104 第60期王位戦 [Sep 27, 2019]

第60期王位戦七番勝負(2019/7/3~9/26)
木村一基九段 O 4-3 X 豊島将之前王位

王位戦は若手でも活躍できる棋戦と昔から言われている。その理由はというと、名人でもデビュー間もない新人でも予選が横一線のスタートで、しかも勝ち抜けが8人だから他の棋戦よりは勝ち上がりが比較的楽ということがある。

ただ、私のみるところ挑戦者になるのはそれほど楽ではない。決勝リーグはシード4人と勝ち抜け8人が2組に分かれての総当りで、その1位同士が挑戦者決定戦を行う。総当たりということは全員と当たるということで、その中には当然後手番で指さなければならない何局かが含まれている。

さらに、タイトル戦は2日制の七番勝負である。持ち時間の長い2日制で、タイトル保持者から4勝をあげなくてはならないという高いハードルなのである。

若手の活躍云々が言われたのは、おそらく高橋道雄、郷田真隆が低段者のうちにタイトルを獲ったことが大きいと思われるが、この両者とも決してフロックではなく、その後もタイトルを獲得している。高橋はつい最近まで竜王戦ランキング1組にいたし、郷田は久保のすぐ前の王将である。

今年も佐々木大地五段、長谷部浩平四段といった若手が予選を通過し、挑戦者決定リーグを戦った。しかし両者とも残念ながら届かず、紅組・白組とも4勝1敗者が2人で、4人のプレーオフというこれまで例をみない激戦となった。

プレーオフに残ったのは、菅井前王位、木村九段、羽生永世七冠、永瀬叡王の4名。この中で、おそらくオッズが一番高かったであろう木村九段が勝ち残って挑戦者となった。これが7度目のタイトル挑戦。対深浦王位の3連勝4連敗を含め、タイトル獲得はまだない。「不屈の挑戦者」というキャッチコピーが付いた。

そして七番勝負が開幕、まず豊島王位が2連勝した。特に第2局は、2日目午前中の段階で木村挑戦者が評価値2000点以上リードしていて、解説していた棋士が「これで逆転したらシリーズ終わりですよ」と言っていたくらいである。その絶対有利な局面から、木村九段は負けた。それを見ていて、これは豊島王位の防衛間違いなしと思った。

ところが、第2局と第3局の間に行われた竜王戦決勝トーナメントの準決勝で、この2人がいずれも勝ち上がって挑戦者決定三番勝負を争うこととなったのである。王位戦と合わせて十番勝負である。

この展開は、木村挑戦者にとって大きかった。「あと2つ負ければ終わり」か「あと4つ負けなければ終わらない」ではかなり違う。とにかく木村九段が1勝すれば、その後はどう転ぶか分からない。案の定第3局は、木村九段が後手番から得意の受けに持ち込んで1勝をあげた。

続く第4局は、木村九段得意の相入玉模様の点数争い。この手の将棋をトップクラスで最も指しているのが木村九段で、今回の王位戦リーグでも菅井七段との三百手に及ぶ激戦があった。中盤で大駒3枚を確保した木村九段が、最悪でも持将棋(引き分け)という局面から、着実にポイントを上げ2勝2敗のタイに持ち込んだ。

その後、第5局は豊島、第6局は木村が制して、十番勝負第10局にもつれ込む。振り駒の結果、先手は豊島王位、得意の角換わりとなる。今シリーズ、角換わりで豊島王位は連勝中であった。

しかし、封じ手前後に豊島王位が連続長考する頃から様子が変わってきた。強く玉を前進させ入玉をめざすのかと思うと、一転して後退する。下の途中図では6二に打った歩が重く、しかも歩切れである。木村九段は王手をした銀で金を取り、このあたりで評価値は逆転した。

先手は6一歩成とする他はないが、ここで6九角打ちが絶好で、4九玉から3六角成となって大勢決した。豊島王位も逆転の筋を連発して粘ったものの、受け師・木村が本領発揮して受け切り、最後はみごとに一手余してみせた。

木村の46歳初タイトルは史上最年長だが、「初」でなければまだ上はいる訳だし、年齢とか記録とかいうのはどうかと思う。それよりも、将棋ソフト全盛の時代に、長手数歓迎・相入玉上等というきわめて特徴ある棋風で、第一線の若手連中と五分に戦っているということがすばらしい。

例えをあげるならば、立ち技中心・攻撃重視の講道館オリンピック柔道の中で、寝技中心・守備重視の高専柔道が戦っているようなイメージである。今年の夏も、豊島・永瀬・佐藤天・菅井といった若手一線級を王位戦・竜王戦で破っている。まだまだ、相入玉の点数争いの将棋をみせてほしいものである。

[Sep 27, 2019]


今期の王位戦七番勝負は、竜王戦挑戦者決定戦と並行して豊島・木村の十番勝負となった。結果は5勝5敗の五分で、王位戦は木村九段悲願の初タイトルとなった。局面は最終局で優勢が確立した7八銀。