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175 橘玲「スピリチュアルズ」 [Jul 6, 2022]

橘玲(たちばな あきら)の本は何度か紹介しているが、ものの見方・考え方が多角的で、最新の知見をフォローしている点が読んでいて楽しいところである。

この本は、近年のトピックであるトランプ大統領選勝利、イギリスのEC離脱国民投票可決という事件の背景に、インターネットのビッグデータを使った広報戦略があったことから話を始めている。

人間の性格は曖昧模糊とした複雑なものであり、単純化することなどできないと以前は考えられていた。ところが「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる5つの要素でほとんどが説明できるというのである。

確かに、広報戦略という点では、この5つの要素さえ押さえればあとは些細なことだというのは分からないではない。しかし、橘玲自身が、ビッグファイブは異なる要素をひとつにまとめているのが不満で、本書では8つに拡大して説明している。説明のたびに拡大していては、「ビッグ・ファイブ」とはいえない。

数であれば5進法でも8進法でも、10進法でも16進法でもいくらでも表現することができる。だから、5つの要素で何かを説明することはできるだろう。しかし、リンゴ1個とみかん1個が違うように、すべて数の概念で表わせる訳ではない。

「ビッグ・ファイブ」が重視されたのは、資源というのは有限で、広告費にも広告期間にも制限がある。その中で、5要素でセグメントすることにより、最大の効果を期待できるところにあったからだと考える。

とはいえ、この本を読んで再認識したことがある。内向的/外向的というのは、最新の知見では刺激に対する反応が鋭敏かそうでないかと同じ意味だという。

例えば舌の上に果汁を一滴たらして、どのくらい唾液が出るかというきわめて即物的な方法でそれは判断できる。つまり、内向的/外向的というのは体質の問題なのだ。

体質の問題であれば、薬品を使うことにより変えることができるはずであり、実際にできる。同様に、ある性格はホルモンバランスによるし、ある性格はドーパミン受容体の遺伝子構造による。性格というものは、体質と同じことなのだ、

そうなると、以前書評で触れたいくつかの本にあるように、そもそも心とか精神とは脳の働きに過ぎないし、精神の病気は体の病気に他ならないということである。

あと、読んでいて気になったのは、この著者はベキ分布という言葉が好きでよく使うのだけれど、私が若い頃あまり使わなかった言葉なので違和感がある。正規分布とまったく違うものだという説明なのだけれど、正規分布を2乗するとカイ2乗分布で、これはベキ分布のひとつである。

つまり、正規分布とベキ分布はまったく違う分布ではなく、ベキ分布のひとつが正規分布なのである。一つの要素だけでアウトプットが決まるなら正規分布になるだろうし、2つ以上になると正規分布にはならない。要素が多ければ多いほどロングテール、つまり分布が極端になるのである。

[Jul 6, 2022]

帯に書いてある「私もあなたもたった8つの要素でできている」という訳ではないと思いますが、最新の脳科学の知見を分かりやすく説明した本です。個人的には、性格とは体質そのものだということが再認識できたのが収穫。