102 第90期棋聖戦 [Jul 12, 2019]

第90期棋聖戦五番勝負(2019/06/04~07/09)
渡辺明棋王・王将 O 3-1 X 豊島将之棋聖

将棋の各タイトルの中で、若手に獲りやすいタイトルは王位戦とよく言われるが、個人的に私が一番若手向きだと思うのは棋聖戦である。

その理由はいくつかあって、まず第一に16棋士によるトーナメントの一発勝負であること。つまり、組み合わせの有利不利があって振り駒の結果で先手・後手が決まる。同じ16棋士トーナメントの王座戦に比べてシード棋士が少なく、予選勝ち抜けが比較的しやすいこともあげられる。

そして、持ち時間が他の棋戦よりも短い4時間であること。一日制の五番勝負ということも大きい。持ち時間が長く二日制七番勝負である王位戦と比べて、その時点の好不調やスケジュールが影響しやすいのである。

さらに、1988年までは年2回という短いサイクルで行われたことも若手棋士に向いていた。米長邦雄は中年過ぎてから名人や四冠を獲得したが若い時のタイトルは棋聖だけだったし、田中寅彦、お化け屋敷はじめ、若手がタイトルを獲ることが多かった。

そのように若手が活躍する棋聖戦なのだが、今年は豊島棋聖(名人・王位)に渡辺明棋王・王将が挑戦する頂上決戦となった。昨年の今頃は8大タイトルを8名の棋士が分け合うという約三十年振りの群雄割拠状態であったが、開幕時点で8冠中5冠をこの二人で占め、今シーズン両者とも無敗で臨むというまさに頂上決戦であった。

私が思うに、今回の焦点は第三局である。1勝1敗で迎えた渡辺二冠の先手番で、渡辺は6八銀から7七銀で角道を止めて矢倉に組んだ。1年前は居飛車の8割近くが角換りで、そうでなければ相掛りだったのに、ここ数ヵ月で矢倉がちらほら見られるようになった。

矢倉の弱点とされたのが、急戦になった場合角道が止まっていて相手は通っているという点にあったが、渡辺二冠は急戦を巧みに牽制しつつ角を右辺に展開、気が付いた時には渡辺二冠の角は天王山の5五にいるのに、豊島棋聖の角は3一で王の退路を塞いでいる。この時点で評価値は先手が500くらい有利であった。

(ちなみに、ニコ生の将棋中継は評価値速報を有料放送だけにしてしまった。こういうことをしていると、将棋の普及そのものに影響が出ると思う。でも、ニコ生も商売なので仕方がない。棋譜を手入力して無料ソフトで評価値を確認しながらアベマで見た。)

その後、渡辺二冠の角は成り込んで馬となり破壊力を増した。豊島棋聖も端攻めから飛車を切っての猛攻で追い上げたものの先手の攻めが速度で上回り、渡辺二冠が勝ってタイトル奪取にあと1勝とした。

この1局の結果をみて、おそらく第4局、あるいは第5局を渡辺二冠が勝ってタイトル奪取するだろうと思った。というのは、五番勝負の勢いからいって豊島棋聖の連勝は難しいだろうと思ったのと、豊島棋聖のスケジュールである。

木村九段を挑戦者に迎えた王位戦七番勝負が進行中であるだけでなく、7月中に王座戦準決勝の羽生九段戦、竜王戦準々決勝の藤井七段戦と大勝負が続く。昔と違って今は事前研究のウェイトが高まっている。対局以外は競輪競馬をしていればいいという時代ではないのだ。

かつて米長永世棋聖は「ただいま対局しているこの一局に全力」と言ったが、だからといって直近の一局だけ準備する訳にはいかない。手を抜くことはありえないにしても、比重の軽重があり時間的制約もある。どれも均等に時間をかけることはないはずである。

だから、渡辺二冠相手の棋聖戦は、カド番に追い込まれた時点である程度優先順位を下げざるを得ないだろうと思っていた。実際、第4局では銀取りを放置するなど冒険的な作戦がみられた。穴熊に囲っているならともかく、左美濃では相当にリスキーである。藤井戦では絶対やらないであろう作戦であった。

もちろん、相手もまた研究しているので、時間をかけたからすぐに結果が出るというものではない。とはいえ、現時点で最も勝ちにくい相手に連勝する準備よりも、より勝ち進む可能性が高い戦いに資源を投入するのは、私には当然のように思えるのである。

渡辺二冠は初の棋聖位で、これで三冠となった。次は準決勝から登場の竜王戦で、豊島・藤井戦の勝者と当たる。いま現在のスケジュールは比較的ゆるやかで、竜王戦は本命だと思っているが、半年後には棋王戦・王将戦の防衛戦があり、その時期に順位戦も佳境を迎える。ちょうどいま現在の豊島名人の立場になる訳で、逆の立場でどういった戦いをみせるのか今から興味深い。

[Jul 12, 2019]


いまや将棋界の頂上決戦といえる豊島棋聖vs渡辺二冠。第三局は先手・渡辺二冠が矢倉に組み、角を展開して圧勝した。この局面ではすでに評価値が先手に振れている。