103 第32期竜王戦挑戦者は豊島名人 [Sep 9, 2019]

第32期竜王戦決勝トーナメントは、まれにみる激戦のトーナメントであった。現方式で初の4組からの挑戦権獲得が期待された藤井七段だが、近藤六段、久保九段相手に勝ち進んだものの、準々決勝で豊島名人に敗れて初のタイトル挑戦はならなかった。そして、準決勝に残った4名が、ランキング1組の1~4位通過者という、シード順どおりとはいえ珍しい組み合わせとなった。

一方の山の準決勝は8月2日に行われた。ランキング戦1位の渡辺三冠対4位の豊島名人の対戦で、これは7月まで行われていた棋聖戦五番勝負の再戦である。振り駒の結果先手となった豊島名人が、3五に飛んだ桂馬を5三に成るという思い切った作戦をとった(下図)。

金で取ると角打ちの隙が生じるので玉で取ったものの、3四の歩を取り込んでこの時点で桂馬と歩2枚の交換。通常は桂損が大きいのだが、後手の陣形を乱したのと3四の歩が2筋の銀・桂を封じ込めて先手が攻勢をとる。そのまま豊島名人が押し切って決勝進出を決めた。

この手順はあまり見たことがなかったので、おそらく豊島名人が棋聖戦の先手番用作戦として準備していた作戦と思われる。棋聖戦が不利な状況となったので、一発勝負の竜王戦で使ったのではないだろうか。渡辺三冠も意表を突かれたかもしれない。

翌週の月曜日にもう一方の準決勝、ランキング戦2位の永瀬叡王と3位の木村九段の対戦。永瀬が勝つと7月の王座戦挑戦者決定戦の再戦、木村が勝つと現在進行中の王位戦七番勝負と同じ組み合わせの決勝戦である。

こちらの準決勝は、永瀬叡王が時々やるところの「ヤマが外れました」的な戦いとなった。横歩取り角交換から永瀬叡王が歩切れで苦しい攻勢をかけ、木村九段が丁寧に受けて逆襲、双方持ち時間を1時間ほど余して木村九段の勝利となった。

これで豊島名人vs木村九段は、王位戦と並行して十番勝負となった。この時点で王位戦は豊島王位が連勝スタートとなっていたが、合わせて十番勝負となることで流れが変わったようだ。

8月8~9日の王位戦第3局を木村九段が勝って七番勝負初白星をあげると、13日の竜王戦挑戦者決定戦第1局は豊島名人の勝ち。20~21日の王位戦第4局は木村が勝ち、そして23日の挑決第2戦、かなり不利な一局を木村が逆転して王位戦・竜王戦どちらもタイとなる3勝3敗でお互い一歩も引かない応酬となったのである。

ところがベテランの木村九段の体力的な問題もあったのか、王位戦第五局、竜王戦挑決第3戦はいずれも豊島名人がかなり早い段階から優勢となった。そして豊島名人がそのまま押し切り、2勝1敗で初の竜王戦七番勝負進出となったのである。

竜王戦については、3局とも夕方までに豊島名人が優勢となったため、白熱した戦いという印象はあまり受けなかった。とはいえ第2局は夜に入って逆転したから勝つまでは容易ではないということなのだが、やはり長丁場では20歳近い年齢差が出たのかもしれない。

豊島名人にとって、今年4月以降では名人戦、棋聖戦、王位戦に続く番勝負となる。王位戦の決着がつく頃には今期30局前後になるはずで、対局数・勝ち数ともにトップを争う数字である。かたや広瀬竜王は今期まだ一桁対局で、今現在の調子ということでは豊島名人に分がありそうである。

そしてこの二人は、竜王戦と並行して王将戦リーグでも戦わなければならない。王将戦リーグは藤井七段が予選通過しており、注目を集めることは間違いないのでこちらも手を抜けない。竜王戦の七番勝負が王将戦リーグに影響があるのかどうか、注目される。

[Sep 9, 2019]


準決勝の渡辺vs豊島戦では、先手番の豊島名人が3五桂から5三桂成という手順で渡辺三冠の陣形を乱し押し切り勝ち。これはおそらく、かねてからの研究手順と思われる。