さて、能書きばかり言っていても仕方がないので、私なりの歩き遍路モデルプランを示してみたい。なお、この間書いたようにスケジュールはそれぞれの人の体力や目的、どこに住んでいるかによって違って当然と考えるので、このモデルプランは私がもう一度歩くとしたらこうやって歩いてみたいというものと考えていただければ幸いである。
【阿波編・概要】
阿波の札所については、焼山寺や鶴林寺・太龍寺を除いて平坦な場所を歩くことと、遍路地図の推奨ルートが国道・主要地方道からそれほど離れていないことから、WEB等に載せられているプランと大きな違いはない。
とはいえ、札所で過ごす時間を多めにとることと、道に迷うよりも車道を通った方がいい。徳島市内を除いてそれほど交通量は多くないし、主要道沿いに古い丁石を多くみかけるので、お遍路の雰囲気は味わえるのではないかと思う。
[1日目]前日泊・霊山寺周辺、当日泊・十楽寺周辺
8:00 一番霊山寺 [お参り30分・移動20分] → 8:50 二番極楽寺 [30分・40分] → 10:00 三番金泉寺 [25分・95分] → 12:00 四番大日寺 [30分・30分] → 13:00 五番地蔵寺 [50分・80分] → 15:10 六番安楽寺 [25分・20分] → 15:55 七番十楽寺 [お参り25分]
1日の移動距離は20kmくらいだが、7つの札所にお参りするので、結構いそがしいスケジュールである。1日に7つも回るのは札所間の距離が短く平坦な徳島近郊に限られるので、ペース配分を確立したい。
地蔵寺のお参りが長いのは、隣接した五百羅漢を拝観するため。他にも遍路道沿いには、三番奥ノ院の愛染院などがある。お昼は愛染院近くのうどん萌月があるが、コンビニが多くある地域なのでそれほど気を使わなくてもよさそうだ。
前日泊は霊山寺近くを想定したが、徳島市内のホテルでも坂東まで電車で移動すれば問題はない。当日泊は十楽寺を想定。ビジネスホテルのような施設で食事もいい。六番安楽寺にも宿坊があり、付近に民宿もいくつかある。
別格一番の大山寺にお参りする場合、地蔵寺から8.1km、標高差も400mほどある。行き帰りで半日かかるとみるべきであろう。
[2日目]前日泊・十楽寺周辺、当日泊・藤井寺周辺
8:00 七番十楽寺 [移動60分] → 9:00 八番熊谷寺 [40分・40分] → 10:20 九番法輪寺 [25分・80分] → 12:05 十番切幡寺 [50分・80分] → 14:15 川島橋堤防休憩所 [休憩20分・移動100分] → 16:15 十一番藤井寺 [お参り30分]
2日目のお参りは、早速ハードである。熊谷寺の境内は広く、山門に着いてから先も結構長い。切幡寺は厄除け坂の長い石段があり、本堂エリアまで行くのに息が切れる。そして藤井寺まで約3時間、お遍路歩きで初めて登場する長い道のりである。
このあたりまで来るとコンビニはほとんどなく、吉野川の中洲には自販機も遍路休憩所もない。川島沈下橋で吉野川を渡り切って鴨島に入ると開けているので、そこまでの辛抱だ。堤防上に休憩所がある。
藤井寺の近くには民宿があり、30分ほど歩くと市街地となりビジネスホテルがある。藤井寺の先は1日山道になるので、翌日の補給を忘れないようにしておきたい。
[3日目]前日泊・藤井寺周辺、当日泊・焼山寺周辺
8:00 十一番藤井寺 [移動90分] → 9:30 長戸庵 [休憩20分・移動90分] → 11:20 柳水庵 [20分・60分] → 12:40 浄蓮庵 [20分・120分] → 15:00 十二番焼山寺 [お参り60分]
最初の「遍路転がし」焼山寺道である。道の状況だけ言うと、柳水庵までは比較的道幅もあり傾斜もそれほどではないが、浄蓮庵からいったん下って焼山寺までの登りは登山道そのもので、転がされそうになる。道端に続く丁石のお地蔵様が心の支えとなる。
