063 浅間嶺 [Oct 1, 2017]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

さて、この秋2度目の山である。お遍路の13泊14日が控えているので日帰り圏で考えたいところだが、前回の本仁田山で朝の電車乗り継ぎが難航するのには懲りた。前泊することも考えたが、それよりも最短経路で現地入りした方が安いし手間もかからないし、荷物も少なくて済む。天気がよくなりそうな週末だったけれども、休日パスは使わずに北総線と武蔵野線で西に向かう。

すると、南浦和あたりで車内放送が言うことには、今しがた西日暮里で人身事故が起こり山手線・京浜東北線は運転見合わせ中らしい。休日パスで都心に向かっていたら、またもや乗り継ぎがうまくいかないところであった。おカネの多寡よりもストレスの多い少ないの方が大切である。

武蔵野線は特に影響なく西国分寺へ。立川から拝島を通って武蔵五日市に着いたのは2017年10月1日日曜日の午前7時40分。すぐに来た藤倉行き西東京バスに乗り、8時過ぎには登山口である払沢の滝バス停に到着した。

歩き始めたのは8時15分で、前回とはほぼ1時間違う。そのせいか電車疲れもほとんどなく、快調に歩を進めることができた。移動時間が3時間と4時間ではえらい違いだと実感する。天候は晴れ、風もほとんどない。朝、家を出る時には肌寒かったけれど、日が昇って暑いくらいになった。

バス停からは払沢の滝方向の標示に沿って進み、途中で右手に分かれて浅間尾根方向に折れる。車も問題なく通れる舗装道路だが、傾斜がかなりきつい。昨年歩いた陣馬高原下から和田峠とよく似ている。違うのは30分ほど歩いたところに集落があり、洗濯物も干してあって人がいることは間違いないことであった。ずっと鳴らしていたクマ除け鈴を握って、静かに通り過ぎる。

集落を過ぎると、道はさらに傾斜を強める。依然として舗装道路であり、電柱もずっと続いている。しかも3相3線の電線とNTTの電話線のフルセットである。この先に何か大きな施設があるのだろうか。1/25000図を見ると車の通り抜けはできないようなのだが。

40分、50分と林道を登って行く。だんだん、向こうの山並みが見通せる高さまで上がってきた。方向からいって、これから向かう浅間嶺かその前の松生山か、いずれにしても平らな山頂が特徴的な山である。あそこまで行けば、待望のなだらかな尾根歩きが楽しめそうである。

林道を峠まで登ると、右から道が合わさってきた。標識によるとそちらが「関東ふれあいの道」で、林道からふれあいの道への分岐を見逃したようである。合流点の少し先に「峠の茶屋」というお店があり、3相3線の電線と電話線はここまで続いていた。しかし残念ながらこの日は営業しておらず、見たところしばらく開いた形跡はない。

峠の茶屋から少し林道を歩くと、水車のあるそば店がある。ここも「本日休業」の札が下がっていたが、この本日というのはいつからの本日なのだろうと思うくらいひと気がなかった。閉じられた門の奥にはテーブルや椅子が寂しく置かれていて、水車だけが山から引いてきた水で動き続けている。断続的に「ぎいっっ」と音がするのがもの悲しげに響いた。

そば店から先、道はいよいよ谷沿いの登山道になる。かつてこの浅間尾根は江戸・甲州間の物資運搬に使われたといわれるが、確かに足下はずっと石が敷いてあって長年使われた道であることが窺われる。ただ、大きな荷車とかが通れる道幅ではなく、傾斜もけっこう急だ。

この道は払沢の滝上流の谷川を詰めていく道なので、かなり上まで水流があってじめじめしているし、深い谷なのでうす暗い。こういうところはやばいなと思っていたら、道の真ん中を蛇が横切って行く。その先には信じられないくらい太いみみずがいる。一休みしたいくらい急傾斜が続いたのだけれど、とても立ち止まれるような場所ではなかった。

