073 金邦夫「すぐそこにある遭難事故」 [Jul 19, 2019]

山岳事故の記録は折に触れて読むようにしているが、救助もするし文章も得意という人はそれほど多くない。すぐ頭に浮かぶのは羽根田治氏と金副隊長で、金副隊長の書いたものには、よく知っている道が頻繁に出てくるので興味深く読ませていただいている。

金(こん)副隊長は警視庁で山岳救助を担当してきたベテランであるとともに、今上天皇陛下の山行警護にずいぶん昔からあたっていた。管内の山岳事故や四季折々の様子をまとめた副隊長の作品では、「奥多摩山岳考」「金副隊長の山岳救助隊日誌」に続くシリーズとなっている。

この「すぐそこにある遭難事故」は2015年の刊行。前作「救助隊日誌」は2007年なので、8年振りの新刊ということになる。「岳人」の掲載記事が中心で、その間、金副隊長は長らく勤務した警視庁を退職された。

退職後も嘱託の山岳指導員として、引き続き奥多摩に詰めておられる。昨年の三頭山のような遭難騒ぎには、金副隊長もさぞかし苦い顔をしているに違いない。地域的には五日市警察署の管内と思われるが、やっぱり出動したんだろうか。

さて、私の奥多摩山行は金副隊長の影響をかなり濃厚に受けている。天祖山に行ったのは金副隊長を読んだからだし、奥多摩小屋を訪れたのも皇太子殿下(今上天皇陛下)も行かれたと書かれているからである(期待に反したが)。

この本でも何度も触れられているが、山岳事故を防ぐためまずしなければならないのは、登山計画書の作成である。事故の第一報は家族から届けられることがほとんどであるから、個人情報が気になる人は家族に預けるだけで全然違う。

次に「口を酸っぱくして」と副隊長が強調しているのが、「迷ったら尾根に戻れ。谷に下りるな」ということである。昨年も五頭連峰で親子の遭難死があったが、限られた山域であってもすべての谷を捜索するのは不可能である。奥多摩駅の周辺でさえ、行方不明者が年に何人も出ているのだ。

そして、私が個人的に心がけているのは、計画どおりいかないのも山の楽しみだと思うことである。実際、道間違いや時間的な制約で途中で引き返すことは、1シーズン1、2度必ずある。

始めからそう思っていれば、たとえ地図上で道があっても、赤テープが貼られていても、危ないと思ったらすぐ撤退することができる。いよいよ進退窮まってから引き返すより、はるかに安全だしストレスも少なくてすむ。

私の場合はそれらの対策にプラス幸運にも恵まれて、いまのところ危ない目には遭っていない。しかし、金副隊長のこの本を読むと、御殿山とか、本仁田山とか、なぜこんなところでというような場所で事故に遭ったり行方不明になっているのだ。

単独行はいけないとよく言われるが、複数で登っていても滑落事故は起こる。私が不審に思った大休場尾根への入口にあるトラロープは、トレランやバリルートの滑落事故が原因と、この本には書いてある。

いまや、奥多摩でも相当人里離れた場所でなければ携帯の電波が届く。だが、電波が届いても正確な場所が説明できなければ助けは来ないし、実際110番通報をしたけれども場所が特定できず行方不明というケースは発生している。いくら文明が進んだといっても、山というのは非日常空間なのだ。

[Jul 19, 2019]


金副隊長の「奥多摩登山考」「金副隊長の山岳救助隊日誌」に続く奥多摩シリーズ。私が登った近くでも遭難事故が起きている。