098 クロフォードvsアミール・カーン [Apr 20, 2019]

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(2019/4/20、米ニューヨークMSG)
Oテレンス・クロフォード(34戦全勝24KO) 1.1倍
  アミール・カーン(33勝20KO4敗) 8.5倍

この試合の主役がどちらかというのは、やや難しいところがある。3階級制覇チャンピオンでありパウンド・フォー・パウンドを窺うクロフォードが断然主役でおかしくないのだが、ではカーン以外が相手で客が入るかと言われると微妙である。

そのアミール・カーン、30年後にボクシングシーンを振り返ってどういう地位を占めるのかを予想するのは大変難しい。

英国のボクサーでアングロサクソンでないという点からみるとプリンス・ナジーム・ハメドと同様だが、実績でも試合の面白さでも遠く及ばない。ハメドが敗れたマルコ・アントニオ・バレラに圧勝しているが、体が違い過ぎたので勝って当り前だろう。

オリンピックを含む輝かしいアマチュアキャリアという点では一時プロモートしたデラホーヤと共通だけれど、デラホーヤが人気に見合ういい試合を見せたのに対し、カーンはここぞという試合は大抵負ける。

人気先行という意味では「世界レベルの村田」的なところがあるが、一発食うまでカネロ・アルバレスと五分に渡り合ったボクシングセンスは村田よりもかなり上だろう。そもそも世界タイトルマッチでマリナッジやマルコス・マイダナ、ザブ・ジュダーといったビッグネーム相手に防衛しているから、村田と比べるのは気の毒だ。

かたやクロフォード、ライト級時代はディフェンスの巧みなスイッチヒッターという印象であったが、スーパーライトでは破壊力を増し、4団体統一して激戦区ウェルターに上がってきた。

ライト、スーパーライトではライバルに恵まれなかった。4団体統一とはいえ相手がインドンゴでは評価が上がらないのもやむを得ず、最強の相手がいまだにユリオルキス・ガンボアというのではマッチメークが弱すぎる。

最近ではサウスポーで戦うことが多くなり、腰が落ち着いてKOで決められるようになってきた。とはいえ、体格的にはウェルターでは大きいとはいえず、このクラスのハードパンチャー相手では耐久力に課題がありそうだ。

だからエロール・スペンスとやれば、スペンスが体力勝ちするだろうとみているのだが、統一戦の機運が高まらないのは、リスクに見合うだけのビッグマッチとならないからだろうと想像される。

スペンスの場合は強すぎて相手がいないという点が大きいが、いずれにしてもパッキャオvsブロナーほどのファイトマネーとならないのは実力者二人に気の毒である。

試合そのものは、クロフォードがどのくらいカーンをコントロールできるかが鍵だろう。スピードではカーンも相当なので、クロフォードとしても圧倒できるとは限らない。カーンのモチベーションも気になるところ。

ただ、プレスコットに倒され、スウィフト・ガルシアに倒され、カネロに倒されたように、カーンはたいへん打たれ弱いボクサーである。しかも、それらの試合は一発で決められてしまっている。カーンが再びリングに大の字になる可能性はかなり高いとみなくてはならない。

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(4/20、米ニューヨークMSG)
テレンス・クロフォード O TKO6R X アミール・カーン

クロフォードのローブローで試合が終わったとFightnews.comにあったのでアクシデントかと思っていたら、3Rくらいから打たれていたボディブローが効いて、ローブローを機にギブアップしたということであった。カーンとしても、ボディブローで座り込むよりましということかもしれないが、地元だったら許されないことだろう。

ただ、ローブロー自体は反則行為であり、クロフォードは試合を優位に進めていたのだからああいうパンチを打ってはならない。打ったのは足だと言っているが、足だって反則に変わりはない。

何年かに一度、ゴング後のヒットやレスリング行為等で反則負けやノーコンテストがあるのだから、本当の一流チャンピオンならそれを避けるべきだし、あのタイミングでボディを打つ必要はなかった。

試合全般をみると、クロフォードがカーンをコントロールしたといっていい。1Rをオーソドックスで始めて右のオーバーハンドでダウンを奪ったのは戦略の勝利だし、3Rから左にスイッチしてボディを攻めた。攻撃に偏り過ぎてカーンの一撃を何発かもらっていたが、それ以上に小気味いいアッパーやフックを当てていた。

この二人、歳はほとんど変わらないのだが、どうしてこんなに差がついてしまったのだろう。クロフォードはますますスピードや回転力に磨きがかかり、カウンターも巧くなった。逆にカーンは、1Rのダウンをはじめ打たれもろさはそのままで、攻撃に適確さがなくなっていた。ダメージがあったのを勘案しても、往年より力は落ちているだろう。

とはいえ、クロフォードがパウンド・フォー・パウンドかというと、多少首をひねらざるを得ない。

第一に、一発でリングに大の字になる打たれ弱いカーンに対し、1Rに決めきれず逆襲を受けていたことである。もちろんボディ打ちは迫力満点だったのだが、一発の威力でいうとカネロやスウィフト・ガルシアには及ばないということになる。

この点では、スイッチヒッターの限界というか、どちらも器用にこなすのだがどちらも破壊力では足りないということか。体重の移動はうまいのだが、踏込みが半歩、1/4歩浅いような気がする。

だから、もしエロール・スペンスと戦った場合の想定も戦前と変わらない。早い出入りとスイッチでスペンスを幻惑するとは思うが、パワーと耐久力でスペンスに分があり、体力の差が出るだろう。その前に、ショーン・ポーターとか、ウェルターのトップクラスと戦う必要もありそうだ。

今回の試合を見て、強いけれど何かバタバタしているという印象を受けたのは私だけではないだろう。試合は圧倒していたように見えたが、クロフォード本人としてはそれほど余裕がなかったのかもしれない。余裕があればローブローは打たない。

[Apr 24, 2019]