092 ブロンズ・ボマーvsフューリー [Dec 1, 2018]

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ(2018/12/1、LAステイプルズセンター)
Oデオンティ・ワイルダー(40戦全勝39KO) 1.7倍
  タイソン・フューリー(27戦全勝19KO) 2.4倍

ボクシングが以前ほど面白くなくなった。以前も書いたけれど、対戦カードを見ただけでわくわくすることがほとんどない。これは歳とって私の感受性が鈍くなっているせいばかりとは言えないような気がする。

「バウンド・フォー・パウンド」ロマチェンコの相手がジャボンテ・デービスに手も届かなかったペドラザではがっかりだし、パッキャオvsブロナーも4~5年前ならともかく今更賞味期限切れという感じである。スペンスvsマイキーは興味深いけれども、GGGvsブルックと同じで勝敗が見えている。

井上のWBSSも作られたトーナメントであり、本当はウェルター級こそああいうトーナメントを組んでほしいが、ファイトマネーの安い階級でしかできない。2018年時点で私がわくわくするカードをあげてみると、クロフォードvsスペンス、マイキーvsロマチェンコ、井上vsリゴンドーといったところだが、いずれも望み薄である。

今週のワイルダーvsフューリーも、ヘビー級でも超大型に属する二人の対決であるから迫力満点といえるのかもしれないが、それほどわくわくしない。そもそも、戦うだけで他に言葉がいらないのなら、あんな芝居じみた場外戦はいらない。

心技体ともさまざまの問題があって引退していたフューリーが今年に入って復帰、2戦の調整試合を経て今回のタイトルマッチとなったが、破壊力抜群のワイルダーと戦うには不十分である。判定とはいえクリチコに勝っているから資格は十分とはいえ、勝負になるかどうかは別問題で、しかも引退前からそれほど強かった訳ではない。

フューリーが煽っているけれども、白熱した一戦になる確率は半々だと思っている。というのは、クリチコ戦から2年半のブランクを作ったフューリーがかつての出来に戻ったという保証はないし、そもそもアメリカ西海岸でやるということからみても、「昔の名前」を使って一儲けという意図にしかみえないからである。

ヘビー級の中でも大型で、一発当たればKO必至であっておかしくないのに、フューリーのKO率は70%。97%のワイルダーに劣るのはともかくとして、前戦のピアネッタ判定、ケビン・ジョンソン判定、デリック・チソラ第一戦判定となると、決定力に不足しているとみられるのは仕方がない。

大型選手らしからぬスピードとフットワークがあるとされているけれども、私が見るところジョシュアよりもかなり遅いし下手だ。大型選手というとニコライ・ワルーエフを想像するから早く見えるけれど、いまや2m超で早くて巧い選手はジョシュアに限らない。

対するワイルダー、ラストラウンドまで行ったのはスティバーン第1戦だけ、他はすべてKO決着である。スティバーン第1戦もスタミナ切れを心配したのか勝利最優先で慎重に戦ったので判定となったが、最初から飛ばせば第2戦のようになっただろう。

世界チャンピオンだと相手も世界ランカーになるから、以前のように両腕振り回して大暴れという場面は少なくなりつつある。だが、そもそもああいうことができるのは体のバランスとスタミナに自信があるからで、スティバーン第2戦やオルティス戦ではそういう動きも垣間見せた。

見た目と違って慎重なので、チャンスとみなければ大振りしないだろう。そして、フューリーのパンチを直撃されてもオルティスほどの破壊力はないから、普通に打ち合いをしていればフューリーの方にダメージが蓄積される。

そして、フューリーが以前の状態に戻っていればともかく、そうでないとすると12R動けるだけの体力はないのではないかという懸念がある。どこかで効いてしまうと、その後はワイルダーに一気に決められる可能性が大である。

ワイルダー序盤KO勝ちが7割、フューリーが万全の状態であれば後半まで行くかもしれないが、それでもワイルダーの勝ちは動かないと予想する。

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ(12/1、LAステイプルズセンター)
デオンティ・ワイルダー △ 引分け(1-1) △ タイソン・フューリー

私の採点はジャッジの一人と同じ115-111ワイルダー。だから引分け判定はかわいそうなところもあったけれど、後半あれだけ追い込まれては仕方がない。

それよりも、ジャック・リースが2度のダウンで2度とも20秒近くインターバルをとっていたのは不公平であった。特に12Rのダウンは、10カウントの時点でファイティングポーズをとっていないのだからカウントアウトしてもいいケースで、立つのを待ってさらに足が動くか確かめる時間は必要なかった。

もしあの数秒がなかったら、ブロンズ・ボマーが追いこんでいたのか、あるいはフューリーの反転攻勢が決まっていたのかは分からない。だが、少なくともフューリーにとって、安全確保以上のアドバンテージがあったように思う。

試合前には白熱した試合になる可能性は半々とみていたが、実際フューリーの腹の皮のたるみ具合をみる限り、ブランクの間に相当不摂生をしたことがうかがわれた。高柳アナが「160kgあったらしい」と話していたが、それは事実だろう。

だから、フューリーにはブランクの影響があったのは間違いない。にもかかわらずあれだけ白熱した試合になったということは、フューリーのもともとのキャバシティがきわめて高いことと、ワイルダーの側に戦略のまずさがあったのが原因のように思える。

ワイルダーがスティバーン第一戦のように勝負に徹し、左ジャブとボディ打ちで地味に削って行けば、もう少し楽な試合ができただろうと思う。しかし、そこはフューリーのインサイドワークで、試合中にもかなりいらつかせていたから、大振りの空振りでワイルダーが自らスタミナをなくしていた。

実際のスコアカードをみると、2Rから5Rまで連続でフューリーに付けているジャッジが2人いて、これはないだろうと思う。その各ラウンドはフューリーが攻勢をとったというよりも、ワイルダーが空振りしたところをカウンターを1、2度決めただけで、手数を出してラウンドを支配していたのは圧倒的にワイルダーであった。

ジャッジがきちんと見ていたのかはさておき、実際のところ12Rでダウンをとらなければフューリーの勝ちだった訳で、その意味でブロンズ・ボマー起死回生の右ストレートであった。返しの左フックももろに入ってあれを立ってくる選手はいないはずなのに、フューリーは立ってきた。しかラウンド後半には立て直して反撃したくらいである。

この点は、フューリーの身体能力を認めざるを得ない。8、10、11Rとクリーンヒットを奪いながら二の矢、三の矢を出せない決め手のなさは大型選手にありがちな情けないところだが、あのダウンから立ってくる選手はここ数十年では思いつかない。

かつて、レノックス・ルイスがハシム・ラクマンに大番狂わせのKO負けをした時、「ヘビー級だから、もろに当たれば倒れるさ」と答えたのを思い出した。それを立ってくるというのは、フューリーの身体能力がそれだけ図抜けているということで、人間離れしているともいえ、ある意味恐ろしいことである。

インタビューでは再戦云々で盛り上がっていたが、ワイルダーの「ファイトマネーがよければ、どこでもいいぜ」というのは微妙。ワイルダーにとって、リスクの割にファイトマネーがそれほどよくなかったという印象を受けた。ジョシュアならともかく、フューリーでそこまでビッグマネーという訳にはいかないのだろうか。

あと、浜田さんが「フィーリー、フィーリー」と連呼していて、最初は「フューリー」と言っていた西岡まで「フィーリー」と言ったのには笑った。やっぱりフューリーでしょう。

[Dec 2, 2018]