820 八十二番根香寺 [Oct 3, 2019]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

白峯寺と崇徳上皇陵で1時間ほどお参りして山門を出ると、再び雨が降ってきた。雨の当たらないベンチは、すぐ横のトイレのところにしかない。このトイレは香川県が整備したと書いてある。本当は東屋がほしいのだが、贅沢は言っていられない。身支度して10時前に出発する。

この時軽率だったのは、いったん雨が上がって空が明るくなったものだから、これから天気は良くなるものと決めてかかったことであった。レインウェアは上下持ってきたのに、これまでどおり上だけ着て出発したのである。

国分寺から登ってきた一本松から、白峯寺へは舗装道路を進むのがいいが根香寺には山道の方がいい、と謎のようなことがWEBに書いてある。確かに、地図を見るとかなりの遠回りになるようだ。舗装道路は来る時に通ったことでもあり、せっかくだから山道を行こうと思ってしまった。

しばらくは緩やかな坂道が続いて何ということもなかったが、10分も進まないうちに空が再び暗くなり、バケツをひっくり返したような土砂降りとなった。レインウェアを着ておくんだったと思ったところで後の祭りである。もちろん、東屋もベンチもない。

道は国分寺から一本松の登山道より狭く、急な坂道である。白峯寺から根香寺までは五色台の台地の上で登り下りはそれほどないと予想していたのだが、舗装道路と違って登山道は容赦なくアップダウンがある。

10分ほどすると土砂降りがおさまって空が明るくなってきた。今度こそ雨は上がったろうとほっとしていると、小降りになったのは5分ほどで、再びあたりは真っ暗、土砂降りである。そして、雷さえ聞こえてきた。

自衛隊の近くだから雷ではなくて砲撃の音だったというのは丹沢だけで、これは本物の雷である。山の中で雷に襲われてはひとたまりもない。もちろん、ベンチも東屋もなく避難できる場所はない。

こうなってみると、せめて舗装道路にしておくのだったと思う。乗せてもらうことはないにしても通っているだけで少しは安心だし、何かあった時に救助を要請できる。登山道の中では誰も通りかからないし、落雷でもあれば一巻の終わりである。

案内標識だけは頻繁にあって、十九丁という場所が目標地になっている。国分寺から登山道を直進してくると、ここに出る。そういう場所なら東屋くらいないかと淡い期待を持ちながら進む。

1時間20分歩いて、何とか十九丁に達する。しかし、ここには祠とベンチがあるだけで、東屋もなければもちろんトイレもなかった。ベンチはもちろんずぶ濡れで、そのまま座ることはできない。

リュックの中からゴミ袋用に用意していたコンビニのレジ袋を出してベンチの上に敷き、その上に腰掛ける。もちろん傘は差したまま、息を整える。これまで区切り打ちをしてきた中で、最高に心細い休憩であった。

もはや白衣の下はずぶ濡れで、いまさらレインウェアの下を着けても蒸れるだけだ。その下にCR-Xを穿いているので、雨さえ止めば乾くだろう。それにしても、この雨はいつまで降り続くのか。

十九丁から少し歩くと、やっと舗装道路に出た。ちょうど向こうから登山道に入る外国人親子とすれ違った。この日、初めて自分以外の人が歩いているのと会った。レインウェアを着ていたので、遍路歩きか登山客かはよく分からない。

舗装道路に出てまもなく、左手に東屋が見えた。やっと見つけた、腰の下ろせる休憩所だ。屋根の下まで行き、傘を置き。リュックを下ろす。30分前に十九丁で休憩したばかりだが、あれでは休憩にならない。リュックの中のテルモスにはお湯を入れてきた。インスタントコーヒーを作って、ロールパンでお昼にする。やっと人間になったような気がした。


白峯寺から根香寺まで遍路地図の推奨コースである山道を進む。だが、悪天候でこの選択はどうだったか。


中間地点の十九丁では土砂降り。ベンチはあるものの雨宿りできる場所はなく往生した。


県道に出て、ようやく東屋を見つけて腰を下ろすことができた。

 

東屋で腰を下ろして何時間ぶりかにほっとした時間を過ごす。もうすぐ正午。午後には雨が上がるという予報なのだが、止む気配はない。先ほどまで山道の中で「いい加減にしてくれよ」とつぶやいていた時ほど沈んだ気分ではないものの、弾んだ気分ではない。

公園を出て根香寺に向かう。「みち草」と看板の出ている売店の横を抜けてしばらく歩くと、「根香寺まで1km」の案内標識がある。分岐の先は舗装されていない土の道だが、ハードな登山道ではなさそうだ。予定より遅れていたこともあって、この遍路道を選んだ。

しかし、ゆるやかだったのは最初だけで、ほどなく岩がごつごつした坂道となった。やっぱり、舗装道路を行くんだったと思ったけれど、後の祭りである。十九丁あたりを歩いていた時より雨が弱くなってきたのが救いであった。

この遍路道は「讃岐遍路道」として国の史跡に指定されている。白峯寺から十九丁を経由してこの遍路道は、真念「道指南」も通った経路ということである。

途中に五色台のへんろ小屋がある。屋根付きで壁もきちんと付いた建物である。小屋の前に東屋もあり、休憩できるベンチもある。もう少し前にあれば当然休んで行ったのだが、10分ほど前に公園の東屋で休んだばかりである。時間もないのでそのまま通り過ぎる。