相当長い時間緊張して登ったような気がしたが、帰ってからGPSを調べると30分ほどのようだった。ようやく峠の地形が見えてきて明るくなり、尾根上に出た。正直なところほっとした。ひとまずリュックを下してひと息つく。座るところこそないけれども、蛇やみみずがいないだけでもありがたい。


時坂集落から時坂峠の方向を見上げる。陣馬高原下から和田峠への登りを思い出した。


関東ふれあいの道の標示を見逃したらしく、ずっと林道を登って行く。峠の茶屋までもうすぐ。


峠の茶屋まで電線は通っていますが、残念ながら営業していません。

後から1/25000図を見てみると、尾根に出たのは750mの等高線のあたりのようだ。標高650mくらいまでは川の表示はないものの結構な水流があって、蛇やみみずの出現する危険地帯となっていたのである。こわかったからとはいえ、時坂峠550mくらいから休みなしに200mの標高差を登ったのだから大したものである。

ここからは浅間尾根の尾根道なのだが、実際は中腹のトラバース道である。谷から登ってきて次第に進路を西から南に変えるので、明るくなってきた。そして、さほどの標高差を感じさせない。なだらかな坂を歩いていくと、浅間嶺まで400mの標識が現れた。まだ10時半にもなっていない。

今回は人里峠から人里バス停に下る予定にしていて、このルートの所要時間がガイドブックに書いていない。おそらく1時間ほどだろうから、人里峠を12時ちょうどに通過すれば1時半のバスに十分間に合うと計算していた。しかしその1本前は1時間半前なので、いくらなんでもそれには間に合わない。これは、相当のんびりできそうだ。

浅間嶺の休憩広場に到着したのは10時半。払沢の滝バス停からは休憩時間を含んで2時間15分で到着した。これはガイドブックのコースタイムより早いくらいで、前回本仁田山で大苦戦して途中で撤退したことを考えると大成功である。

休憩広場は百人くらい座ってもまだ余裕があるくらい広くて、東屋とベンチ、トイレもある。その時間にはまだ誰もいなかった。きれいそうなベンチを選んで座り、久しぶりにEPIガスでお湯を沸かす。時間があったらお湯を沸かすのも今回のミッションの一つで、実はこのボンベを使うのも2年振りである。無事お湯も沸いて、インスタントコーヒーを淹れる。

コーヒークリーム入りコッペパンを食べながら、温かいコーヒーをいただく。風もなく、天気もよく、言うことのない山日和である。それにしても、こんなに広い土地が必要なほど、かつては人が来たのだろうかと思った。

お昼を食べ終えて、背後にある浅間嶺頂上に向かう。こちらには先客がいた。私と同年配のご夫婦である。こちらにもテーブルとベンチが備え付けてあるが、広さは下の広場よりかなり小さい。しかし展望はまさに雄大という他にない。

右手に大きくそびえるのは、大岳山である。そこから右に下りてきている尾根が馬頭刈尾根、逆方向の尾根は最後に突起のようなピークがある。鋸山である。ついこの春に大岳山から鋸山まで歩いたが、なるほどなかなか着かなかったのも道理で、相当の距離があるように見える。

鋸山のすぐ左手前に小高いピークがあり、そのピークから尾根続きに大岳山と同じくらいの高さの山につながっている。御前山と湯久保尾根である。御前山の向こう側に奥多摩湖があるはずで、御前山のさらに向こうに薄く見えている山並みが、石尾根のはずである。

そして、御前山の手前の谷間や山腹のあちこちの森の切れ間に、小さな集落がいくつか見える。藤原や倉掛といった集落だろうか。ずいぶん山の中にも人家のようなものが見える。今回は時間に余裕があったので、山頂でずいぶんゆっくりすることができた。


