670 六十七番大興寺 [Oct 14, 2018]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

雲辺寺を出たのが午前11時。昼前に出られれば後はなんとかなると思っていたので、ここまでは順調といってよかった。次は「大興寺9km」である。歩き始めは、3時間かかっても午後2時到着とたいへん甘く考えていた。

実際に、遍路地図別冊の歩行距離表には、雲辺寺・大興寺間の平均所要時間は3時間と書いてある。だから、その時間で歩ける人もいるのだろうけれど、正直、ここはハードだった。そう簡単には着かない。

ちなみに「四国のみち」香川県版のホームページでは、雲辺寺から逆瀬池までの所要時間を4時間半としている。逆瀬池は、大興寺よりもずっと手前である。

しかし、歩いている時はそんなことは知らない。遍路地図の所要時間だけ見て、3時間で着くものだと思って歩いていた。なるほど、下り始めは快適だ。個人的に、東海自然歩道を「高速登山道」と呼んでいるのだが、「四国のみち」のこのあたりはそれに匹敵する快適さであった。

ところが、萩原寺方面への道を分けるあたりから、容赦ない下り傾斜のスイッチバックとなる。足下も登山靴ではなくウォーキングシューズだから、なかなかグリップが利かない。滑りそうになるので、一生懸命ブレーキをかけながら下って行く。

佐野からの登山道と違って、頻繁に標識が出てくるのはさすが「四国のみち」だが、その数字がなかなか減らないので力が入らない。そして、休もうと思っても、日陰になっているものだからベンチがみんな苔で緑色に染まっている。とても座る気になれない。

30分下って1kmしか数字が減らず、1時間下っても2kmしか減らない。下りだというのに、登り以上に時間がかかっている。もしかして雲辺寺で飲んだコーラだけでは補給が足りないのかと思って、歩きながらカロリーメイトを食べる。

そうしていると、ようやく日が差している場所にベンチがあり、見た目も乾いて座れそうである。リュックを置いて一休みする。カロリーメイトの残りとパックのミックスフルーツを食べて、ようやく人心地がついた。

「四国のみち」の標識があり、ここは一升水という場所であった。峠越えの人が水を飲んだ場所のような地名だが、ここから谷を下ったところに鰻渕という水の湧く場所があり、昔、日照りの際に人々がウナギに祈って水を得たという伝説があるらしい。

この一升水から大興寺までが6.1km、標高差はまだ400mもある。ここまで下ったのと同じ標高差を下らなければならない訳で、とてもあと2時間で着くとは思えなかった。

気を取り直して出発するが、やっぱりというか、そこから先も延々と登山道は続き、ようやく林道まで下りてきたのは午後1時過ぎ、雲辺寺から2時間以上が経過していた。この時点で大興寺まで残り4.5km、この間1.6kmに1時間近くかかった計算になる。

登山道から出てからは快適な舗装道路で、傾斜も格段に緩やかになった。間もなく、民宿青空屋の前を通る。ここに宿が取れれば、あと2時間、いや3時間遅く出発しても大丈夫で、余裕をもって歩けただろう。でも、誰とも会わないのにそんなに予約があったのは妙だなと思った(おそらく、この日に集中していた秋祭りの影響である)。

青空屋を過ぎてからも、大興寺まではまだまだ長い。ただ、このあたりになってくると景色が開けて、山道とは違って歩いていて楽しい。はるか向こうの海側に見える小さな丘が琴弾山で、その右に見える大きな山塊が、本山寺の後背になる七宝山であろう。そこからずっと山並みが続き、その中には弥谷山や我拝師山もあるはずである。


一升水の休憩ベンチ。ここまでのベンチは湿っていて座れなかった。カロリーメイトとフルーツパックでお昼にする。


歩き始めて2時間、ようやく登山道が終わり、舗装道路に出た。この少し先が民宿青空屋で、ここまでだったらスケジュール的に楽だった。


県境を抜けて香川県に出ると、観音寺方面への伸びやかな眺めが広がる。大きな山塊が観音寺や本山寺の山号でもある七宝山。右に連なるのがこれから歩く弥谷山・我拝師山。

 

大興寺が近づくと、いくつかあるため池を迂回しつつ進む。まっすぐ進めるとは限らないので、見た目よりも距離がある。真念「道指南」にも「この間池二つ有 ふたつめにしるし石有」と書かれているが、小さい池を合わせると現在ではもっと多い。

とはいえ、地図でみる限り最も大きいはずの岩鍋池にはほとんど水はなく、土色をした底土が見え、その中を細い川が流れているだけだった。1週間ほど前に台風が来て大雨になり、横峰寺のあたりでは土砂崩れも起こったほどだというのに、県境を越えると水不足なのだろうか。ちょっと意外な気がした。

そして、大興寺、かつての小松尾山である。小さな、とはいっても標高差で20~30mはある坂を2つ3つと登り下りしなければならない。順打ちルートだと民宿おおひらの前に出るのだが、山門へは再び下って山を半周しなくてはならないのだった。途中で気づいて、本堂までショートカットする。

結局、大興寺に着いたのは午後2時55分、雲辺寺からは4時間かかった。遍路地図別冊に載っている所要時間よりも、「四国のみち」ホームページに載っている所要時間の方が、ずっと実態に近いということである。

小松尾山大興寺(こまつおさん・だいこうじ)。「道指南」では小松尾山、ご詠歌では「小松尾寺」としているが、霊場記には「小松尾山大興寺」と現在と同じ山号・寺号で載っている。

その霊場記の挿絵が、現在の姿とほぼ同じである。遍路道から本堂・大師堂のエリアに入り、石段を下って大興寺の庫裏という絵が描かれている。ということは、現在の山門のあたりを昔は大興寺といい、いまの本堂のあたりを小松尾寺と言ったものだろうか。

