101 第32期竜王戦・決勝トーナメント開幕 [Jun 5, 2019]

将棋界最高峰のタイトルである竜王戦の第32期決勝トーナメントが始まる。(それにしても、月下の棋士で怖い顔をした人が「王竜戦!」と言ってから30年経つのか。歳をとったものだ。)

竜王戦のコンセプトは、その時点における最強者が竜王のタイトルを獲れるチャンスがあるということである。名人戦は挑戦者がA級順位戦勝者であるから、プロであること、少なくともプロ入りから4年かけてA級に上がってこなければならないことが条件となる。

対して竜王戦は、プロ入り直後からチャンスがあるし、アマにも女流棋士にも門戸が開かれている。もしチェスのチャンピオンが挑戦する気になれば、それも可能なのである。例えれば名人戦は「全米プロ」、竜王戦は「全米オープン」ということになる。

そして、竜王戦の挑戦者決定システムの特徴は、予選であるランキング戦とプレイオフである決勝トーナメントの2段構えになっていることである。ランキング戦は1組から6組まであり、前年の成績により4人ずつが昇降級する。そして、その年の挑戦者を決める決勝トーナメントは、アメフトのプレイオフを参考にしたのではないかと思われるほどよくできた番組なのである。

アメフトとの共通点は、Byeの仕組みがあることと、シード順位が上の棋士がよりシード順の低い棋士と当たることである。まずByeのシステムだが、以下のようになっている。

1.ランキング戦5組優勝者と6組優勝者は、1回戦から戦う。

2.ランキング戦4組優勝者は2回戦から戦う。(1回戦Bye)

3.ランキング戦3組優勝者と2組2位、1組5位は3回戦から戦う。(1~2回戦Bye)

4.ランキング戦2組優勝者と1組2~4位は4回戦(準々決勝)から戦う。(1~3回戦Bye)

5.ランキング戦1組優勝者は5回戦(準決勝)から戦う。(1~4回戦Bye)

つまり、上の組で予選を勝ち抜いた棋士がそれだけ有利になるということである。ランキング戦1組で予選を勝ち上がった棋士は2人勝ち抜けば挑戦者だが、ランキング5組・6組の場合、6人勝ち抜かなければならない。

もう一つの「シード順が上の棋士がよりシード順の低い棋士と当たる」点については、1組優勝が第1シード、1組2位が第2シード、以下2組優勝第6シード、3組優勝第8シード、6組は第11シードとなり、上位シードは下位シードと当たる。

ただし、NFLのように勝ち上がりによって相手が変わるシステムではなく、上位者が勝ち上がった場合そうなるという組み合わせになっている。トーナメント表が確定していないといろいろやりにくいのだろう。

このシステムは当初からこうだった訳ではなく、2005年の第18期までは違う方式で行われていた。だから、2004年の第17期で当時の渡辺五段がランキング4組から決勝トーナメントを勝ち上がって竜王になったが、当時は現在より組み合わせが少し楽だった。

渡辺二冠の場合、その後9連覇して永世竜王になるなど圧倒的に強かったので、おそらく現方式でも勝ち上がった可能性は大きいけれども、現方式になってから4組以下から挑戦者になった例はない。2014年第27期のダニー糸谷の3組がシード順下位からの勝ち上がり最高記録である。

その4組優勝者が、注目の藤井七段である。これでデビュー以来3期連続の決勝トーナメントだが、今年の4組はかなり苦しんだ。ベテランの畠山成八段、中田功八段には土俵際まで追い込まれたし、準決勝の高見叡王(当時)にも逆転勝ち、決勝の菅井七段(前王位)には千日手指し直しから真夜中に及ぶ激闘を制した。

ただ、これから先さらに厳しい戦いが待っている。1回戦Byeながら、上がって来るのは近藤誠六段か梶浦四段。ともに勝ちまくっている若手で、近藤誠也は昨年度C1順位戦で全勝・昇級を阻まれた相手だ。

3回戦は棋聖戦予選で敗れている久保九段、その上は豊島名人・三冠、さらに上は渡辺二冠・永世竜王とA級棋士が続く。特に豊島名人と渡辺二冠はいま絶好調で当たるべからざる勢いだ。

もう一つの山には初タイトルを獲得して充実著しい永瀬叡王と復活を期す佐藤天九段、羽生九段を下して駒を進めた「千駄ヶ谷の受け師」木村九段がいる。木村九段は今年A級復帰で気をよくしているし、王位戦リーグでも活躍している。

こうしてみると、最も有利なのは1組優勝の渡辺二冠で、強力なライバルが潰し合ってくれるというメリットがある。逆の山では捲土重来を期す前名人・佐藤天九段が有力とみるが、最近の調子からするとそう簡単には勝たせてもらえないだろう。

近藤誠也・梶浦戦でトーナメントがスタートし、挑戦者決定三番勝負は8月から行われる。

[Jun 5, 2019]


第32期竜王戦決勝トーナメント。過去最高に厳しいトーナメントのように思います。特に藤井七段の山がきつすぎる。c)日本将棋連盟