尾根に出てからはなだらかな登りが続く。このくらいの道だとすごく安心する。


浅間嶺頂上から北は展望が開けて見事。左奥が御前山、手前に湯久保山と湯久保尾根、右奥にちらっと鋸山。

浅間嶺下の休憩園地。東屋とトイレもある。奥の斜面を左に登ると浅間嶺頂上。

結局、浅間嶺で小一時間ゆっくりして、先に進む。浅間嶺から関東のみちは上川乗に下りて行くが、今回選んだのは人里峠から人里へのルートである。 人里と書いて「へんぼり」と読む。立地的には人里というよりは山里といった方がしっくりくる山の中の集落である。

浅間嶺から人里峠への尾根道は、まさにこれがなだらかな尾根道という感じであった。急傾斜もなく、右手には御前山に続く雄大な山並みを望み、こういう尾根道ならいつまでも歩いていたいと思うような道だった。途中、ひときわ景色の開けているあたりで、巨大な望遠レンズをセットしてカメラを構えているグループがいた。

聞くとはなしに話を聞いていると、向こうの山からパラグライダーか何かで下りてくるところを撮影したかったようで、「しばらく前に下りました」「全然気が付かなかった。見逃したかな」などと話していた。その少し先が人里峠である。この先尾根道は数馬分岐を経て風張峠というところまで続いているのだが、そちらに進むと1時間半くらい下りる道がなさそうなのだ。

人里峠から下る道はガイドブックにあまり記載がないルートなので心配したのだが、最近下草を刈ったようで歩きやすい。そんなことを思っていると林業標識が出て来て、平成28年度というから昨年度に間伐等の作業をしたようである。どうりで道がよく整備されている。

15分ほど進むと雑草が道をふさいでいる状況となり、さすがにここまでは草刈りできなかったのかな、と思った。さらにスイッチバックで標高をどんどん下げていくと、意外に早く人工物、納屋の屋根のようなものが見えてきた。人里峠からまだ30分も下りていない。ここから集落か、これは早く着きすぎるかなと思って下りて行くと、確かに民家である。

民家なのだが、門注のところに注意書きがしてあって「平成29年8月13日、ポツンと一軒家で放送された一軒家です」とある。ポツンと一軒家は見たことがある。私が見た回は、キャンプ場の近くの山の中にアトリエ兼の別荘を建てている芸術家だったが、Googleマップで一軒家を探して訪ねて行くという番組である。ここも放送されたようである。

様子をみるとこの日は誰もいないようだったが、「ご自由にお休みください」と書いてある。なんと急勾配の林の中を電線がつながっていて、東京電力のメーターはデジタルのスマートメーターになっていたから、つい最近も人がいるということである。よく見るとすぐ下まで車も通れる幅の道がつながってきているが、もちろん舗装はされておらず雑草が伸びている。

庭にはレジャー用のベンチが置かれていて、目の前は笹尾根と説明書きがある。標高は700mほどなので、人里峠844mから150mほどしか下りてきていない。庭の奥には400年前から引いているという水場からの水が盛大に出ている。前回の鳩ノ巣林道に引き続き、ありがたく顔を洗わせていただく。

建物の庭に面した側は長さ10mほどはあり、小屋というよりも立派な家である。築100年ほど建っているということで、かつてはここで一家族が暮らしていたのかもしれない。ただ、おそらくは住民はお年寄りで(ポツンと一軒家の住民はみんなそうだ)、食糧を調達するにも病院へ行くにもこの山中では無理だ。急に駆けつけようにも救急車では無理な道である。

時間もあるので、庭のベンチに座らせていただき、笹尾根を望みながら考えた。奥多摩でいうと、丹波天平の高畑集落もそうだし、石尾根の絹笠集落もそうだけれど、かつて林業が盛んだった時期には山に近いところに住まないと仕事にならなかったはずだ。ところが現在では、こういう場所に住むこと自体が難しくなっている。

百年前のように、薪を焚いて燃料にし、排水は畑で有効利用という訳にもいかない。水は自己責任で湧水を利用するとしても、雑排水はどうするのか。奥多摩のように山の下に水源があるような地域では、合併処理槽という訳にもいないだろう。となると、人々が昔の生活に戻らない限り、こうした一軒家はいつかは使われなくなるのである。