歩いてくる時は気づかなかったが、寺全体が一つの山になっていて、古墳のように見える。本堂一帯や民宿おおひらのあたりは20~30m高い丘の上で、そこから下って山門があり、その前は広い水田になっている。

ご本尊の薬師如来は香川県の指定有形文化財。寺に伝わる天台大師(中国天台宗第三祖智顗)坐像、弘法大師坐像も、同じく有形文化財の指定を受けている。天台宗と真言宗が併存する札所も珍しいが、このことは「霊場記」でも触れられており、最盛期は七堂伽藍を有する大寺だったという。

その面影はいまでも残っており、本堂エリアは広々として落ち着いていて、かつて両宗研究の場として多くの学僧が勉強していた雰囲気が感じられる。それと、山の上と麓ではお寺の雰囲気もかなり違っていて、山の上は隔絶しているし、麓は開放感がある。

遍路バスツアーの一団が来て、いっぺんににぎやかになる。駐車場は、山門ではなく本堂レベル、つまり丘の上にあるようだ。とはいえ、境内は広いので、それほど気にはならない。

さて、雲辺寺からの歩きに4時間を要してしまったため、大興寺のお参りが済むと午後3時を20分ほど回ってしまった。こういうことがあるから、計画には余裕をもたなければならないのである。

この日はタクシーの都合で予定より1時間早く5時にスタートしている。だから、もし予定どおり6時に出発していれば現時点で4時半、納経時間ぎりぎりになったということで、まさにケガの功名であった。

この日の札所はこれで終わり、あとはホテルまで歩くだけであるが、距離はあと約7kmある。


大興寺本堂。道指南では小松尾寺とあり、ご詠歌にもそう謳われている。


大師堂から納経所。麓に下りて来ると、お寺の雰囲気も変わる気がする。


「小松尾山」の扁額が掲げられた山門。順打ちだと、民宿おおひらから本堂・大師堂を経て石段を下って山門に達する。

 

大興寺の周辺は農家と水田であるが、すぐに太い通りに出る。ここが国道377号線で、11号線と並行して山寄りを通る。ここを通れれば分かりやすいのだが、残念ながら観音寺市街へは、この通りを横切り、高速道を横切り、さらに国道11号線を横切らなくてはならない。

そして、遍路地図によると、その間まっすぐな道はなく、結構曲がりくねりあっちこっちで折れなければならない。分かりづらい道なのであった。

すでに午後4時を回った。市街地に近づいて、車の量も多い。3時起きして5時から歩いて、昼ご飯はカロリーメイトである。夕方近くなって、なかなか足が上がらなくなってきた。

心強いのは、まだ日が高いので暗くなる心配がないことであった。遅い方のタクシーで7時に出発していたら、今頃は間違いなく薄暗くなっているはずである。早く出発してよかった。

計画段階で、このあたりで日が暮れる事態も想定していたのだが、コミュニティバス自体あまり本数がないのと、ちょうどこの日(10月14日・日曜日)が運休という情報があった。

来てみて分かったが、愛媛県西部の伊予三島・川之江近辺と同様、観音寺周辺は秋祭りの最中で、おそらくそのための通行規制である。この日も方々から太鼓の音が聞こえ、通りの奥からは祭り装束の若い衆を見ることができたので、まさに秋祭りたけなわというところだったようだ。

大興寺のあるのは観音寺市ではなく三豊市になるが、市街地がほとんどつながっている。その中を、観音寺市内に向かってひたすら歩く。大興寺を出発して1時間ほどで、高速道の下を通過した。あと半分である。

高速道路から50mほどのところに、屋根のある小屋とベンチが見えた。「お遍路さんの休憩所」と書いてある。ありがたく、休ませていただく。5分ほど休んで出発。まだ4時半だから、5時半くらいには着く。ここからのタイムロスは、坂道ではなく信号待ちだ。

市街地に入り、案の定信号待ちで何度か足止めを食う。いくつめかの信号に、セブンイレブンがあった。夕飯はどこか駅前でと思っていたのだが、セブンでお寿司でも買って済ませてしまおうと思う。入ってみると、お寿司は置いてなかった。適当に買って、次の次の信号くらいで線路を渡ると、なんと小僧寿しがあった。間が悪いことである。

予約してあったのは、観音寺駅前にあるサニーイン。出張で何度か泊まったことがある。素泊まり1泊で5900円はそれほど安くはないけれども、とにかく交通の便のいい宿である。17時40分到着。大興寺から2時間20分、椿堂下から歩き始めて12時間20分という長丁場であった。

自販機でビールを調達し、セブンで買ったしらすごはん、豚しゃぶもやし、チョレギサラダで夕飯にする。このホテルにはレストランも併設されているが、日曜日はやっていないのであった。

この日の歩数は61,945歩、GPSで測定した移動距離は30.6km。雲辺寺の登り下りがあって30kmだから、平地だったら35kmくらい歩いたことになりそうだ。

この日の経過
雲辺寺 10:55 →[3.2km]
12:10 一升水休憩所 12:20 →[1.6km]
13:10 登山道分岐 13:15 →[4.5km]
14:55 大興寺 15:20 →[4.3km]
16:30 お遍路休憩所 16:35 →[3.9km]
17:40 観音寺サニーイン(泊)

[Oct 26, 2019]


山の中と違っていくつも道が交差するので、道が分かりづらい。特に小松尾山から観音寺は、平坦なので見通しが利かない。


交通量の多い国道377号を渡ると、しばらくは車が少ない静かな道となる。1時間歩いて高速道路の下を通過。


17時40分、観音寺駅前のサニーインに到着。この日は12時間以上歩いたことになる。朝・晩がコンビニ飯、昼はカロリーメイトというハードな1日だった。