067 老後資金2000万円問題 金融庁墓穴?大蔵ファミリーの陰謀? [Jun 13, 2019]

たまにしか見ないTVなのだが、興味深い騒ぎが起こっていた。金融庁による「老後資金2000万円必要」報告書事件である。

最初この話を聞いた時、例によって銀行・証券・保険業界が自社商品を売りたいがための宣伝かと思った。何年か前にブログでも書いたように、支出が収入より多ければ支出を切り詰めるのが筋であって、貯金をくずして支出はそのままでいいというフィナンシャルプランナーを誰が信用するかという話である。

今回の2000万円も、数年前に保険会社が使った数字より減っているものの、当時の記事を見ると「生活費で2000万円、耐久消費財その他で1000万円の計3000万円必要」とあるから、基本的に同じといっていい。金融庁という役所が保険会社と同じでいいのかとは思うが。

では、なぜ金融庁がこんな数字を公表したのか。私なりに想像すると、おそらく金融庁は傘下の企業群、銀行・証券・保険の要請に応じて、あるいは現政権得意の「忖度」でこういう調査結果をまとめたのだが、「年金で生活が維持できないと政府が認めるのか」と金融庁管轄外のところから攻められて困っているという構図である。

省庁再編で金融庁ができたけれども、もともとここは大蔵省の一部門であった。大蔵省は「最強の官庁」といわれるだけあって権限も絶大だし人材も豊富で、エリート揃いの金融機関であっても見下されて子ども扱い以下であった。

だから、いまのように金融機関の垣根がなくなり、銀行窓口で投資信託や保険が売れるようになるまでには、長い道のりが必要であった。もともと役人の給料は法律で決まっているので、それをカバーするために天下り先を用意したり副収入をあっせんしたり、接待攻勢をかけたりさまざまの手段で大蔵省のご機嫌をとったのである。

ところが実際に垣根が下がってみると、金融商品というのはそれほど売れるものではなかった。それはそうで、いまでも定期預金金利が年8%なら黙っていても売れるけれども、小数点以下でどっちが有利か不利かとやっていても大勢に影響がない。多くの人はだまって普通預金に置いておくだけである。

当然、さんざん見返りを取っておきながらどういうことですか、と企業は役所を突き上げる。悲しいかな、現在の担当者はかつて接待を受けた連中とは代替わりしているのだけれど、そう言われると仕方がない。アリバイ作り的に、「国民のみなさま、もっと金融商品を買ってください」と言ったというのが今回の真相ではないかと想像する。

好意的に考えれば、諸般の情勢がバブル時代とは違うのだから見通しが違ったとしても仕方がないといえなくもないが、貸出総量規制によって現在に至る低金利時代の原因を作ったのは大蔵省である。加えて、省庁再編によって、最強官庁・大蔵省から業界団体ご用達・金融庁にしたのも政府である。自業自得という他ないのである。

年金制度が危ないというのは何十年も前から言われていることで、近い将来、受給水準を引き下げざるを得ないというのも算数ができれば見当がつく。しかし、それを一般企業がセールストークとして言うのと、政府機関が報告書に書いて表明するというのは全く違う。もともと金融庁の仕事をする部門は大蔵省の中でも傍流だけれど、やはり人材には恵まれていないようである。

今回の騒ぎで最も気分を害しているのは、2000万円貯めなさいと言われた中年以降の勤労者層ではなくて、厚生労働省のように思う。

すでに、野党各党はこの問題を国会で取り上げる構えだ。そうなると、金融庁だけでなく厚生労働省の年金担当も間違いなく質問される。厚労省としては、せっかく年金掛け金問題が鎮静化してきたのに、自分達が作ってもいない見てもいない報告書で仕事を増やされるのはたまったものではない。

もちろん、「官制ねずみ講」ともいえる年金が、毎年40万人ずつ人口が減っている日本で成り立つ訳はなく、そういう制度を長年にわたり放置して自分達もいい目(天下り先、副収入、接待)をみてきたのだから、あまり同情の余地はない。

いずれにしても、金融庁は、あえて出さなくてもいい報告書を出して、言わなくてもいいことを言ってしまった。よく考えると目新しいことは何もしていないし言っていないのだけれど、墓穴を掘ってしまったということになる。


