112 渡辺王将フルセットを制し防衛、三冠維持 ~第69期王将戦 [Mar 26, 2020]

第69期王将戦七番勝負(2020/1/12-3/26)
渡辺明王将 O 4-3 X 広瀬章人八段

七番勝負が始まる前の渡辺三冠の充実度はめざましかった。2019年4月以降、敗れた相手は豊島名人のみ、勝率は8割を超え、順位戦は全勝街道を驀進していた。王将戦・棋王戦とも圧倒的な強さで防衛して、名人挑戦に臨むことは確実と思われた。

ところが、年末くらいからスケジュールが立て込んでくると、並行して調子も下降してしまう。負ける時は中盤から悪くしてそのまま押し切られるという戦いで、棋王戦も1勝1敗、王将戦も2勝2敗と両防衛戦とも開幕前の予想とは異なり接戦で2020年3月を迎えることとなった。

王将戦の第5局は、3月5日から6日。渡辺王将は第4局と第5局の間に、2月24日に叡王戦挑戦者決定第3局、27日にA級最終局、3月1日に棋王戦第3局が組まれていた。A級最終局と棋王戦は前日から拘束されるので、ほとんど準備期間のない過密スケジュールである。

かたや広瀬挑戦者は、A級最終局があっただけで他に対局はなく、体調面でも作戦面でも準備期間を作ることができた。そういうコンディションの差があったのだろうか。後手番であったが中盤から優勢となり、最後は両者一分将棋を勝ち切ったのである。

カド番となった渡辺王将だったが、第6局は逆に広瀬挑戦者が2日前に竜王戦というきつい日程となった。先手広瀬にやや分のある将棋だったが、終盤で飛車を見捨てて攻めに出た渡辺王将が逆転、勝負は最終局に持ち込まれた。

第7局、改めて振り駒の結果渡辺王将の先手。矢倉模様の出だしから広瀬が急戦に誘導、ともに玉を囲わないうちに戦いとなった。

封じ手前後では、後手から王手馬取りの筋があり、先手はその順は選ばないだろうとみられていたのだが、渡辺王将はあえてその順に踏み込み、飛車角をすべて渡すという捌きに出た。

ところが、それだけ駒の損得があっても評価値はほぼ互角で、後手の大駒が渋滞してかえって指しにくいことが徐々に明らかとなる。広瀬挑戦者も入玉目前まで粘ったものの、結局は大駒3枚を取り戻し自陣に手付かずのまま渡辺王将が快勝、逆転防衛を果たしたのである。

大駒4枚渡しても優勢という場面は終盤では稀に出てくるけれども、まだ中盤なのに飛車角渡して大丈夫という展開はあまり見たことがない。しかも負けたら転落という大一番でその順を選べるのだから、その時点で詰み近くまで読み切っていたということであろう。

これで渡辺王将は三冠を保持したまま名人戦七番勝負に臨むことになるが、これで不調を脱してエンジン全開で名人戦に向かえるかというと、私はやや疑問を持たないでもない。

というのは、広瀬八段、本田五段を迎えた王将戦・棋王戦はもっと圧倒的な差で勝つと予想していたからである。現時点で、豊島竜王名人、渡辺三冠、永瀬二冠、藤井七段の充実度は他の棋士を圧倒していて、それ以外の棋士に苦戦するようでは四強の残り3人に勝てないだろうと思うのである。

惜しくも敗れた広瀬八段。捲土重来を期待したいと言いたいところだが、第6局の優勢な将棋を勝ちきれないあたり、以前ほどの終盤の切れ味がなくなっているように思う。棋王戦決勝トーナメントのあっさりした土俵の割り方といい、四強とはやや差がついたような気がする。

[Mar 29, 2020]

 


3勝3敗で迎えた第7局、渡辺王将は飛車角をすべて渡す大さばき。2三飛成と馬を取られた時点で評価値にほとんど差はなく、渡辺王将は2五銀から反撃。