しばらくゆっくりした後、再び山を下る。太い道はかなり迂回しているようだったので、標識にしたがって登山道を下る。それでもかなり標高の高いところから人家があって、急な坂道を人里バス停のある谷沿いまで下りて行ったのでした。

浅間嶺から人里峠は気持ちのいい尾根道。右手の植林は多く伐採されていて、谷を挟んで御前山を望みながら歩く。

標高700mほどにポツンと一軒家。林の中から電線が上がってきている。所さんの番組で紹介されたそうだ。

ポツンと一軒家奥の水場は、400年前から引かれているという。この日は水量豊富で、前回に引き続き顔を洗わせていただく。

この日の経過
払沢の滝入口バス停 8:15
9:05 時坂峠 9:15
9:50 750mの尾根 10:00
10:30 浅間嶺 11:15
11:35 人里峠 11:35
12:05 ポツンと一軒家 12:25
12:50 人里バス停
(GPS測定距離 9.3km)

[Oct 23, 2017]

062 本仁田山(撤退) [Sep 9, 2017]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

例年通り虫と蜂の多い夏の期間は山歩きはお休みで、9月の声を聞いていよいよ再開の機運が高まってきた。2017年の夏は暑い日が比較的少なくて、8月終盤から30℃を超える日があまりなくなった。加えて朝晩が涼しいので、山に行くにはなかなか良好なコンディションである。唯一気になるのは、ウィークデイが雨模様で土日が好天という天気予報である。

せっかくリタイアしたので人の少ない平日に行ければいいのだが、かといって雨が降る中を歩くのは気が進まない。そして、土日であればJRの休日パスがあるので、都心を往復する値段で奥多摩まで行って帰って来られる。人が多くても安いならがまんしようということで、9月9日の土曜日に行く計画を立てた。

当初の計画は、おくたま1号で奥多摩まで行って、安寺沢集落から本仁田山に登り、コブタカ山、大根山ノ神を通って鳩ノ巣に下りてくる予定であった。ところが、休日パスを使うものだから成田線経由で都心に向かうことになり、そこまではよかったのだが山手線が遅れている。それも、駅に表示があれば神田から回る手もあったのに、表示もないのに遅れているのである。

それだけでなく、後の電車との間隔調整とか言って余計に停車するものだから、結局おくたま1号には間に合わなかった。休日パスを使わなければ普通に北総線で十分に間に合った(朝一番ならおくたま1号より早く着く)のに、節約したばかりにたいそう余計に時間がかかってしまった。結局、奥多摩に入るのが9時過ぎと、予定より30分以上遅れることになった。

さて、そうなるとわざわざ奥多摩から歩くこともない。当初予定とは逆コースにして、鳩ノ巣から本仁田山に登り奥多摩に下りることにすれば、30分の遅れを取り戻せないこともない。大根山ノ神までは5年前に川苔山に登ったルートだし、帰りのおくたま号に乗るには、奥多摩に下りた方が便利である。

と考えて、2つ前の鳩ノ巣で電車を下りた。身支度を整えて9時10分出発。家を出てからおよそ4時間だから、日帰り山行としては限界に近い。もう奥多摩日帰りは無理かなあと思いながら、棚沢集落の急坂を登る。いきなり、息が切れる。後ろにひっくり返りそうな急傾斜である上に、なにしろ山は4ヵ月ぶりなのである。

集落のいちばん上の家あたりで左に登山道が分かれる。ここは5年前に通った記憶がある。かつて峰集落があった時に唯一の生活道路だった道で、峰の小学生もここを通ったはずである。そのためか谷側にはフェンスが張られてあるが、相当に古いものなので錆びているしところどころ破れている。それでも、集落内の急坂よりも登りやすい。

