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271 早瀬恵一「大本襲撃」 [Jun 15, 2022]

国松警察庁長官狙撃事件で、結果的に公安が事件解決の妨げとなったが、その源流ともいえるのが戦争前の特高警察の国策捜査である。

この本は平成に入ってからの著作なので、新事実や違った観点からの考察があるかと期待したのだが、残念ながらそうしたことは何も書かれていない。

そもそも、この本はどういう読者層を想定して書いているのだろうか。まさか、大本教団の広告宣伝のために書かれたのではないと思うけれども、絶対そうでないとは言い切れない。

極貧の家庭に育ち、口減らしのため小学校低学年の年齢で奉公に出た出口なお(開祖)。父が倒れ母が必死で暮らしを支える中、姉に続いて母も神がかりとなる。「お母もとうとう気が狂ったとみえる」と言われたところからすぐに教団ができてしまうから、読者にとって唐突な展開である。

治安維持法で弾圧を受けたのは特高による国策捜査だという論調だが、なぜ、2.26の反乱グループが大本に資金提供を求めたのか、なぜ、強制捜査に向かう京都府警が皆殺しに遭うかもしれないと緊張したのか、読者には何も背景が説明されない。

当時の大本がオウムのような過激な団体ではないと言いたいのは分かるが、それを具体的に裏付けてもらえないと読者は納得しないのである。

二代教主・出口すみ子が、強烈なキャラクターである母・出口みき、夫・出口王仁三郎を支えて教団の維持発展に寄与したことは分かるけれども、それだけで教団は大きくならない。何が信者を魅了したのか、時代性か、地域性か、そのあたりの説明がほしい。個人的には、教団の成長にはマルチ商法的要素が絡んでいることが多いと思う。

この本の主たるテーマではないけれども、特高警察による容疑者の取り調べ(拷問)がいかにひどいものだったかは、改めて認識しなければならない。

著者は、特高の課長が大本を訪問していたとすれば、王仁三郎や教団幹部と意気投合していたかもしれないとお気楽なことを書いているが、そんなことはありえない。

課長程度は国家権力からすれば下っ端もいいところで、命令されたことをするだけの存在である。だから、拷問でも何でもして裁判にまで持っていくのが仕事である。課長が手心なんて加えられないし、したら更迭されるだけのことである。

(合気道の開祖・植芝盛平も大本と関係があったが、彼の場合は軍隊・警察上層部と直接のつながりがあったので、連座を免れた。)

二代教主が獄中でゴキブリを話し相手にしていたとか、ほとんど大本事件とは関係ないことである。もっと重要でかつ今日でも考察しなければならないのは、大本教団の壊滅を図った国策捜査は必要だったかということである。

結果的に、裁判(それも戦前の)で治安維持法違反については無罪となり(不敬罪は有罪)、教団は今日でも存続しているのだから、必要なかったし実際壊滅できていないから失敗なのだけれど、「起こってもおかしくなかったことが、なぜ起こらなかったか」について、著者は考察していない。

最初の繰り返しになるけれども、この本が大本教団に買ってもらう目的で書かれた疑いをぬぐいきれないのは、そこが原因である。

[Jun 15, 2022]

毎日新聞出身の著者なので期待したのだけれど、新たな事実や違った観点からの考察はほとんどありませんでした。ジャーナリストだからといって、面白い本が書ける訳ではないみたいです。