車道も通じているけれども、ここは遍路道も札所のうちといえる場所なので、苦しいけれども登っておきたい。泊まりを焼山寺宿坊にすれば時間の心配をしなくても大丈夫そうだが、なべいわ荘や神山温泉を予定している場合は早出するかペースアップする必要がある。
食堂・売店等が全くないので、前日の鴨島で昼食用に調理パン・カロリーメイト等を用意しておく。焼山寺までがまんして門前のうどんという手もある。夕方には町営バスが麓まで走っているので、麓まで歩く予定で歩けなかった場合はバスを使って下山可能。
[4日目]前日泊・焼山寺周辺、当日泊・大日寺周辺
8:00 十一番焼山寺 [移動60分] → 9:00 杖杉庵 [休憩20分・移動80分] → 10:40 神山へんろ小屋 [20分・140分] → 13:20 神山東小学校 [20分・110分] → 15:30 十三番大日寺 [お参り30分]
この日の課題は、焼山寺宿坊に泊まった場合、昼食をどうするかである。神山東小学校を過ぎて行者野橋あたりまで、コンビニはもちろん商店も食堂もほとんどない。神山温泉経由であればともかく、鍋岩から遍路道に入る場合なかなかきびしい。
神山温泉からオロノ経由の県道は歩道がなく、川から高さのあるところに道が通っているのでたいへん危ない。歩行者の通行を想定していないように思える。したがって、モデルプランでは鍋岩から遍路道に入るルートをとっている。
大日寺近くには民宿がある。また、このあたりまで来ると徳島市内までバス便を利用することもできる。電車でも近いので、例えば童学寺を経由して徳島線で市内に戻り、翌日そこからスタートすることもできる。
徳島市内に連泊すれば荷物も少なくて済むし、予備日を作ることもできる。市内にはスポーツジムやプールの公共施設もあるので、コンディショニングにも有効である。
途中、行者野橋から別格二番童学寺まで3.2km約50分、同じく行者野橋から番外霊場建治寺まで山道を約2.4km1時間。童学寺だけなら経由することは可能と思われるが、建治寺も含めると1日がかりとなる。
表1 阿波の札所・所要時間参考資料(1)
番 | 札所 | 参拝時間 | 特記事項 | 所要時間(距離) | 遍路地図時間 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 霊山寺 | 30 | 門前に遍路用品店 | - | - |
2 | 極楽寺 | 30 | 0:20(1.3km) | 0:24 | |
3 | 金泉寺 | 25 | 0:40(2.6km) | 0:45 | |
4 | 大日寺 | 30 | 1:35(6.6km) | 1:26 | |
5 | 地蔵寺 | 50 | 五百羅漢 | 0:30(1.9km) | 0:32 |
6 | 安楽寺 | 25 | 1:20(5.2km) | 1:30 | |
7 | 十楽寺 | 25 | 0:20(1.2km) | 0:21 | |
8 | 熊谷寺 | 40 | 境内広い | 1:00(3.8km) | 1:10 |
9 | 法輪寺 | 25 | 0:40(2.5km) | 0:38 | |
10 | 切幡寺 | 50 | 石段長い | 1:20(4.8km) | 1:10 |
11 | 藤井寺 | 30 | 3:00(12.1km) | 2:40 | |
12 | 焼山寺 | 60 | 境内広い | 6:00[11.8km] | 6:00 |
13 | 大日寺 | 30 | 土佐神社 | 6:30[24.1km] | 6:00 |
注.藤井寺・焼山寺間の車道は大幅な迂回ルートとなるため登山道。焼山寺・大日寺間はへんろ道6.8km+車道17.3km。その他は車道距離。
[5日目]前日泊・大日寺周辺、当日泊・徳島市内
8:00 十三番大日寺 [移動50分] → 8:50 十四番常楽寺 [お参り25分・移動15分] → 9:30 十五番国分寺 [お参り25分・移動35分] → 10:30 十六番観音寺 [お参り25分・移動50分] → 11:45 十七番井戸寺 [お参り40分・移動120分] → 14:25 徳島市内