そろそろ上に峠の地形が見える頃になって、前方を行く集団に追いついた。私自身のペースは相当にゆっくりなのだが、それ以上にゆっくりなのだろう。そして、後ろからも何人かのグループが追いついてきた。これはいつものことなので驚かない。さすが週末の奥多摩、人が多いのであった。

こういう時に先行する集団を抜いたりすると、結局バテることになる。それはここ数年の経験で身に染みている。景色を見たり写真を撮ったりして前方集団の最後尾とは一定の距離を保つ。そういう体勢で10分ほど歩くと、大根山ノ神に到着した。麓からは50分、前方集団でペースが落ちた割には、5年前よりも少しだけ早く着くことができた。

 


乗り継ぎ不調で家から4時間かかってようやく鳩ノ巣へ。当初予定の逆コースで本仁田山をめざした。


さすが奥多摩。歩き始めると前後に大人数のグループが出現。こういう場合抜いたりするとオーバーペースとなるので、じっと後ろに付く。もうすぐ大根山ノ神。


大根山ノ神まで50分、5年前より少しだけ早く着いた。ここから峰の廃集落に行きたかったが、目指す方向が草ぼうぼうだったので自重した。

さて、大根山ノ神で小休止の後、最終目的地本仁田山に向けてまずコブタカ山をめざす。実は、時間に余裕があれば峰の廃集落に行こうと思っていたのだが、そもそも30分以上遅れて登り始めた上、峰集落に向かう小道は左右から雑草が丈を伸ばしているので、すぐにあきらめてコブタカ山に向かう。

さて、今回のルートである大根山ノ神からコブタカ山のルート、WEB上の記事をみると1時間ちょっとのルートで何のへんてつもない登りのような印象がある。計画段階でも、奥多摩から登る予定だったから安寺沢からの急登ばかりに頭が行っていて、ここの傾斜はそれほどでもないように思い込んでいた。ところが、登り始めてみると実にたいへんなルートだった。

ひと登りしてしばらくはほとんど平らなトラバース道で安心するけれども、川苔山方面との分岐あたりからどんどん傾斜がきつくなる。はじめは4ヵ月ぶりが影響しているのかと思っていたが、下る時に相当の急傾斜であることが分かった。どうりで、息が上がってたびたび立ち止まらなければならなかった訳である。

川苔山へ向かうルートでは、なだらかな尾根道がしばらく続いたような記憶があるのだが、コブタカ山方面へはずっと登りが続く。1/25000図ではそんなにきつい坂のように思えないのだが、たいへんにきつい。40~50分登ると、左から尾根が合わさってきた。もうコブタカ山か、早いなと思っていたら、尾根はいったん下ってまた登っている。

今回は久しぶりの山なので、さっそくGPSと電子国土データを照合して現在位置を確認する。ところが、緯度経度を確認してみたところ、コブタカ山どころかその半分も来ていない。合わさってきたのは、ただの派生尾根のようだった。その時点の標高は924m、時刻は11時8分。登り始めた鳩ノ巣駅が300mで9時10分だから、そんなにペースが遅い訳ではない。しかし、まだ中間目標の半分も来ていない。

本仁田山の標高は1224m、あと1時間で登れればいいけれど、その時点ですでに相当疲れていた。そして、この日は天気が急速に回復して暑いこともあって、水の消費量がたいへんに多い。この段階ですでに500mlのペットボトルを1本空けてしまい、予備のスポーツドリンク1.5リットルに手をつけている。頂上まで水がもつかどうかも心配だ。

その時は気付かなかったが、下りの時このあたりの木に「杉の尾根 殿上山」の札が付いているのに気が付いた。昨年暮れに、醍醐丸から市道山に向かう尾根で独標734mのピークにあったのと同じフォームの木札である。奥多摩の登山愛好家の人がやっているのだろうか。東京都の行き先標示も親切でいいけれど、こういうパーソナルな(オフィシャルでない)目印もありがたいものである。

