116 藤井七段、初タイトル棋聖獲得 [Jul 16, 2020]

第91期棋聖戦五番勝負(2020/6/8-7/16)
藤井聡太七段 O 3-1 X 渡辺明棋聖

すでに記事で書いたとおり、コロナウィルスによる非常事態宣言の影響で各棋戦の進行が2ヵ月程度遅れている。本来棋聖戦は名人戦・叡王戦の後なのだが、スケジュール遅れの影響をもろに被ってしまった。

現在、名人戦、叡王戦、棋聖戦、王位戦の4タイトルが同時進行中である。登場する棋士も、豊島、渡辺、藤井の3名が2つのタイトル戦を争うこととなった。棋聖・挑戦者双方とも、別のタイトル戦との掛け持ちである。

さて、超過密日程を余儀なくされているにもかかわらず、それでも勝ちまくっているのが挑戦者・藤井七段である。棋王戦・王座戦は予選で苦杯を喫したものの、棋聖戦・王位戦は挑戦権を獲得。竜王戦も決勝トーナメントに駒を進めている。

特に、挑戦者決定戦の対永瀬二冠戦をはじめ、ここ一番の将棋ではほとんど負けなしを続けていた。百戦錬磨の渡辺三冠といえども、藤井七段に先行されたら厳しいと予想していた。その意味で、大きかったのは第2局である。

先手番から急戦矢倉に誘導した渡辺三冠。経験豊かな戦型で、細い攻めを丹念につなげる得意の形に持ち込むことを目指した。ところが、まだ昼食休憩前に指された藤井七段の5四金が意表を突く一手であった。

金は斜め後ろに下がれないので4段目まで上がるのは避けられることが多い。まして、5筋の歩が動かせなくなるので、角を3一に展開するのが難しくなる。おそらく、渡辺三冠も見たことがない手だったのではなかろうか。

結局、この金が盤面中央を制圧したまま終盤を迎え、この後もねじり合いが続いたものの、藤井七段の快勝譜となったのである。

藤井七段に1勝するのも大変なのに、渡辺三冠は残り3戦全勝しなければ防衛できない。この時点で藤井クンの初タイトルはかなり濃厚となり、実際に第3局では渡辺棋聖が一矢報いたものの、第4局を藤井七段が制して最年少初タイトルを獲得したのである。

これまでの最年少記録は、同じ棋聖タイトルで屋敷伸之現九段。あまり年齢にこだわる必要はないと思うけれども、マスコミが喜びそうである。

渡辺三冠は初防衛ならず、棋王・王将の二冠となってしまったが、充実著しい藤井新棋聖に4局とも終盤までもつれる将棋を指したのは、さすがに実力者である。B1降級直後の無敵の快進撃が記憶に新しく、本人もまだまだと思っているだろう。捲土重来は十分ある。

初タイトルの藤井新棋聖、インタビューでは「渡辺三冠といい将棋が指せた。思いもしなかった手を指されたりして戸惑う場面もあったが、成長できてよかった」と回答、17歳とは思えない立派な対応である。

一昨年に王座戦準決勝で斎藤慎太郎七段に敗れて先を越され、昨年は王将戦リーグ最終戦で広瀬竜王(当時)に即詰みを食らって逆転負け。デビュー当時の大騒ぎに反してタイトル戦登場までは少し時間がかかった。

しかし、その間に間違いなく実力は上乗せされており、現状は序盤・中盤・終盤いずれをとっても隙がない。これだけ過密日程では十分な時間もとれないはずなのに、どうやって研究しているのだろうか。

デビュー以来毎年8割以上の勝率を残してきたが、さすがに今年は難しいのではないかと思っていた。ところが、今日までの戦績がなんと14勝2敗、今年も勝率8割を軽く超えている。順位戦B2の全勝通過はほぼ確実なので、4年連続8割越えの新記録も現実味を帯びてきた。

気が早いかもしれないが、現在挑戦中で2勝先行している王位を獲得し、さらに竜王戦で豊島竜王を、王将戦で渡辺王将を破れば今年度中に四冠である。四強から藤井一強になるのもそう遠いことではないのかもしれない。

[Jul 17, 2020]


第2局、後手番の藤井七段が矢倉急戦に対し5筋の歩を突かず5四金が工夫の一手。結局、終盤までこの金が盤面中央を制圧した。