100 井上世界の晴舞台 vsEロッド [May 18, 2019]

WBA/IBF世界バンタム級タイトルマッチ(2019/05/18、英グラスゴーSSEハイドロ)
O井上 尚弥(17戦全勝15KO) 1.14倍
  エマニュエル・ロドリゲス(19戦全勝12KO) 7.25倍

経営危機が伝えられるWBSSであるが、トーナメントの片方の山からはノニト・ドネアが勝ち上がり、どちらが勝ち上がっても決勝戦はスリリングな試合になる期待が高まった。井上にはぜひともがんばってほしいものである。

テテの負傷欠場で代役ヤングが相手だったとはいえ、モンティエル戦を思い出す左フック一発でドネアが勝ち上がり、WBSSバンタム級は一挙に盛り上がってきた。ここで井上がKOで勝ち上がれば、WBSS決勝という看板がなくてもビッグマッチとして成り立つのではないか。

まず相手のEロッドことエマニュエル・ロドリゲス。19戦全勝12KOのレコードは文句ないが、1回戦のジェイソン・モロニー戦で株を下げてしまった。モロニーは河野公平に負傷TKOで勝ったばかりであり、河野はその1年半前に井上にKO負けしている。河野とモロニーを物差しにすると、井上の方が強いという結論になる。

ポール・バトラーを敵地で破ったことで評価されているが、バトラー自身ゾラニ・テテに地元でKO負けしている。プエルトリコのこのあたりの階級だとウィルフレッド・ゴメスを思い出すが、最近ではバスケスもファンマ・ロペスも登場した時から尻すぼみに弱くなった。

かたや井上。地元開催だったとはいえ、バンタム級2戦をいずれも1RKOで圧勝し、この階級ではまだ3分ほどしか戦っていない。格別に強い一方で経験十分とはいえないし、WBSSの経営不安でなかなかスケジュールが決まらないこともあって、コンディショニングが一番心配だ。

お互い第三国であるイギリスでの対戦であり、有利不利はないにしても地元で調整できるという利点はない。井上にはKOが期待されるものの、Eロッドはとにかく勝てばいいから、その点でもプレッシャーは井上の方により大きいだろう。

とはいえ、この試合でどちらに会場の声援が多いかというと、私は井上ではないかと思う。英国の観客はジェイミー・マクドネル戦もファン・カルロス・パヤノ戦も見ているはずなので、再び見事なKOを目の前で見たいと思っているはずだ。

井上自身、メキシコ、プエルトリコあたりの粘っこいボクシングの相手との経験は多いとはいえず、カルモナに判定まで持ち込まれたこともある。ましてロドリゲスは苦戦慣れしているので、試合が後半まで進めばそう簡単に倒れることはなさそうだ。

とはいえ、長期戦になっても井上の優位は変わらない。というのは、強打ばかりが注目されているが、井上のディフェンスはすばらしく、過去にカットしたことがほとんどない。バッティングすら受けないのである。

ロドリゲスが井上を警戒して距離を置けば、試合を支配するのは井上のジャブであり、ただでさえ決定力が不足気味のロドリゲスが井上にダメージングブローを叩き込む場面は想定しにくい。

井上の前半KOを期待するが、ロドリゲスもチャンピオンであり、判定まで持ち込まれる可能性は少なくない。判定でも、井上が明確な差をつけるだろう。

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IBF世界バンタム級タイトルマッチ(5/18、英グラスゴー)
井上尚弥 O TKO2R X エマニュエル・ロドリゲス

スコットランドでも日本でも井上の強さは変わらず、またも序盤KOでドネアの待つWBSS決勝へ駒を進めた。

1Rを見て驚いたのは、足を使うと思われたロドリゲスが前に出て、井上が下がりながら迎え撃ったことである。ディフェンスも巧い井上はほとんどのパンチを見切っていたが、距離の違いがあるのか芯ではないものの何発かクリーンヒットをもらっていた。

この1Rの前進がロドリゲスの作戦だったのか、あるいは伝えられる減量苦で勝負を急いだのかは分からない。いずれにしても、2Rに井上が腰を入れた攻撃を始めると、左フック一発でほぼ勝負を決めてしまった。

おそらく、日本人選手が英国で世界タイトルを獲ったのは初めてのはずだが、そういう新聞向けキャッチコピーなどどうでもいいくらいのパフォーマンスであった。何よりのことである。

半世紀以上ボクシングを見て来て、井上のように世界レベルで活躍できる選手を見ることができたのは大変うれしいことである。もちろん最近でもWOWOWで解説していた西岡や、三浦、亀海といった選手がいて、さかのぼれば西城正三、柴田国明も海外で実績を残したのだが、井上ほど世界レベルで注目を集めた選手はいなかった。

グラスゴーの会場でも、ロドリゲス入場の時にはブーイングが聞こえ、井上入場の時には大歓声だった。在留邦人や日本からの応援団もいたのだろうけれど、現地のボクシングファンにも井上は注目されていたということである。

長谷川や山中、内山が世界のリングで戦っていれば、井上のように活躍できたかどうかは分からない。分からないけれども、国内限定で世界レベルの相手と戦わない間にピークを過ぎてしまい、実力を証明できなかったことは間違いない。

国内限定で戦うことにより生活の安定は確保することができただろうし、それは決して否定することはできないけれども、井上はもしかするとパッキャオのように、彼らとは桁の違うビッグマネーファイトの機会が得られるかもしれない。

井上のここ最近の試合を見ていると、「石の拳」ロベルト・デュランのように感じることがある。デュランはライト級時代から、石松とか小林弘、ブキャナンといった連中をKOしてきたし、歳とって階級を上げてもライバルに恵まれた。

井上の次の試合は決勝のドネアだが、WBSSを勝ち進めなかったゾラニ・テテやライアン・バーネットも井上との対戦を希望しているようだ。トップランクもそのあたりを見込んで契約したのだろう。そして、リゴンドーの引退に間に合うかどうか、井上の今後には楽しみが一杯である。

(諸般の事情によりWBA”レギュラー”ベルトが懸けられなかったが、あまり関係なかったのでコメントしませんでした。)

[May 19, 2019]