086 三頭山 [May 27,2019]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

この春は筑波山塊に2回行った後、3日置きに雨が降るという変わりやすい天気になって、その後一気に暑くなった。あまり暑いと山はお休みだが、気象庁のHPを見ると奥多摩は30℃には届かないようだ。湿度も夏の盛りほどではないので、1年ぶりに奥多摩に行くことにした。

奥多摩で未登の山で、行ってみたかったのは三頭山である。御前山に昨年登ったのでその奥ということが一つと、昨年春に中国人登山客が遭難騒ぎを起こしたことが記憶に新しいからである。

とはいえ、人気の山だけに土日は騒がしそうだ。せっかく行くなら静かな平日ということで5月27日月曜日を予定していたら、なんとこの日は「都民の森」休園日で数馬までしかバスが出ていないことが判明した。

代替案をいろいろ考えたが、遭難騒ぎのあった三頭山~ヌカザス山というコースは外しがたい。バス便が少ないうえ数馬からの歩きが加わって頂上に着く時間は遅くなるが、奥多摩に宿を取れば帰りの心配をしなくてすむ。という訳で、スタートを数馬に変更して奥多摩側に下りるコースをとることにした。

武蔵五日市駅に8時半に到着し、バス停に向かう。数馬行バスは9時ちょうどのはずなので、まだ時間に余裕がある。確認しようとバス停の表示をみて愕然とした。「浮橋通行止」と書いてある。

「小河内貯水池の水位が低下し通行に危険な状態になりましたので、麦山浮橋を取り外し、通行止とさせていただきます。期間 平成31年2月18日~水位が回復するまで」とある。

なんということだ。一応WEBでは検索したのだが、探し方が悪かったのか見つけられなかった。奥多摩観光協会トップページにも、奥多摩小屋のクローズは載っていてもドラム缶橋のことは載っていない。もしかして誰か書いているのに、SSL化していないのでGoogle様にはじかれたのだろうか。

それにしても困った。例の遭難グループ同様ドラム缶橋を目指す予定だったが、通行止ではこのルートはたいへんな遠回りとなる。ヌカザス山からムロクボ尾根経由深山橋バス停が最短ルートということになるが、ヤマケイガイドでは点線のバリエーションルートである。

都民の森休園で山頂に着くのが2時間遅れるのに加え、下山も遅れる可能性が大きくなってしまった。宿には6時到着と伝えてあるけれど、どうしよう。とりあえず登ってから考えるしかない。

バスは時間どおり10時に数馬到着。下りて見たらすごい日差しである。身支度を整えて歩き始めると、熱気が身体にまとわりつく。手元の温度計をみると31℃、ちょっとこれは厳しいコンディションだ。

すぐに奥多摩周遊道路に入る。いきなり傾斜10度の注意標識である。考えてみれば、数馬と都民の森の標高差が300m。距離が4kmなのだから、平地を歩いたって1時間かかる。それを1時間10分がコースタイムなのだから、ほとんど平地並みに歩かなければならない。あっという間に汗が噴き出す。

途中に都民の森へショートカットする遊歩道があるはずだが、入口の案内が見当たらない。仮に見つかったとしても、三頭山の方向へはいったん谷へ下りて登り返す難路なので、周遊道路を登った方が早かったかもしれない。コースタイムどおり1時間10分で都民の森の行先表示が出てきた。

チェーンを張って立入禁止にしてある前に自動車で来たおじさんがたたずんでいた。「今日は休みで入れませんよ」「山には行けるでしょう」とチェーンをまたいで中へ。エントランスには誰もいない。

そういえば、バスの中にも都民の森休園を知らないで来たグループがあって、仕方がないから浅間嶺登山口で下車していた。私はそこまでは折込済だったのだが、ドラム缶橋通行止は想定外であった。

かなり汗をかいたので、日陰を探して一休みする。ヤマザキランチパック・ジャム&マーガリンを食べて栄養補給。「この水は飲めます」と書いてある水道があったので、ありがたく飲ませていただく。

都民の森の中も、周遊道路同様に急傾斜である。森林館まで急坂を登り、トンネルを越えてしばらく行くと登山口があった。計画では避難小屋経由三頭山西峰に登るつもりだったが、森林館まで来てしまうと鞘口峠経由東峰に登った方が距離的にかなり近い。

そう思ってコースを変更して、鞘口峠にはすんなり着いた。12時ちょうどだった。これなら1時過ぎには頂上に着けるだろうと思ったのだが、例によってこれは大甘だったのである。