十四番から十七番は市街地にあり、コンビニや商店・食堂の心配はあまりない。一方で、交差点や信号が頻繁にあるので、距離の割に時間がかかるのが痛しかゆしというところである。
この間の札所はこじんまりまとまっているお寺が多く、あっさりお参りできてしまうかもしれない。国分寺の庭園や観音寺の仏足石、井戸寺の七仏薬師如来をゆっくり見る時間はある。
井戸寺から徳島市内まで市街地の舗装道路歩きで、交通量が多く休憩所もない。天気がよければ、眉山の脇を抜ける地蔵峠遍路道を歩いてみるといいかもしれない。JR地蔵橋駅あたりまで歩いて翌日そこからスタートすれば、日程がかなり楽になるし騒がしい市街地を迂回できる。
宿泊は徳島市内を想定したが、恩山寺の近くまで歩いて、余裕ができたら取星寺や星の岩屋に寄るというスケジュールもある。あるいは、このあたりで1日予備日をとり、休養したり洗濯物の整理、ジムワークで体調管理するのもいいかもしれない。徳島市内には公共のスポーツジム、プールがある。
[6日目]前日泊・徳島市内、当日泊・道の駅かつうら周辺
8:00 徳島市内 [移動180分] → 11:00 十八番恩山寺 [お参り30分・移動70分] → 12:40 十九番立江寺 [お参り30分・移動180分] → 16:10 道の駅ひなの里かつうら
徳島市内からスタートした場合、よほど早く出なければ鶴林寺まで歩くと日が暮れる。そして、鶴林寺には泊まるところがないので、どちらかの麓に下りるしかない。山の中になるので、現実的には難しい。
モデルプランでは、道の駅かつうら周辺に泊まることとした。ここまで「ふれあいの里さかもと」が送迎してくれるし、バスもある。歩きに限定する場合には、道の駅近くに民宿がある。
距離的にはそれほどハードではないので、「ふれあいの里さかもと」まで歩くことはできそうだ。あるいは、立江寺から取星寺に寄り道して、道の駅に向かうことも可能。コンビニは沼江ローソンが有名だが、道の駅もあるので、それほど心配しなくても大丈夫。
別格三番慈眼寺は、道の駅かつうらから車道を約16km、片道4時間。ふれあいの里さかもとから2時間弱で着くようなので、ここに泊まって往復するといいかもしれない。
[7日目]前日泊・道の駅かつうら周辺、当日泊・平等寺周辺
7:00 道の駅ひなの里かつうら [移動120分] → 9:00 十九番鶴林寺 [お参り40分・移動180分] → 12:40 二十番太龍寺 [50分・240分] → 17:30 二十一番平等寺[お参り翌日]
問題はこの日である。鶴林寺、太龍寺と2度の山登りがあって、平等寺までも峠越えである。太龍寺の麓にある民宿坂口屋は歩き遍路にとってありがたい場所にあったのだが、廃業して久しい。
となると、宿のある平等寺まで歩く他ないのである。そのため活動開始を7時としているが、宿もそのあたりは分かっているので朝食は早くから用意してくれる。昼食を調達できる場所もないので、おにぎりをお願いしておくのが大切(ふれあいの里さかもとではチェックイン時に注文)。
平等寺到着は午後5時半になるが、宿坊も民宿も門前にあるので、5時を過ぎても翌朝タイムロスなくお参りすることができる。翌日のスケジュールに余裕をみているので、時間に追われて無理をすることはない。
[8日目]前日泊・平等寺周辺、当日泊・薬王寺周辺
8:00 二十一番平等寺 [お参り25分・移動65分] → 9:30 鉦打へんろ小屋 [休憩10分・移動110分] → 11:30 由岐 [20分・70分] → 13:00 木岐[15分・105分] → 15:00 二十二番薬王寺[お参り40分]
私は平等寺からJR駅まで歩いて阿南に泊まったけれど、電車の本数がないので行き帰りが不便である。やはり、平等寺に宿をとるのがいいかもしれない。
平等寺に泊まれば、月夜御水庵から釘打(かねうち)に出る県道が最短距離。そして、釘打から山道コースと海沿いコースに分かれる。山道コースも国道なので危険個所はなく交通量も少ないが、休む場所があまりなくて時々歩道がなくなる。
