統一地方選挙で、連日騒がしくて仕方ない。わが千葉ニュータウンは比較的人口が少ないせいか国政選挙や県知事選挙ではほとんど選挙カーが回ってこないが、県議会議員選挙で少し増え、市議会議員選挙になると何人も名前を連呼するのが恒例である。まあ、民主主義のコストだと思ってがまんする他ない。
その統一地方選挙前半では、大阪府知事・大阪市長・大阪府議会・大阪市議会の選挙が行われ、いずれも大阪維新の会が完勝した。なにしろ、府議会でも市議会でも自民党の議席より公明党の議席が多く、さらに圧倒的過半数が維新なのだから驚く。にもかかわらず大阪都構想は2度にわたって否決なのである。
伝統的なアンチ体制・アンチ東京(江戸)気質だけでは片づけられない何かがあるように思うのだが、よく分からない。少なくとも、大阪の住民は大半が政治信条や公約の中身で投票していないことは確かである。以下は、2015年5月の記事。
—————————
SUB:大阪都構想はなぜ敗れたか
数年前から橋下大阪市長・前大阪府知事・維新の会代表が強く主張してきた大阪都構想。5月17日に行われた住民投票の結果「反対」票が上回り、一応の決着をみた。選挙のたびに橋下市長に票を入れてきた大阪市民だが、最後のところで歯止めがかかったというところだろうか。もしかすると、「賛成」ではなく「橋下」と書かせれば通ったかもしれないが。
この結果については、例の本を読んで以来うすうす見当はついていた。わが国において、米軍の虎の尾を踏んだ政治家は、けっして長続きしないのである。田中角栄しかり、細川護熙しかり、最近では鳩山「宇宙人」由紀夫しかり。米軍の機嫌を損ねると、いかに集票能力があろうと、大衆に人気があろうと、血筋や係累、後援者に恵まれようと、ダメなのである。
ただ、今回の橋下氏については、日米間のサンクチュアリに踏み込んだというよりは、米国の実力を侮って無礼な発言をしたということにとどまるので、米国(ないしその意図を忖度する人達)がそこまでやるかという疑問符は残っていた。ただ、住民投票が近づくにつれて、首都圏=東京ではほとんどこの話題はスルーされていたので、ああ、これはメディアに何か暗黙の指示があったのだろうなと推測された。
(全然違う話だが、米軍内にはその手の施設は必ず内製化されているはずである。生活関連施設のすべてが基地内にあるのに、それだけないはずがない。それに、飛田だの松島だの、合法か非合法かグレイな施設を持つ大阪の首長に、そんなことを言われる筋合いはないと思うだろう。)
案の定、この結果である。考えてみれば、橋下氏は大阪府知事になる前から終始一貫、「大阪都構想」を公約に掲げていた訳だから、これまで橋下氏を受からせておいて(あえていえば議会でも維新の会に多数の議席を与えておいて)、今回に限り一転して「反対」に回るというのはおかしい。さすがに選挙で不正は行われていないだろうから、そこには何かこれまでとは違う要因があったはずである。
その第一は、やはりメディアだろう。大阪でどの程度盛り上がったのかはよく分からないが、東京では完全スルーだったのは上に書いた通り。少なくとも、全国版では大きな記事にならなかった(前日土曜日の読売一面は「上場企業の利益、過去最高」)。もともと浮動層が支持基盤という橋下・維新にとって、盛り上がらず投票率が上がらないということは致命的である。
第二に、公明党・共産党が相当な引き締めを行っただろうと思われることである。橋下維新の主張する二重行政とは、住民にとっては府と市からそれぞれ行政サービスが受けられるということである。この両党が庶民に強固なネットワークを有するのは、そうした行政サービスへの「口利き」が主たる源泉であり、これらを見直されることは望ましいことではない。
当然このことは自民党についても同様であり、二重行政によりハコモノの建設が見直されることは、支持基盤であるゼネコンとその下請け業者を直撃する。本気で抵抗しなければならないことなのである。
第三に、橋下氏に限らず、体勢を批判しているうちは恰好がいいけれども、実際にやらせてみたら大したことはできないということをみんな分かってきたということである。これはつい数年前まで村山とか菅直人が身をもって示してきたことなのだが、若くてスマートで威勢がいい分長持ちしてきたものの、そろそろ賞味期限切れということであろう。
今回の「大阪都構想」についても、職員の賃下げや既得権益を取り上げている間は喝采を浴びたが、それによって大阪府・大阪市の財政が劇的に改善したという話は聞かない。「大阪都構想」による経費節減効果とされるものが、実際には交通局の民営化とか、職員の削減によるものであり、それならいまの制度の枠内だってできるじゃないかということなのである。
まあ、小難しい理屈はともかく、これまで「おもろいやないか」で橋下に投票してきた人達が、実際に自分達の懐に響いてくる話だとようやく分かって、今回の結果となったという構造がみえてくる。そして本来であれば、そもそも彼が出始めた頃からそう指摘して熱を冷ますべきメディアが、誰かに指示されたのか今回一斉に無視するまで、よいしょして視聴率を稼いできたのだから、穏便におさまってよかったと喜んでばかりもいられないだろう。