都民の森休業日のため数馬から歩かなければならない。炎天下の奥多摩周遊道路から三頭山を望む。


都民の森は休業日。車は入れないが人は入れる。水を補給して先に進む。


森林館の奥から三頭山登山道となる。距離短縮のため鞘口峠ルートを選んだのがどうだったか。

 

さて、この日の計画だが10時数馬出発、11時過ぎに都民の森で、1時頃には頂上に着いて遅くとも2時までには下り始めるスケジュールであった。下りを3時間とみて、17時14分に峰谷橋を通過するバスに乗れば午後6時に宿に入れるはずである。

そして、もし都民の森までショートカットできれば距離が短縮されるので、うまくいけばドラム缶橋を通らなくても何とかなるのではないかと考えたのであるが、先に書いたようにショートカット道は見つけられなかった。見つかったとしても、結局同じくらい時間はかかっただろう。

ともあれ、鞘口峠まで12時に登って来れたので、この時点ではそんなに悲観はしていなかった。なんといっても「頂上まで1時間強」という触れ込みであり、「1時間強」とは1時間半より短く、少なくとも2時間はかからないはずなのである。

ところが、都民の森に入ってからもペースが上がらない。木々の繁った中を歩くので奥多摩周遊道路のような炎天下ではないものの、あいかわらず傾斜が急で息が上がる。加えて、水分が体から出て行くらしく、ふくらはぎが攣りそうな雰囲気である。

都民の森に入って1時間強で頂上どころか、ようやく見晴し小屋である。鞘口峠から頂上までの半分である。そして、すでに午後1時。よく考えれば鞘口峠が標高1100m、見晴し小屋が1400mだから、標高差300mを1時間なら当然なのだが、1時間強で頂上と思い込んだのが迂闊であった。

見晴し小屋のベンチに腰掛け、水を多めに飲む。この日は2リットルのプラティパスと500mlペットボトルを3本持ってきたのだが、プラティパスが凍ったままで1リットルほどしか水になっていない。それでも2.5リットルあるので何とかなるはずだったが、この時点まですでにペットボトル2本は空である。

水に加えて、エネルギーゼリーを摂ると、ふくらはぎの違和感はなくなってきた。それでも、まだ頂上まで半分あるので無理はできない。ゆっくり目のペースで歩を進める。

このあたりから、稜線を忠実にたどる登山道と、都民の森の「セラピー仕様」コースが別になっている。足の具合もあるのでセラピーコースをとる。思った通り距離は長そうだが、傾斜が比較的ゆるやかになったようだ。

見晴し小屋からさらに1時間、頂上直下の急坂を登ると、三頭山東峰手前の展望台に着いた。矢も楯もたまらず、展望台と一体化したベンチに座り込んでリュックを置く。

すでに時刻は午後2時を回っている。1時間強どころか、都民の森に入って3時間、数馬からだと4時間かかってまだ西峰に着かない。ドラム缶橋の通行止どころか、三頭山登山だけでも全然計画どおりにはいかなかったのである。

山頂で食べるつもりだったフルーツパックを開ける。甘くておいしいが、虫が寄ってきた。

再び、例の遭難グループのことを考えた。彼らも10時過ぎに都民の森から登り始めたということだが、頂上まてどれくらいかかったのだろう。20cmほど積雪があったというから、少なくとも午後1時、ゆっくり休んでいたら下山開始は午後2時を過ぎていたはずだ。

三頭山には避難小屋があるという報道があったけれども、避難小屋はドラム缶橋とは逆方向である。ひとたび奥多摩側に進んでしまったら、戻って避難小屋という発想は浮かばなかっただろう。そもそも、彼らが避難小屋を通って登って来たかどうか。

東峰を素通りしなければ手前にある展望台は見たはずであるが、少人数なら雨風を避ける場所はあるにしても、十数人避難できるほどスペースはない。結局、稜線で朝まで待つことになったのだから、展望台の方がまだましだっただろうが。

そして、日の長い5月下旬ならそれほどあせる必要はないけれども、3月であれば午後4時過ぎると暗くなる。天気が崩れて太陽が出ていないとなると尚更である。天気予報を見ていなかったとしても、暗くなったのは分かりそうなものだ。


都民の森の登山道はよく整備されているが傾斜が急で、いかんせん気温が高すぎてペースがあがらない。


予定よりも1時間以上遅れて午後2時過ぎてようやく東峰直下まできた。でも、なかなか頂上には着かない。


東峰には展望台があるが、すぐ先の中央峰にはベンチがあるだけ。ここから西峰はいったん下りまた登る。

 

当初予定では下山途中であるはずの午後2時過ぎ、まだ東峰下の展望台にいた。すでに午後5時台のバスは絶望的で、それよりも日が暮れるまでに下山できるかが心配になってきた。

