074 槍沢ロッジ [Jun 26, 2018]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

前日に徳本峠への「縦方向」を歩いたので、翌日は横尾方面への「横方向」である。標高差900mの登り下りをしたのでどこか痛くなるかと心配したが、テント泊にもかかわらず翌朝の体調もまずまずでどこも痛くない。眠りが浅いのは仕方ないけれど、真夜中の12時から2時くらいまでの記憶がないので、そこそこ眠れたようである。

今回の遠征では、テン泊で体調を崩さないことが最大の目的であり、計画通り歩けなかったとしてもあまり気にすることはないと思っていた。それでも、前日は予定通りジャンクションピークまで登ることができ、しかもコースタイムと比べても遜色ない速さであった。デイパックで荷物が軽かったとしても、気分のいいことである。

この日の計画を立てるにあたり、最初は涸沢まで往復することも考えてみた。しかし、往復するとコースタイムは11時間であり、朝の6時にスタートしても帰ってくるのは早くて夕方6時である。それも、コースタイムで歩ければの話であり、夕立などのアクシデントがあるともっと遅くなってしまう。

しかし、横尾折り返しとなると、今度は時間が短すぎて物足りない。その中間くらいの目的地はないかと探したところ、槍沢を遡上して槍沢ロッジまで横尾から1時間40分である。往復で約3時間、であれば上高地スタートで9時間となり、ちょうどいい時間になりそうだ。

問題は、横尾までの道は大丈夫としても、横尾から槍沢ロッジまでどうかということだが、標高差は200mほどなのでびっくりするほどの急傾斜ではなさそうだ。あとは人のあまり入らない荒れた道でないかということだが、なんといっても槍ヶ岳へのルートなので、そこそこ歩かれているはずである。ということで、このコースを選ぶことにした。

前日同様、午前4時には明るくなったので起床。EPIガスでお湯を沸かし、コーヒーとパン、野菜ジュースの朝食。まだ食糧には余裕があるけれども、食器を汚すと炊事場が遠いので簡単に済ます。仕度して、前日より10分早く5時40分に出発した。

前の日にはサルの群れに遭遇したのだけれど、この日は鳥にたくさん出くわした。森に棲む野鳥は当然として、鳩とか雀が多くいたのは意外だった。鳩の食べるような穀物とか豆類はあまりないような気がするのだが。

40分歩いて明神着。水分補給してすぐに出発。7~8分で徳本峠分岐となり、この日は左へ進路を取る。ガイドブックでは明神から徳澤、徳澤から横尾はそれぞれ1時間、顕著な起伏もなく上高地から明神と似たようなハイキングコースのはずである。

徳澤が近くなると、梓川沿いに出た。キャンプ場ではすぐ近くを水が音を立てて流れていたが、このあたりは砂利におおわれた河原である。対岸は明神岳から屏風岩へと続く涸沢へのコースになる。右の尾根は蝶ヶ岳・常念岳へと続く稜線で、正面に見える小さなピークが、槍沢と涸沢の分岐、つまり横尾のあたりになるのだろうか。

再び林の中に入り、しばらくすると「日本アルプス・徳澤ロッヂ」の看板が出てきた。このあたり、徳澤ロッヂ方向と徳澤園方向で道が入り組んでいるが、横尾方面へは徳澤園に進む。左手に公衆トイレが出て来ると、その向こうは広々とした草原となっており、いくつかテントが見える。徳澤キャンプ場である。

そういえば、この間「山と渓谷」の北アルプス特集に昔の写真がいっぱい載っていて、かつて徳澤には牧場があったそうである。言われてみると、このあたり一帯平らで開けていて、気候はもちろん冷涼である。牧場にはもってこいの場所であろう。

この号の昔の写真には、若い人がカニ型リュックを背負い、新宿に中央本線に上高地にあふれている様子も写っている。その頃私も同じような恰好で北海道に行っていたので、かなりなつかしい。上高地から涸沢方面へ、数珠つなぎの行列で登山者が山に向かっている。今や昔であるが、こんなに混んでいたら絶対に来ないと思う。

さて、このキャンプ場ではサルが悪さをするというWEB情報を見たことがあるが、トイレ前に注意書きがあって、「テントの外に食糧を置かないでください。野生動物が取りに来ます」「クマ、サル、イノシシ等でケガをしても責任は負いません」などものものしいことが書かれている。

トイレからテン場を通って水場まではずいぶんと距離がある。私の泊まった小梨平もかなり遠かったが、テントが少ないので余計に遠く感じた。水場は環境庁が整備したもので、地下から井戸水を上げていると書かれていた。炊事場のゴミは持ち帰りなので、小梨平よりも厳しい。

