではないので、道幅が狭いのと休む場所がほとんどないのが厳しいところである。傾斜はかなりきつく、ジャンクションピークまでの標高差300mに対して距離は1kmほどしかないから、平均斜度は15度を上回るだろうか。これは私にとってかなりきつい坂である。

それでも、一晩眠ってここまで600mほどしか登っていないためか、それほどしんどい感はない。もし前の日に早起きしてバスに乗って、重い荷物でここまで登っていたら分からないが、へたばりそうにないのは心強い。

しばらく樹間から穂高岳方面への展望を望めたが、標高を上げるとやがて尾根の南側に出る。こちらは、新島々から徳本峠へと登ってくる方向である。いくつもの緑の尾根が続いていて、こちらもいい景色である。霞沢岳が見えないか西方向を窺うけれども、手前の大きな峰に遮られて見えないのは残念なことであった。

分岐点から登ること40~50分、ようやく上方向に峰が見えなくなってきた。スイックバックを何度かやり過ごすと、傾斜が目に見えて緩くなった。いよいよピークが近い。ジャンクションピークのあたりは、1/25000図によると高原状になっていて、丈の低い草が多い。水が流れた跡が深くえぐれていて、あと一歩で高層湿原になりそうな雰囲気である。

これまでの急傾斜から一転してほぼ平坦な道を元気百倍で進む。5分ほどで、ジャンクションピークの立札が立つ展望地に到着した。9時55分、霞沢岳分岐から1時間10分だから、私にしては快調といっていいペースである。

徳本峠小屋に泊まって霞沢岳を往復するコースタイムは8時間。ここまでの距離は霞沢岳のほぼ4分の1にあたるから、この日のペースで歩けば8時間から10時間の間で行って帰って来れることになる。これは、なんとかなりそうな数字でちょっとうれしかった。

ジャンクションピークはその名のとおり尾根の分かれ目になっていて、東に向かう霞沢岳への稜線と、南の島々方面に向かう稜線とに分かれる。そして、ジャンクションピークからは南への展望は開けているのだけど、残念ながら東への展望はない。霞沢岳を見るには、もう少し進まないと難しいようである。

せっかくのピークなので少しゆっくりしたかったのだが、一休みしていると大小いろんな虫が寄ってきた。そんなに大きくはないのだけれど、見るからに蜂の縞模様のある虫もいるので、腰を下ろしてゆっくりすることはできなかった。せっかくここまで登って来たのに名残り惜しかったけれど、山頂を後にする。


霞沢岳方面に向かうと、道はこれまでとは比較にならないくらい狭く険しくなる。ここは、近年になって開かれた登山道という。


ジャンクションピークのあたりは、地形図どおり高原状になっている。水が流れた跡が深くえぐれていて、丈の低い草も多く生えている。


分岐から1時間ちょっとで、ジャンクションピーク着。このペースで歩ければ、徳本峠小屋から日帰りで霞沢岳を往復することが可能である。

 

ジャンクションピークからの下りは、登りで感じた以上の急傾斜だった。この山域をはじめて歩いてみて、全体に傾斜はそれほど急ではないように感じていたのだが、朝一番で体力があったからそう感じただけで、結構な傾斜であった。

そして、なかなかスピードが出ない。霞沢岳分岐から1時間ちょっとでジャンクションピークまで登れたので、下りは40分か50分で着くだろうと思っていたら、とんでもない。なかなか下りれないのである。1時間近くかけて、ようやく徳本峠小屋へのショートカット分岐に着いた。

ショートカット分岐から小屋まではすぐだろうと思っていたら、ここもまた大変だった。まず、結構な登り坂である。この日はまだ早い時間だったのでそれほど消耗していなかったが、霞沢岳まで往復したら最後の難所となることは間違いない。

そして、ヌタ場のような歩きにくい場所を過ぎたら、行き先がよく分からなくなってしまった。明るくなっている上の方だろうと踏み跡を追っていくと、藪の中に入ってしまう。進めないこともないが、しばらく歩かれていないような道に見える。