ありがたいことに、東峰は展望台からすぐだった。木製の山名標と三角点があるが、ベンチなどはない。そのまま通過して、中央峰もすぐ先だった。こちらも東峰同様に木の山名標と、少し先にベンチが2脚ほど置いてある。都民の森休業日であり、誰もいなかった。

中央峰から西峰へは、いったん大きく下ってまた登る。さすがにここまで来ると、都民の森が休みにもかかわらず先客がいた。この西峰が3つの山頂の中でいちばん広い。山名標も鷹ノ巣山などと同様石造りの立派なもので、1524.5mと標高も刻まれている。数馬バス停からは約850mの標高差、久しぶりの長い登りだった。

ガイドブックにも書かれているとおり、眺めはすばらしい。北に展望が開けていて、六ツ石山から鷹ノ巣山を経て雲取山へと続く石尾根が雄大である。南方向は富士山があるのだが、この日は残念ながら雲に隠れて見えなかった。

問題は、すでに午後2時半を回っているということであった。そんなにゆっくりしてはいられない。プラティパスの氷が解けた分をペットボトルに移すと、ちょうど500mlあった。下りはこれで間に合わすしかない。再びリュックを背負い、15時10分前、あたふたと出発する。

ヌカザス尾根に入る道を探すが、西峰から直に下りる道はない。いったん中央峰方面に戻ったところに、鞍部からヌカザス尾根方面と書いてあったことを思い出した。急傾斜の坂を下って行く。

「ここからは都民の森ではありません」との表示に不安をかきたてられるが、歩き始めると意外と歩きやすい道だった。尾根は広く、傾斜は比較的緩やかで、地盤もほぼ平らで歩きやすい。登りではごつごつとした岩の道が多かったので、どちらが都民の森か分からないくらいだった。

この、三頭山からヌカザス山までの間で、例のグループが遭難騒ぎを起こしたのだった。雪がどのくらい積もっていたか不明だが、それほど難儀する道のようにも思えなかった。確かに標識等は少ないし、赤テープもほとんどないので分かりづらいけれども、尾根を外さないように気をつければ迷うような場所ではない。

ヌカザス山直前のツネ泣坂が急傾斜の下り坂で難所だが、ロープもあるし慎重に下りれば何とかなりそうだ。だから遭難騒ぎの一番の要因は、日が暮れて暗くなってしまったということにあったと思う。

アイゼンなしで何とかなる可能性はあるとしても、ヘッデンなしで夜道を下るのは無理である。そして、通報したのが午後6時を回ってからだというから、おそらく三頭山頂上の時点で、日没前に奥多摩側に下山するのは無理な時間だったのではなかろうか。無謀である。

さて、他人のことをどうこう言うよりも、自分自身が無事に下山しなければならない。三頭山西峰から30分ほどで鶴峠分岐、その少し先に作業道分岐がある。いずれも小菅村方面に下山が可能だが、ドラム缶橋が通行止とは知らないので下調べしていない。

唯一、吉備人地図のコピーに写っていたのは、ムロクボ尾根のコースであった。これさえ意図してコピーしたものではなく、たまたまイヨ山経由の画面でとれていたというだけである。

ともかくも、ドラム缶橋が使えないとなると深山橋まで回らざるを得ず、そうなるとムロクボ尾根を下りる方がずいぶん近い。問題は、凶悪な急傾斜で遠回りするよりもっと時間がかかるというケースがありうることだ。

ヌカザス山へのルートでほとんど唯一の急傾斜であるツネ泣峠をなんとかクリアし、ヌカザス山分岐に16時15分に到着した。三頭山から1時間20分、ほぼコースタイムである。ここから深山橋までコースタイムは1時間40分、ただ、吉備人地図のコースタイムが当てにならないことはすでに学習済である。


西峰はもっとも頂上らしく、例の石造り山名標がある。後方に見えるのは石尾根だが、残念ながら富士山は雲の中でした。


西峰からいったん中央峰方向に下り、ヌカザス尾根に入る。「ここからは都民の森ではありません」の表示が不安をかきたてる。


ヌカザス尾根は1時間ほど幅の広いなだらかな尾根が続く。雪が積もってもなんとか進めそうな道に見えた。

 

イヨ山方面とムロクボ尾根の分岐はヌカザス山への最後の急登前にあったので、体力が温存できてたいへんありがたかった。

とはいえ、この尾根の下り口はいきなりまっさかさまの急降下である。吉備人地図でも(注)急傾斜ロープと書いてある凶悪な坂だ。ロープには1m置きに結び目が結ばれており、ロープをつかんで後ろ向きになり慎重に下りる。