水場の隣に休憩ベンチがあり、そのベンチから登山道をはさんで徳澤園がある。明神には宿の前に自動販売機があったが、ここには見えない。ただし、食堂は朝からやっているので、ここまで来れば朝ご飯を食べることができる。徳澤園を右に入ると蝶ヶ岳への登山道となる。

資材運搬路はあるものの、上高地では一般の車両は通行できないので、上高地から明神、明神から徳澤と入るほどに人里離れたように思われる。それでも、徳澤ロッヂにしても徳澤園にしても山小屋というほど簡素ではなく、ホテルに近い感じである。もちろん、お風呂もある。

徳澤に近づくと、梓川の河原が目の前に広がる。対岸は屏風岩へと続き、右手は蝶ヶ岳への稜線となる。


徳澤ロッヂと徳澤園の間に広大な草原のテント場がある。ただし、野生動物注意。


徳澤園の食堂は、朝から営業しているようです。徳澤園の前を通ると、蝶ヶ岳への登山道となる。

 

徳澤園を過ぎて、林間の登山道を進む。すぐに左右に分かれるが、左の道は作業道のようで道標は右を指示している。引き続き道は平坦で、距離がどんどん出る。小梨平キャンプ場から横尾まで片道約12kmあるから、山歩きというよりもお遍路のようである。

10分ちょっと歩くと、梓川に大きな橋がかかっている。新村橋である。ここを渡り、屏風岩の上を通って涸沢に登ることもできる。距離は相当短くなるが、強烈なアップダウンがあるので時間は多くかかるというハードな道のりである。もちろん、渡らずに先に進む。

新村橋を過ぎて梓川の河原に、ずいぶん小ぶりの橋が見える。新村橋は数十mあるが、見た感じ数mしかなくて、河原の砂利の中を道が続いているようだ。その上にタイヤのような跡があるように見える。1/25000図にも電子国土にも載っていないが、新しく道ができたのだろうか。

やがて登山道から河原に入る道が出てきて、「資材運搬路・立入禁止」とトラロープが張ってあった。この運搬路は1/25000図にも載っていて、梓川右岸を上高地から新村橋の先まで伸びている。おそらくこの道が、河川敷から伸びているのだろう。

梓川沿いの道を1時間ほど進むと、行く手に茶色の建物が見えてきた。横尾である。徳澤寄りに大きな古い建物があり、営林署避難小屋と書いてある。避難小屋というからには荒天の時には避難できるのかもしれないが、入口にはトラロープが張られて入れないようになっている。

営林署避難小屋の隣が小ぶりのキャンプ場トイレ、その次に公衆トイレと水場、ともに真新しい。そしてその隣が横尾山荘である。こちらの建物もたいへん新しく、滝澤のホテルと比べると小振りだけれども奥多摩・丹沢水準からするとずいぶん立派な施設である。

滝澤に自動販売機がなかったので横尾にもないのかなと思っていたら、意外にも山荘前に3台の自動販売機が置かれていた。しかも、1台はビールである。ビールの自販機というのは、尾瀬では見たことがあるが奥多摩・丹沢ではない。しかも、山荘の外に置いてあるので、立ち寄りの登山者でも買うことができる。

さすがに午前中からビールを飲む訳にはいかず、400円の炭酸水を買ってベンチで一息つく。その間、徳澤方向から軽トラックが走ってきた。さきほど見た、河川敷の運搬路を通ってきたらしい。新しいベンチを設備したりいろいろ作業していたが、気が付くと自販機の空き缶がなくなっていたので、お掃除もしてくれるらしい。

山荘前のベンチからは正面に横尾大橋が見える。ここを渡ると屏風岩を回り込んで涸沢に至る。ここから涸沢まで登ると往復6時間かかるので、日帰りは難しいと思って回避した経緯にある。いま時刻は午前9時なので、涸沢に行くと休みなく歩いてもここに戻ってくるのは午後3時、小梨平キャンプ場に戻ると午後6時で暗くなる。

だから、槍沢沿いに槍沢ロッジに向かう計画としたのだが、それだとコースタイムは4時間なので午後1時にはここに戻って来られる。スムーズに歩けてお昼のメニューがあれば、槍沢ロッジで食べてくることもできる。キャンプ場に午後4時に帰れば、ゆっくりお風呂に入ることができる。

とはいえ、それは順調に歩ければの話なので、10分休んで出発する。横尾山荘の前を通って奥の標識、「槍ヶ岳」と書いてある方向へと進む。ここまでは登山道というよりも林道でほとんど平坦だったが、ここからは本当の登山道となる。