気を取り直して出発。殿上山920mピークは尾根上のコブのような小ピークで、わずかに下って再び急傾斜の登りになった。すぐ上がピークのように見えるのだけれど、そこまで登るとさらに先に傾斜が続いているのが奥多摩である。息が続かず、ひと登りするごとに膝に手を突いて息を整える。

11時35分、大根山ノ神から1時間半登ったところでようやくなだらかな尾根にたどり着いた。GPSを確認すると、1011mの独標付近のようだ。コブタカ山まであと標高差200m、当初の目標であった本仁田山へはさらに下って登り返さなければならない。この時点の疲れ具合と水の残り具合から考えてこの先に進むのは困難と判断し、ここで撤退することにした。

わずかに平らになっていて緑の斜面が見渡せるいい景色だったので、ここでお昼にする。ヤマザキのランチパックに自然解凍のパイナップル、残ったスポーツドリンクである。まあ、この山行は最初から秋の予行演習の予定であったから、頂上まで登ることよりも無事に下りることの方が大切である。

まして朝の山手線遅れのおかげで乗り継ぎがうまくいかなかったのだから、途中で撤退するのもやむなしである。12時少し前に下り始める。登りの時はほとんど人に会わなかったのだが、ここからの下りで多くのグループとすれ違った。このコースは比較的遅くに歩き始めても大丈夫なコースのようだ。


大根山ノ神からひと登りした後、ようやく緩やかなトラバース道となる。でも、こういう道はこの日はここだけ。


ほどなく、急坂が登場。登る時も苦しいし、下る時もきつかった。


「杉の尾根殿上山」の標示の後も、凶悪な急坂が続く。休み明けには厳しすぎるルートでした。これで安寺沢から登っていたらどうなっていたか。

そういう訳で、1011独標付近から下山することにした。登る時はあまり気付かなかったが、ここの下りは凶悪なくらいの急傾斜であった。わずか4~5年前にはこういうところでも走るように駆け下りることが(少しくらいは)可能だったのだが、60代に入って最優先課題は膝を痛めないこと、転倒しないことである。ステッキを使って三点確保しつつ慎重に下りる。

1011m独標から殿上山まで下りた標高差100m足らずで、こんなところを登ってきたのかと自分で自分に驚いた。登りもそうだったのだが、下りもペースが全然上がらない。休まない分登りよりも早いのだけれど、それでも大根山ノ神までまるまる1時間かかった。

さて、今回の山行を振り返ると、鳩ノ巣駅300mから1011m独標付近まで、標高差で700m登っている。実はこれは、昨シーズン1度も登っていない標高差なのであった。

もちろん累積標高差では戸倉三山でこのくらいは登っているけれども、大岳山は下りこそまるまる900m下ったが登りは御嶽ケーブルを使っているし、その前の釈迦ヶ岳にせよ天城山にせよ、登山口の標高自体が高いので、それほどの標高差を登った訳ではない。さかのぼると2015年秋、塔ノ岳以来の標高差なのであった。60代に入ってはじめてのことであり、疲れたのは当り前である。

大根山ノ神まで下りてきたら、とてもじゃないけどもう山道は歩きたくなくなった。東京都の地図看板では鳩ノ巣まで30分で下りることになっているけれど、私だったら40~50分は楽にかかってしまうだろう。幸い、すぐ横から車の通る林道が鳩ノ巣まで通っている。たいそう遠回りになる上、歩くと何分かかるか、そもそもどのくらいの距離があるのかも書いていない。

それでも、普通に歩いていれば足下を気にしなくても先に進める。そして、経験上登山道を歩くのと時間的にそう大きくは違わない。という訳で、方向的には鳩ノ巣とはあさっての方向、むしろいま下りてきた殿上山・1011m独標に逆戻りするような方向に走っている林道を歩き始めたのでありました。