省庁再編されましたが、財務省と金融庁の大臣は兼任が多いようです。麻生さんも、報告書なんていちいち読んでられないよなあ。

ジムでトレーニングしていたら、流れていたTVで例の問題をやっていた。どこの局かは知らないが、セゾングループの誰かが出て来て、「報告書は正しいです。われわれは自信を持ってます。」というようなことをインタビューで答えている。

セゾンといえば、数年前に「老後3000万円必要」というメールを送ってきた保険会社である。インタビューに答える態度が不遜そのもので、役人を見下しているのか、一般庶民を見下しているのか、自分達が一番偉いと言外に匂わせていた。

時代が変わったものだ。昔だったら、正しい正しくないは別として、騒ぎを起こし大蔵省様にご迷惑をおかけしたというそれだけで、関係者一同謹慎は免れなかったものである。給料では5倍10倍自分達の方が上だとしても、何しろ相手は許認可権を持っているのである。

と、そこまで考えて、ふと疑問が頭に浮かんだ。企業は役所に弱く、役所は政治家に弱く、政治家は企業に弱いという「権力じゃんけん」の構造は、長くわが国を支配してきた。そう簡単にその風土が変わるものだろうか。その構造に楯突いたホリエモンがひどい目にあったのは、それほど昔のことではない。

今回の騒動にしたところで、まず国会で野党が質問してマスコミが取り上げたのではない。まずTVが取り上げて、野党が恰好の攻撃材料、とそれに乗っかっただけである。芸人頼みで視聴率を稼ぐしか能のないTVの連中が、いちいち地味な報告書を読んで問題点を指摘できるだろうか。

「老後2000万円必要」という話自体特に目新しいものではないことは、昨日書いたとおりである。年金が危ないというのも、いわば周知の事実。いきさら隠し立てしてどうなるものではない。にもかかわらず、TVでは「これでダブル選はなくなった」と早手回しに論評している。

もしかすると、この騒ぎ自体、大蔵ファミリーの自作自演、マッチポンプの陰謀なのかもしれない。その目的は、なんとしても消費税を10月に10%にしたい、先延ばしさせないという大蔵ファミリーの強い意志を、政治家連中に示すことにあるのではあるまいか。

周知のように官邸としてはダブル選をやりたかった。前回の総選挙から2年も経っていないが、衆参両院で圧倒的に勝利すればこの状況は少なくともあと3年続く。そこで自民党党是である憲法改正を何とかしたいということである。

しかし、いまの経済状況でダブル選となると、勝てるとは限らない。そこで、解散前に消費税を延期して、それについて信を問うという形にすれば解散の名目も立つし勝てる確率も高まる。そうでなくても、ダブル選にした方が公明党はじめ集票組織が動きやすいのである。

そういう動きが水面下で進んでいることを察知して、大蔵ファミリーが先手を打ったのではないか。財務省も金融庁も、もとはといえば大蔵省で、OBは両者に対して影響力を持つ。現政権に打撃となるようなニュースを参院選公示直前のこの時期にリークすることにより、ダブル選の動きを封じ、消費税増税延期をさせなかったのではなかろうか。

もともと、財政健全化といったところで、政治家にとって選挙で勝つことの方がずっと大事である。消費税10%をいくら先延ばししても、自分達が選挙で勝てればいい。本音を言えば、憲法改正だってどうでもいいかもしれない。

一方で財務省にしてみれば、消費税を上げるというから所得税・法人税を下げたのに、下げる方だけ先行して上げるのは先延ばしされ続けられてはたまったものではない。彼らも、入ってくるカネは自分達のカネだと思っているから、政治家よりまっとうとはとても言えないのだが。

昨日書いたように、こういう騒ぎを起こせば身内の金融庁はともかく厚生労働省に迷惑がかかることは目に見えているのだが、「最強の官庁」大蔵省が他の弱小官庁の思惑を気にする訳がない。旧・内務省系列ならともかく、相手は厚生省である。

これで官邸が逆上してダブル選、消費税延期という結果になる可能性が全くないともいえず、そうなると大蔵ファミリーにとって、まさに墓穴を掘った結果となる。ただ、黙っていればあと2年、安定多数を維持できるのが分かっているのにあえて解散するとは思えず、官邸にそこまでの度胸はないという読みなのだろう。

「官僚支配の打破」と小沢氏が言ったのは平成初め。それから30年が経った。もし、この騒ぎの結果ダブル選が回避されて消費税が予定どおり10%となり、「おとなの自動車保険」がいままでどおり大々的に売られているとすれば、私の想像もかなりいい線をいっていたということである。

[Jun 13, 2019]