089 HBO、ボクシングから撤退 [Oct 2, 2018]

米国の大手ケーブルテレビ局HBOが今年いっぱいでボクシングから撤退することを発表した。

アメリカのことだから、儲けにつながるのであれば手のひらを返すことなど平気で、このまま撤退となるのかどうかは分からない。ただ、個人的には、ボクシングがビッグマネーを生み出してきた時代が終わったという感慨を持っている。

振り返ると、2015年に行われたメイウェザーvsパッキャオに200億円を超える巨額のカネが動いたこと自体異常で、しかもあの試合内容を見せられて、ボクシングの隆盛も長くは続かないと感じていた。

チューリップの球根でもバブルの不動産でも、実際の需要に裏付けられない価格の上昇はいつかは止まる。あの戦いを中継画面で見るのに1万円払うという人が全世界であっても200万人いるとは思えない。となれば、このマーケットが近々はじけることは避けられなかった。

(現地で見るということなら10万円でも出す人は多いだろうが、MGMグランドで1万人、ウェンブレースタジアムだって8万人位だろう。桁が違う。)

ではなぜ、これだけの価格上昇が起こったかと言うと、「ライバル局はいくら出す、インターネットTVはいくら出す、あなた方はいくらまで出せるのか」という他者(マネー・メイウェザー?)の思惑で吊り上げられたのである。となれば、他にカネの当てがなければ、撤退するのが最も理にかなっている。

実需に基づく低予算で制作したのがSUPERFLYシリーズだったが、Ⅲは過去最低の視聴者だったという。確かに、チョコラティート・ゴンサレスを売り出すはずのシリーズがシーサケットにKOされ、そのシーサケットすら確保できずにエストラーダや井岡を出すようでは視聴者を誘引できないのも無理はない。

1980年代以降、レイ・レナード、マイク・タイソン、デラホーヤと続いたスター達には確かにオーラがあった。JCチャベス、ハメド、トリニダードといったルーツの異なるスターもいた。しかし、パッキャオ、メイウェザーにそこまでの魅力はない。まして、現時点で最大のスターであるカネロ・アルバレスにはドーピング疑惑があり、近い将来、すべての記録が抹消されないとも限らない。

振り返ってみると、モハメド・アリの全盛期が終わり、不人気のラリー・ホームズがヘビー級を席巻していた時期と、タイソン、ホリフィールド、レノックス・ルイスが退場してクリチコ兄弟が無敵だった時代には共通する要素がある。前者にはあって後者にはないものが、以前「わくわく感」という言葉で表現したこと、胸を躍らせる期待感なのである。

もともとボクシングは試合時間が約1時間と手頃であり、中継予算も野球やバスケット、アメフトに比べてかなり少ない。それは、中継機材(カメラやスタッフの必要数)という意味でもそうだし、出演料を払う対象が少なくてすむ(2人だ)という意味でもそうだ。そのため、TV草創期からキラーコンテンツの一つであり続けたのである。

とはいえ、ボクシングの本質は殴り合いであり、コンテンツとしてすべての人に好まれる訳ではない。そして、スポーツとしての公平性を確保するには階級制にせざるを得ないが、本来は体重無差別・時間無制限で戦うのが格闘技である。時間を区切り体重を制限するのは、ある意味「方便」なのである。

最近WOWOWでもよく聞くのが、「ボクシングとしてはこれでいいけれども、お客さんを呼ぶためにはKOを狙わなければならない」的な意見であるが、これなどは、スポーツとも格闘技とも離れて、ボクシングをカネ儲けに使おうということである。私はスポーツ・格闘技としてボクシングを見るのであって、他人のカネ儲けに興味はない。

今回、HBOがこのまま撤退したとしても、SHOWTIMEやDAZNがいるので、すぐにはボクシングバブルがはじけることはないかもしれない。しかし、ひとたびピークを越えれば後は下り坂になるのが世の常である。これから先、ボクシングは長い低迷期を迎えることになりそうだ。

そして、個人的に一番寂しいのは、マイケル・バッファーのリングアナウンスを聞く機会が少なくなってしまうことである。とはいえ、ヨーロッパでもロシアでもバッファー人気は絶大だし、ご本人もいい歳なので出場機会が減ってもあまり苦にはしないかもしれない。間違っても、ドサ回りで日本になど来ないでほしい。うれしいより先に、悲しくなる。

[Oct 2, 2018]