ところが、この林道は予想以上の超大回りだった。谷を流れる川岸あたりで方向転換するまで20分、そこからさらに大きく回り込んで標高を下げる。これは鳩ノ巣まで1時間以上かかるかもしないと覚悟した。とはいえ、あとからGPSで確認すると林道の歩きは時速4~5km、登山道の下りは時速1km台なのでスピードが全然違う。

それにしても、この林道はなぜ大根山ノ神まで伸ばしたのだろう。方向転換するあたりからワサビ田や荷物用モノレールの軌道が現れたのでもともとはそうした用途で作られたのだろうが、大根山ノ神まではただ林間を通るだけの道である。それも、がけ崩れ防止のための石垣もあって本格的である。もちろん電柱は立っていない。

人が住んでいれば当然車道は必要になるが、平成初めの整備と書かれていたから、峰に人が住んでいたのはそれより20年以上前の話だ。確かに上の方は造成林で、1011独標のあたりまで整備標が立てられていたが、伐った材木を林道まで下ろすのだって大変である。奥多摩周辺は、いまもところどころで林道を工事しているが、コストに見合った需要があるのだろうか。

谷まで下りてくると、農家の納屋のような小ぶりの建物が目に付くようになる。電柱が現れるのは、水道局の取水場から下である。その取水場の近くで、林道脇から盛大に水が出ていた。ひしゃくが置いてあるので、飲める水であろう。

標高が下がるにしたがって急に暑くなったので、この水場はたいへんありがたかった。顔を洗って、手で冷たい水をすくって飲む。それまでは手持ちの水も残り少なくて、暑くて、いつまで歩くと麓に着くのか分からず落ち込んでいたが、生き返る気持ちがした。気を取り直して歩き始める。結局、鳩ノ巣まで1時間10分かかったのでありました。


この日は、1011m独標付近で撤退。この登りでは珍しく、傾斜がゆるやかな地点でした。


大根山ノ神からは林道を通って下る。ゆっくり歩けるのは何よりでした。鳩ノ巣駅まで1時間10分。


林道途中、水道局取水場のすぐ下あたりに水場が。冷たい水で顔を洗い、喉を潤して生き返りました。

この日の経過
JR鳩ノ巣駅 9:10
10:00 大根山ノ神 10:10
11:05 杉の尾根殿上山 11:10
11:35 1011独標付近 11:55
12:55 大根山ノ神 12:55
14:15 はとのす荘
(GPS測定距離 8.9km)

[Oct 2, 2017]

061 大岳山 [May 28, 2017]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

 

ゴールデンウィークに高原山を歩いたが、標高差がそれほどなかったので足も痛くならなかった。そろそろ本格的に歩かなければならないと思って考えてみたら、しばらく奥多摩に行っていないことに気がついた。奥多摩では、以前登った鋸山に再挑戦するつもりでいたのに、あれからかなり経つ。という訳で、大岳山から鋸山のコースを歩いてみることにした。 “061 大岳山 [May 28, 2017]” の続きを読む

056 醍醐丸・臼杵山 [Dec 21, 2016]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

2016年の12月下旬はことのほか暖かく、最高気温が20 ℃近くに上がる日もあるくらいであった。例年だとこの時期には房総に出かけるのだが、まだ雪も積もっていないし寒くもないようなので奥多摩に行くことにした。 いろいろ考えて、前回臼杵山を残した戸倉三山を完結しようという計画を立てたのである。

前回は、今熊山登山口から今熊山、刈寄山、市道山と経由して笹平に下った。そのコースでも下山が予定より1時間遅れてしまったので、私の脚力では1日に3山というのは無理である。そこで、直接市道山に登って臼杵山というコースがないか調べると、陣馬高原下から和田峠を経由するコースがある。主要登山道ではないもののトレランにも使われているので、ここを登ってみることにした。 “056 醍醐丸・臼杵山 [Dec 21, 2016]” の続きを読む

055 刈寄山・市道山 [Dec 3, 2016]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

前回の釈迦ヶ岳では、1/25000図では2、3時間で行って帰って来られる距離のはずなのに、大バテしたあげく予備の水がなくてひどい目にあった(自業自得だが)。しばらく山に行っていなかったので、準備も体力も不足していたのではないかとたいへんに反省したところである。