仕方なく、間違いなさそうな太い道まで戻る。「展望台」と立て札が立っていて、いま進んだ方向の矢印には何が書いてあるのか字が薄くて読めない。下り方向には案内がないから、明神方面への道だろう。どこかで分岐を見逃したのだろうか。

もときたヌタ場の方向に戻ろうとしたその時、下の方から笑い声が聞こえてきた。これはと思って下り方向に進んでみると、木々の間、標高差で10mか15m下ったあたりに、建物があるのが見えた。徳本峠小屋は、いま迷っていた場所より下にあったのである。

このあたり、1/25000図を見れば明らかで、小屋は峠のすぐ上の独立標高点2160mから少し下った場所にある。しかし、ショートカット道は独標のすぐ横を通るので、小屋まではいったん登ってまた下ることになるのであった。11時25分、ジャンクションピークから1時間20分かかってやっと徳本峠小屋に着いた。

徳本峠小屋の前では、3人の先客が休んでいた。朝登ってくるときにすれ違ったのは1人だけだったのでどうなるかと思っていたら、平日の昼間に人がいるので少し安心した。売店に行ってみたが昼ごはんになりそうなものはカップラーメンくらいしかなかったので、コーラを1本買い非常食カロリーメイトとコーラでお昼にした。。

小屋から少し離れ、テン場横のベンチで周囲を見回す。徳本峠小屋はWEBで見たのと同じで、手前に昔からの小屋が倒れる寸前という感じで建っていて、その向こうについ最近復活した小屋がきれいに建てられている。

明神から2時間ほどで登って来れるとはいえ、車が上がれる訳ではないので、荷物を上げるのは歩荷になる。そして、槍・穂高への主ルートではないので登山客も多くはない。小屋の人も常駐しているだけで大変だろう。近くに水場がなさそうなのも登山客以上に小屋の人にとって一苦労である。

よく知られるように、もともと上高地に入るのにトンネルなどなかったので、昔の登山者は新島々から谷筋を通り、ここを通って上高地に下った。かのウェストン氏もここを通った。だから、嘉門次小屋(ウェストン氏のガイド)は明神にある。昔はバスターミナルから入った訳ではないからだ。

この日は梅雨の中休みで天気もよく風もなく、たいへん過ごしやすい一日であった。欲を言えばもう少し涼しければ虫が少なく、ゆっくりしていられただろう。それでも下界に比べるとたいへん涼しいはずなのだが、虫にとっては千載一遇の好天で、炭酸の匂いをさせていれば寄ってくるのも仕方がない。

12時が近づいたので腰を上げる。小屋のまわりは木立ちに囲まれて展望はそれほどないのだが、テン場の隅に行くとようやく西方向が開けた。向こうに見えるのは、距離と高さから見て霞沢岳だろうか。そこから少し下って、ジャンクションピークの方向も見えた。

さすがにここからの下りは快調で、明神まで休みなく1時間45分で下りた。さらにベースキャンプのある小梨平まで1時間弱。午後3時前にはテントに戻ることができ、ゆっくり休んで着替えてから食事とお風呂のためクラブハウスへと向かったのでした。

この日の経過
小梨平キャンプ場 5:50
6:35 明神 6:45
7:30 黒沢河原 7:40
8:40 霞沢岳分岐 8:45
9:55 ジャンクションピーク 10:05
11:25 徳本峠小屋 11:50
13:35 明神 13:45
14:40 小梨平キャンプ場
[GPS測定距離 15.2km]

[Sep  3, 2018]


徳本峠小屋。WEBで見たとおり、前方に昔からの小屋がつっかえ棒に支えられて建ち、後方に最近建てられた新しい小屋がある。


テン場の隅から西方向が開けた。距離と高さからみて、霞沢岳かそれに続く稜線であろう。


明神方面へ少し下って、いま登ってきたジャンクションピークの方向を振り返る。頂上は高原状になっているので、下から見たのではよく分からない。