この急傾斜をクリアすると、あとは比較的歩きやすかった。大きく迂回しながらスイッチバックを繰り返すような道で、なかなか進まない代わりに確実に標高が下がる。この状況では滑落の危険が少ないのが何よりありがたい。

午後5時が近づき、ずいぶん山の上にあった太陽が地平線近くにまで下がってきた。足下が暗くなる前にヘッデンを用意しなければならない。尾根の広くなったところで、リュックを下ろしてヘッデンを出し胸ポケットに入れる。ついでに、プラティパスからペットボトルに水を補給する。まだほとんど氷のままで、残りは半分少々。300mlといったところか。

そろそろアンテナが立たないかなと思って携帯をみると、ありがたいことにアンテナが2本立っていた。宿に電話を入れて事情を説明し、到着が遅くなることを連絡する。「気をつけていらしてください」と言っていただいた。そのとおり、とにかく安全にケガなく下山することが大切だ。

GPSで現在地の標高を調べると885m、奥多摩湖の標高が700mくらいだから、あと200m弱。1時間あれば何とかなりそうだ。しばらくして、樹間から奥多摩湖の水面が見えた。あそこまで下りればバスに乗れる。あと1時間で午後6時、深山橋のバスは18時23分、47分と19時08分。多少多くかかったとしても、バスの時間は大丈夫そうだ。

宿に連絡がついて、バスの時間もまず大丈夫、目指す奥多摩湖も見えてきた。あとの心配は、再び凶悪な急傾斜が出てこないかということと、残り少なくなった水である。

凶悪な急傾斜については、やはり奥多摩湖に下りる御殿山からの大ブナ尾根がたいへん滑りやすい急坂だったので心配したのだが、尾根の入り口を除くとロープもほとんど出て来ず、滑りやすい場所も少なかった(それでも足の爪はやられた)。

水の心配は、ここまできたら仕方がない。麓までもたせるよう節約して飲む。体温が上がっているのか、水分補給するとすぐ汗になって出てきて、また喉がかわく。もっと水を用意すればよかったといつもながら思う。

午後6時前、ようやく眼下にガードレールらしきものが見えてきた。それでも足下は急傾斜で、最後まで油断できない。胸ポケットに用意していたヘッデンは使わずに済んだが、これが冬であれば臼杵山の時のように暗闇をヘッデン頼みで下りることになっただろう。全く、他人のことは言えない。自分自身が、危ない目に遭わないようにきちんと計画して準備しなければならない。

舗装道路まで下りるとそこは三頭橋だった。渡っている途中に小菅方面からのバスが通り過ぎて行ったが、ここまで来ればあわてることはない。これを逃しても、30分後にまた来る。

三頭橋を渡ったところのお店に自販機があったので、500mlのコーラで久しぶりに思う存分水分補給する。結局ペットボトルの水は100mlほど残して下りることができたが、都民の森で補給しているので、家から持ってきただけでは足りなかったということである。

二つ目の深山橋を渡ってバス停へ。切り株のベンチに腰掛けると、ちょうど橋がライトアップされた。明るいうちに下りて来れたと思っていたが、危ないタイミングだった。バスに乗っている間にすっかり暗くなった。

奥多摩駅前の宿「鉢の木」に着いたのは7時20分過ぎ。片付けがあるだろうから先に食事しますと言ったのだが、「ゆっくりお風呂に入っていらっしゃい」と奨められ、まずお風呂をいただく。とにかく、無事に下りて来られてほっとした。

夕飯にビールの大瓶をいただいたところ、あっという間に汗になってしまった。さらにもう1本ビールと地酒「澤乃井」をいただき、自らの健闘に乾杯したのでした。

この日の経過
数馬バス停(686) 10:10
11:20 都民の森(990) 11:40
12:00 鞘口峠(1080) 12:10
13:05 見晴し小屋(1332) 13:10
14:10 東峰下展望台(1515) 14:20
14:35 三頭山西峰(1531) 14:50
15:15 鶴峠分岐(1419) 15:20
16:05 ヌカザス山分岐(1171) 16:10
17:00 ムロクボ尾根中間点(885) 17:05
18:30 深山橋バス停(698)
[GPS測定距離 12.7km]

[Jul 29, 2019]


ヌカザス山に近づいてツネ泣峠あたりで急傾斜となる。このあたりで進退窮まったか、あるいは暗くなってヘッデンがなかったか。


麦山浮橋(ドラム缶橋)が通行止のため、ヌカザス山分岐からムロクボ尾根にルートをとる。いきなりたいへんな急傾斜だが、危険個所はここだけだったのはありがたかった。


水位が下がった小河内ダム。現在の貯水量は75%前後で、これだとドラム缶橋は通行止になるようです。