027 年金生活雑感 非常事態と核シェルター [Oct 10, 2019]

リタイアエイジの後も働き続ける人達が多い。その最も大きい理由は、老後何かあった場合の備えということだろうと思う。

もちろん人によっては、家のローンが終わっていないとか子供にカネがかかるという理由もあるだろうが、それらは負担にならないようリタイア前に準備することが可能だ。しかし「老後何かあった場合」というのはいくら準備してもしきれるものではない。

そして、「おカネを貯めておけば何かあった時の備えになる」かどうか、私にはよく分からない。おカネが備えになるのは商品に換えられるからであるから、本当のカタストロフになったら、役に立つのかと思うのである。

第二次オイルショック時のトイレットペーパー騒ぎは、私が高校生の時だからずいぶん古い話になった。もう45年も前のことだから、70年前の第二次大戦中と大して変わらないと思う人もいるかもしれない。

コメ不足でタイ米しか手に入らなかったのは、子供が生まれた頃だから30年ほど前である。これだって生まれてないから知らないという人が社会人でも多くなっただろう。

灯油やガソリンが足りなくなる騒ぎも、それ以上にあった。地震が起こるとたいていガソリンスタンドに多くの車が並ぶことになる。震災といえば、3.11の翌朝、コンビニから品物がなくなった光景も忘れられない。

私にとって「いざという場合」とは、電気やガス、水道、石油供給といったインフラが止まることである。体調の問題であればいまさら高額医療に頼るつもりはないし、少なからぬ保険料を払っているのだから健康保険を当てにしてもバチは当たるまい。

一方で、何か突発的な理由でインフラが止まった場合とか、お腹がすいて何も食べるものがなかったらどうしようと思うと、そうした備えこそ普段から考えておくべきだと思う。

実際に先月の台風15号では、冬になるとたびたび訪れる房総山間部で、停電がいつまでも復旧せず地元の方々はたいへんなご苦労を余儀なくされた。私の住むすぐ近くでも家屋に被害があったのだが、漏れ聞くところによると見積りは2ヶ月先、工事は来年という。

現状、わが家では数日間なら家の中だけで過ごすことができるだけの備蓄食糧(と酒)はあるし、歩いて行ける場所に水道局があるので水の心配はそれほどしなくてすむ。煮炊きくらいの燃料は、登山用でも石油ストーブでも使えばいい。

しばらく前は、家の中に数ヵ月分の燃料食糧を備蓄している人はいまより多かったし、TVや雑誌でもときたま取り上げられていた。自給自足も、もともと補給が途絶えた場合という発想だったはずだ。

当時は、核戦争とか放射能といったリスクがいまよりずっと切実に意識されていて、核シェルターにするため地下室を造りましょうなんてことも大真面目に議論されていた。

ところがいつのまにか、核シェルターなんて誰も真面目に考えなくなり、自給自足は自然食という観点からに変わってしまった。ではそうしたリスクがなくなったのかというと、状況は全く変わらない。狼少年や非常ベルのように、誰だってずっと騒がれたら注意力が散漫になるのである。

そんなことを考えるので、個人的にはリタイア後はなるべく家にいるようにしているし、おカネを貯め込むより何かあった場合の備えについて自分なりに考えることの方を選びたい。

まず気をつけなければならないことは、飲まなければならない薬とか受けなければならない治療をなるべく少なくすることである。幸い持病(糖尿病)の薬は少なくなってきて、おそらく緊急時に1週間くらい飲まなくても死ぬことはなさそうだ。

そして、少々の場所(例えば、市役所までの徒歩1時間とか)なら荷物を持って往復できる体力を維持しておくことである。これも、いまのところ大丈夫そうだ。

後は、何が起こっても頭をクリアにしてパニックに陥らないこと。外せない約束とか遠出の予定などはなるべく少なくした方がいいだろう。TVや新聞、インターネットが途絶え情報が入手できなくなることも想定しなければならないが、これはリタイア生活で慣れている。

これらのことは、おカネの有無以上に重要なことだと思うけれど、あまり重要視されていないようである。しかし私は、1週間以上もインフラが途絶えるような非常事態に、おカネだけがいつもどおり通用すると考えるほど楽観的にはなれないのである。


登山用食糧は、非常食としても有効です。

 

先週、非常食のことを書いたときにちょっと触れたけれど、しばらく前に核シェルターが大真面目に議論された時期があった。

その頃、ゴルゴ13に、霞ヶ関や永田町の地下鉄空間がやけに広いのは核シェルターだと書いてあったのを覚えている。言われてみれば、高級官僚や国会議員は自分達の安全のためならそのくらいやりそうだ。(ゴルゴ13はモンタナ州の山中に山小屋に偽装した核シェルターを持っていた)

民間でも地下室だの防護壁だのを作るべきだという、今にして思えば荒唐無稽な話もあった。非常物資や自給自足の話も、もともとそういう目的からの発想である。

荒唐無稽とは言い過ぎと思われるかもしれないが、本当に核攻撃があったら1週間や2週間でインフラが復旧するとは思えないし、待ったからといって補給されるかどうかも疑問だ。穴倉にこもって助けが来るかどうか分からない状態で、外部と連絡がつかないのは一撃で死ぬよりつらいかもしれない。

かつて恐竜を滅ぼすこととなった巨大隕石の衝突も可能性としては否定できない。その場合は、一撃で地球全体の何分の1かはアウトだし、大気中に巻き上がった粉塵の影響で作物も全滅するから昆虫でもなければ数ヵ月ともたない。

そうしたことを考えると、核シェルターがないとダメなようなケースでは潔くあきらめて、おいしいワインでもいただきながら観念するというのがベターな選択かもしれない。となると、ワインセラーと必要最低限な水と食糧あたりの備蓄で十分ということになる。

可能性としてより大きいのは地震とか気象災害で、つい先日の台風でも大きな被害を受けた地域があった。ただ、そういう場合は核シェルターというよりも、非常電源や非常物資、通信手段といったあたりが重要になりそうだ。

そうしたケースでは、日本全体が機能不全に陥るケースは考えにくいので、道路さえ使えれば被害の少ない地域に避難するという手がある。移動が困難なケースであっても、市役所や交通機関まで歩いて1時間かからない都市部においては、孤立する危険性を小さくできるだろう。

あれこれ考えると、核シェルターが必要になるようなケースでは、おカネを持っていても通貨に価値がなくなったり、日本全国どこへ行っても食糧が調達できなかったりするおそれが大きく、そもそも核シェルターだけあってもどうにもならない。

仮に核シェルターで最初の一撃を回避できたところで、お店に行っても食べるものもなく、病院もないので病気やケガは自然治癒を待つしかなく、電気もガスも水道もないような状況で、生き延びるのは非常に難しい。

だとすれば、核シェルターなどは誰かが自分のカネ儲けのために針小棒大に大騒ぎしてみせただけのようである。あれも、もしかするとバブルの一環であり、超のつくリッチな人だけが心配することであって、そういう人にしたところで穴倉にこもる以上のことはできないのである。

心配しても仕方ないことは心配するだけ時間の無駄だし、きちんと考えなければならないことは別にあるのではないかと思っている。

[Oct 10, 2019]