調べてみると、海沿いコースには1時間置きくらいに休憩所があるし、景色もよさそうなのでモデルプランにはこちらをあげておく。距離的には山道コースよりやや長いようだが、この日は薬王寺までなので問題ないと思う。
日和佐が近づくと、コンビニや食堂・売店を見つけるにはそれほど苦労しない。
[9日目]前日泊・薬王寺周辺、当日泊・海部周辺
8:00 二十二番薬王寺 [移動90分] → 9:30 打越寺 [お参り30分・移動120分] → 12:00 牟岐 [20分・130分] → 15:30 海部
薬王寺を出ると、室戸岬まで札所はない。ひたすら歩くだけである。ただ、途中に別格四番鯖大師があり、すぐ近くなのでお参りしておきたい。鯖大師には宿坊があり翌朝のお勤めもできる。
翌日のスケジュールから、海部かできれば宍喰まで歩いて、夕方のバスで鯖大師に戻ってくるのがお薦めである。歩き限定の場合には、遊遊NASAかリビエラししくいが候補になる。他にも民宿はいくつかある。
薬王寺から約6kmの打越寺は、阿波の殿様が指定した駅路寺のひとつで、藩政時代には宿場の役割を果たした。街道沿いなのでお参りしておくのもよい。
阿波海南近くにある「へんろ小屋香峰」は、へんろ小屋プロジェクトの第1号。国道55号沿いの便利なところにあり、へんろ小屋が全部このレベルならいいのにと思うくらいである。水場・トイレ完備。
[10日目]前日泊・海部周辺、当日泊・尾崎橋周辺
8:00 海部 [移動90分] → 9:30 道の駅宍喰 [休憩20分・移動130分] → 12:00 東洋大師 [20分・210分] → 15:50 佐喜浜[20分・50分] → 17:00 尾崎橋
10日目に県境を越えるが、問題は泊まる場所である。移動手段が歩きだけならば、尾崎橋周辺のロッジ尾崎ないし民宿浜増以外の選択肢はない。必然的に、前日の宿泊地は海部ないし宍喰にせざるを得ない。
ただ、バス移動を許容すればちょうどこの時間に室戸行のバスがあるので、バスで移動して翌朝戻ってくる方法がある。いずれにしても、宍喰から室戸岬までだと、日のあるうちに到着しない。
海岸沿いの歩きなので、若干のアップダウンを除けば海を見ながら平らな道が続く。問題は、休憩場所とトイレがほとんどないことである。特に、東洋大師のある野根を出てから佐喜浜までの15kmは要注意で、自販機もほとんどない。
私はもう少し先の椎名まで歩いて、バスで移動し室戸岬に宿をとった。区切り打ちの場合、このあたりからでも徳島空港・関西空港に戻るバス便が多くあるので、便利である。
表2 阿波の札所・所要時間参考資料(2)
番 | 札所 | 参拝時間 | 特記事項 | 所要時間(距離) | 遍路地図時間 |
---|---|---|---|---|---|
14 | 常楽寺 | 25 | 0:50(3.2km) | 0:40 | |
15 | 国分寺 | 25 | 0:15(0.9km) | 0:10 | |
16 | 観音寺 | 25 | 0:35(2.0km) | 0:31 | |
17 | 井戸寺 | 40 | 境内広い | 0:50(2.9km) | 0:48 |
18 | 恩山寺 | 30 | 5:00(17.8km) | 5:00 | |
19 | 立江寺 | 30 | 1:10(4.3km) | 1:10 | |
20 | 鶴林寺 | 40 | 境内登り坂 | 5:00[10.7+3.2km] | 4:30 |
21 | 太龍寺 | 50 | 境内広い | 3:00[6.7km] | 3:00 |
22 | 平等寺 | 25 | 4:00[10.9km] | 4:00 | |
23 | 薬王寺 | 40 | 境内広い | 6:30(21.5km) | 6:20 |
注.立江寺~鶴林寺間は車道10.7kmと登山道3.2km。鶴林寺~平等寺間の車道は大幅な迂回ルートとなるため、登山道の距離を示した。その他は車道距離。
[Nov 25, 2019]