徳澤からしばらく、林間コースを歩く。やがて新村橋で、再び梓川沿いに出る。


徳澤から約1時間で横尾。手前の古い建物が営林署避難小屋。キャンプ場トイレ、公衆トイレと続いて、その奥が横尾山荘。ちらっと自販機が見える。


目の前の横尾大橋を渡って屏風岩に沿って進むと、涸沢へと至る。この日はここを渡らず横尾山荘前を槍沢方向に向かう。

 

横尾山荘から槍沢沿いに入る道は、これまでとは全く違った細い道なので最初はびびった。ただ、しばらく進んでも林間の平らな道だし、路盤には細かな砂利が敷かれて歩きやすいし、ちょうど槍ヶ岳方面から下山してくる大きなリュックの人達とすれ違ったので落ち着いた。よく見ると、奥多摩・丹沢の普通の登山道と変わりはない。

はじめのうち梯子や急傾斜があったが、その後は横尾までと同じ沢沿いの道で、違うのは道幅だけである。地面が簡易舗装をしたみたいに見える。これはおそらく地盤の関係で、安山岩系の細かな粒子が沢沿いの水分で固形化してしまったものと想像した。

左からは槍沢の水音が大きく響く。雪解け水で水量が増しているのだろう。来るまでは雪渓が残っているのではないかと少し心配したが、ここまでのところ残っているところはない。来る時にバスの運転手さんが、今年は雪が少ないと話していたことを思い出した。

右手は700~800m上に蝶ヶ岳から常念岳への稜線が続いているはずだが、傾斜の関係だろうか、100~200m上には空が見える。あそこが稜線だと思って沢を登って行くと、きっとひどい目に遭うんだろう。やがて、そこら中が水場ではないかと思えるくらい、森の中から水が湧いている場所に出た。

1/25000図では、横尾と一の俣の中間に位置するワサビ沢と書いてあるあたりである。地図に青線が描かれていないような細い流れだが、それだけ近くから湧いているということである。触ってみると、とても冷たかった。前日の徳本峠前の水場よりも、ずっと冷たい。

飲み水として補給するならこちらの方がかなり安心なように思うが、ガイドブックには水場とは書いていないし、この日は手持ちの水は十分ある。せっかくだが通り過ぎた。

ワサビ沢を過ぎて、再び槍沢沿いと林間を行ったり来たりする。傾斜はほとんどないので、かなり速く歩けているようだ。横尾から40分ほど歩いて、立派な橋を渡る。一の俣である。

橋を渡ったところが広くなっていて、「←槍ヶ岳 上高地→」という案内標が立つ。沢沿いに平らな石がいくつか置かれているので、ここで一休み。1/25000図をみるとこのあたりが標高1705mで、槍沢ロッジまであと標高差100m。ただし、最後に沢から50mほど登るので、そこがきついかもしれない。10分休んで出発。

一の俣を過ぎて、右手から山が崩れている落石注意の場所を通り過ぎ、もう一つ立派な橋を渡ると二の俣である。ここから先は、ずっと槍沢沿いを遡上する。

二の俣を過ぎて、とうとう対岸に雪渓が現れた。沢との合流点まで雪渓が下りてきて、そこで溶けて沢の水になっている。まだ6月なので山は暖かくなったばかり、よく見ると谷の上の方はずいぶん雪が残っている。

と言っていたら、沢のこちら側にも雪渓が現れた。杉の枯れ枝が積もっていて遠くから分からなかったが、下は雪であった。堅さを確かめ、乗っても崩れないところを慎重に通過する。幸い、沢のこちら側ではその1ヵ所だけであった。

もう少し歩いて小さな沢が合流するあたりを過ぎると、いよいよ槍沢ロッジに向けて沢筋を離れ、標高を上げていく。「もうすぐ槍沢ロッヂ がんばって!!」の立札が立つが、こういう看板の常としてもうすぐではない。石畳みの急坂を登り、階段状の道を登って、5~6分は歩かなければならない。

それでも、石垣と茶色い槍沢ロッジの建物が見えてくれば、あとはすぐである。10時35分槍沢ロッジ着。横尾からは1時間半、1/25000の間隔からすると、上高地から横尾までとそれほど変わらないくらいの速さで着くことができた。雪渓の場所を除き、危険個所もなかった。

 


横尾を過ぎるとにわかに道幅が狭くなり、ちょっとびびる。とはいえ、道幅が違うだけで横尾までと同じく沢沿いのなだらかな坂である。


一の俣、二の俣で橋を渡ると、いよいよ槍沢沿いの登り坂となる。雪渓が残っていることが心配だったが、幸いに1ヵ所だけであった。


1/25000図どおり、沢沿いから離れて少し急な坂を登ると、槍沢ロッジが見えてくる。かつて槍沢小屋はさらに上のババ平にあったが、雪崩の被害により現在地に建て替えられたそうだ。