できるだけ早くもう一度行こうと思っていたのに、なんと11月に積雪という50年に一度の異常事態となり、天気を待っているうちに12月になってしまった。計画するにあたって、できるだけアップダウンのある稜線を歩いてみようと思った。そして、1000mを越えると雪が残っているおそれがあるので、その心配がない低山を探していたところ、戸倉三山という山が見つかった。 “055 刈寄山・市道山 [Dec 3, 2016]” の続きを読む

046 棒ノ折山 [Jun 25, 2015]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

気が付くともう梅雨である。今年の春山は丹沢梅の木尾根からスタートして、奥多摩登り尾根、雁峠から白沢峠、甲武信ヶ岳と3回の泊りがけで随分がんばった。春の締めくくりにもう1日と思っていたら、梅雨の合間の平日に1日休みが取れた。あまり計画に時間をかけられなかったものだから、以前から計画表だけは作っていた棒ノ折山に行くことにした。 “046 棒ノ折山 [Jun 25, 2015]” の続きを読む

045 甲武信ヶ岳 [Jun 2, 2015]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

冬が終わったと思ったらもう夏が来てしまったようで、5月だというのに30度を超える日が続いた。この分だと虫や蜂が出始めるのも早くなりそうである。厄介なことだ。

今年の春はピークにはほとんど行かずに、尾根道や峠にばかり登っていた。山歩きの楽しみは必ずしも頂上にある訳ではないと思うからである。もちろん歳で体力がないということも大きいのだけれど、人が多いところが大嫌いということもあり、あえてピークをめざすことはないと思っている。 “045 甲武信ヶ岳 [Jun 2, 2015]” の続きを読む

044 笠取小屋から白沢峠 [May 9-10, 2015]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

4月は、まるまる山に行けなかった。

前回の奥多摩小屋では、何しろ大バテしたのが気にいらない。歳をとったとはいえ、2年前と全く同じコースで、ブナ坂まで1時間遅れ、奥多摩小屋まで1時間半多くかかるというのは尋常ではない。前回だって決して速いペースではないのである。さらにショックだったのは、 帰って4、5日くらい後からひどい腰痛に悩まされたことである。 “044 笠取小屋から白沢峠 [May 9-10, 2015]” の続きを読む

043 奥多摩小屋(爆) [Mar 27-28, 2015]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

昨年は雪が多いなんてもんじゃないくらい多くて、この時期奥多摩に行くことはできなかった。だから2年振りの登り尾根である。一昨年と同じく3月最終週の金曜日から土曜日、多少雪は残っているもしれないので軽アイゼンを持って行く。今回は雲取山までは行かずに奥多摩小屋で一泊、翌日は七ツ石山から鷹ノ巣山まで縦走しようという計画である。 “043 奥多摩小屋(爆) [Mar 27-28, 2015]” の続きを読む

036 雁峠から笠取小屋(テント泊)[Oct 10-11, 2014]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

9月に本格的なテントを買った。アライテントの「エアライズ」である。定価4万円、決して安い買い物ではないが、来るべき年金生活に備えて、テント泊は有力な経費節減策になりうるのである。しかしながら、これまで57年間、いまだテントで一夜を過ごしたことはない。山小屋ならあるけれども、布団の上で寝るのと全然違うことくらいは想像がつく。

とりあえず、安心できる場所で予行演習しようと考えた時に頭に浮かんだのは、春に行った笠取小屋である。あそこなら水場もトイレもあるし、テントサイトも林間なので地盤も柔らかそうで、スペース的にも余裕があるように見えた。山雑誌やWEBをみても、テントデビューに向いた場所であるらしい。何よりも、一度でも行ったところなので安心なのだ。 “036 雁峠から笠取小屋(テント泊)[Oct 10-11, 2014]” の続きを読む