 

槍沢ロッジは横尾から1時間半だから、上高地バスターミナルからは約5時間奥にある。槍沢を詰めて稜線に登れば槍ヶ岳で、あと4時間苦しめば天下の槍ヶ岳に達することができる。

今回は、槍沢ロッジで引き返して小梨平に戻ったが、この話をキャンプ場のスタッフさんに話したところ「どうせならババ平まで行けばよかったのに」という意見であった。ババ平という所を知らなかったのだが、帰ってから調べたところ、槍沢ロッジから1時間弱さらに登ったところ、以前槍沢小屋があった場所だそうである。

この旧・槍沢小屋は冬場の雪崩被害で現在の位置に移されたが、もともとの場所も河原が広く景色もいいので、現在もキャンプ場として利用されている。槍沢ロッジのスタッフにより水も引かれトイレも新築されて、なかなかいい場所のようである。ただ、この時は下調べが足りなくて、ババ平という地名さえ知らなかったのだ。

という訳で、この日の目的地である槍沢ロッジに着いた。時刻は午前10時35分。横尾から休憩を入れて1時間半だから、ほぼコースタイムである。

前日の徳本峠はかなり暑く感じたのだが、この日は沢沿いのためかそれほど暑さは感じなくて、むしろさわやかな風が流れていた。事前にWEBを見ると、ここ槍沢ロッジでは11時から昼食メニューがあるというのでそれを楽しみにしてきた。中に入るとこの時間でも大丈夫だったので、さっそくカレーライスをお願いする。

「中でも外でも食べれますよ」と言われたのだが、外だと小さな虫が寄って来るのでロッジの中にあるテーブルで待つ。

たいへんきれいな山小屋で、スタッフの人が掃除中である。みんな若い人だ。奥多摩・丹沢だと大抵おじさんの小屋番で、若い人というと奥多摩小屋の非常識小屋番(!)のようになってしまうのだが、こちらは若いのにみなさん礼儀正しい。これがあるべき姿とはいえ、うれしくなってしまう。

カレーライスは金属のお皿に乗っていて、1000円。メニューをみると牛丼や中華丼、焼き鳥丼もあって、すべて1000円均一である。食後は、インスタントコーヒーとポットのお湯が置いてあって、セルフサービス100円。これもまた気が利いている。

お昼ご飯を下から持ってくるのもおいしいが、こうして何時間も歩いた先に食べるものが置いてあるのもうれしい。横尾までは軽トラが入るが、もちろんここは歩荷とヘリのみ。沢がすぐ近くを流れているのは好条件とはいえ、山小屋のスタッフには頭が下がる。

おいしくカレーをいただいて、ロッジの前に出る。小屋の前が広くなっているのはヘリポートで、その奥へと登山道は続いている。そこに、三脚が立てられていて、添えられたカードに「槍が見えるよ」と書いてある。

備え付けてある双眼鏡をのぞくと、樹間からわずかに見える槍ヶ岳が拡大されている。肉眼でも見えるけれども、枝の間からわずかに穂先が望めるくらい小さくしか見えない。歩くとあと4時間、1/25000図では20cmほどなのに、ずいぶん遠くにあるのだなと思った。

そういえば、横尾から槍沢を遡る途中でも、方角的には谷の先は槍ヶ岳のはずなのだが、周囲の木々と岩に遮られて槍ヶ岳は見えなかった。ここまで来て、双眼鏡越しとはいえようやく間近に見ることができた。今回の遠征の締めくくりにふさわしい情景であった。

帰りは横尾まで1時間半、その後もそれぞれ1時間の林道歩きで徳澤、明神と通過し、15時半に小梨平キャンプ場に戻った。その日の夜中から大雨になったのだが、夕方の時点では風もなく天気もよく、テント泊最後の夜をのんびりと迎えたのでした。

この日の経過
小梨平キャンプ場 5:40
6:20 明神 6:25
7:25 徳澤 7:40
8:45 横尾 9:05
9:50 一の俣 10:00
10:35 槍沢ロッジ 11:10
12:35 横尾 12:45
13:45 徳澤 13:50
14:40 明神 14:50
15:30 小梨平キャンプ場
[GPS測定距離 27.6km]


槍沢ロッジでカレーライスの昼食。ここまで登って食べるカレーライスはおいしい。


ヘリポートには双眼鏡がセットしてあり、覗くと「槍が見えるよ」。


木々の間からうっすらと槍の穂先が見える。実際に目にするともう少し近くまで行ってみたくなる。