泊まることもできるとどこかに書いてあったと思うが、寝る場所はともかく水や食糧を手当てできる場所まで遠いので、大変だろうと思った。根香寺には売店も自販機も見当たらなかったし、へんろ小屋にもない。県道に戻るしか手段がないようで、とても私には無理である。

そもそも、野宿どころか小屋泊も通夜堂泊も、風呂やシャワーがなく洗濯機もないので、翌日ちゃんと歩けるかどうか私にはよく分からない。虫もいるだろうし冷暖房も当然ない。登山と同じと割り切ればいいのだろうが、実際に歩くのは山中ではなく車の通る普通の道なのである。

へんろ小屋を過ぎると、遍路道は下りの坂道になった。岩で足元が安定しない上、雨で滑ってたいへん歩きにくい。帰りもこの道を通るのは嫌だなと思った。そして、また雨が激しくなってきた。

午後から天気は回復するという予報で、もうお昼を過ぎているのにこの天気である。残り1kmと書いてあったのに、なかなか根香寺に着かない。気分は落ち込む一方である。

遍路道に入ってから30分ほど歩いて、ようやく根香寺に到着した。時刻は12時25分。12時までには着きたかったけれど、この天気では仕方がない。山門は白峯寺よりかなり大きく、両側に大わらじが納められていた。


県道から案内標識にしたがい再び遍路道に入る。始めはこのような歩きやすい道だが、次第にごつごつした岩がある坂道となる。


根香寺への遍路道の途中にへんろ小屋五色台がある。もっと前にあったらありがたかったのだが。


県道に出て、もう一度山道に入ってようやく根香寺。雨は時折り激しく降る。

 

青峰山根香寺(あおみねさん・ねごろじ)、弘法大師の創建、智証大師円珍の再興と伝えられるが、現在の宗派が天台宗であるところからみると弘法大師は名前を借りただけで円珍の寄与が大きいのだろう。円珍は金倉寺、道隆寺などを整備した僧でもある。

山号の青峰は五色台の一つの峰で、白峯寺の白峰も同様である。他に紅峰、黄峰、黒峰がある。根香寺は青峰の中腹にある。五色台の最高峰は猪尻山(いのしりやま)で標高は483m、白峯寺・根香寺より海側にある。

山門から参道が続いていて、いったん下って石段をまた登る。間は深い自然林の森になっていて、その奥にある本堂は山門からは見えない。白峯寺と同様、私の他に参拝者の姿は見当たらない。

石段を登りきると納経所があり、その奥に本堂・大師堂はじめいくつかのお堂がある。境内は広く伽藍も多く、かつて多くの修行僧がこの寺で暮らしていた昔の姿をしのばせている。

いちばん奥にある本堂でお参りし、引き返して大師堂にお参りする。さて、名高い牛鬼像はどこだろう。周囲を探してみるけれども見つからない。

納経所でご朱印をいただく際に、牛鬼の場所を聞いてみた。

「牛鬼は、山門の外、駐車場の前ですよ」と教えていただく。よく考えると牛鬼は山門の中に入って来れないのだから(そのために仁王や大わらじがある)、外にあるのが当たり前なのであった。

再び石段を下って登って、山門のすぐ外に牛鬼はいた。来る時に通った遍路道からは見えにくい場所にあったので、気づかなかったのだ。

根香寺の牛鬼は江戸時代に出現し、村々に災いをもたらすので弓の名手が退治し、角を根香寺に奉納したのだという。その絵姿(掛け軸)と切り取った角が根来寺に保管されているが、管理上の理由から一般には公開されていない。

銅像は、この掛け軸の絵姿をもとに造られていて、両足を踏ん張って左手を高く上げて威嚇している。大雨の中で見たからというだけでなく、腕と腹の間に水掻きのようなものがあり、体もうろこで覆われているので、牛というよりも水生動物のように見えた。

牛鬼は四国各地に伝承されていて、祭で魔除けの役目を果たすこともある。水木しげるの故郷・境港の水木しげるロードにも牛鬼はいるが、体がクモのようで根香寺の牛鬼とは印象が違う。

さて、お参りして牛鬼を見ている間に、時刻は午後1時に近くなった。この日は一宮寺まで行く予定で、納経時間終了まであと4時間しかない。もともとの予定では香西寺に下りるつもりだったが、それだと2kmほど遠回りになるので、香西寺は通らず鬼無(きなし)に下りるしかなさそうだ。

来る時に通った遍路道は岩が多く歩きにくかったので、車道経由で歩き始める。車道の案内表示に「一宮寺18km」とある。18kmを歩くと4時間半かかる。矢印の方向は香西寺を示しているので、これから通る鬼無経由より長いだろうが、それより2km短いとしても16kmある。4時間で着くだろうか。かなり不安になった。

この日の経過
白峯寺 9:50 →[3.3km]
11:10 十九丁 11:15 →[0.7km]
11:40 県道横休憩所 11:55 →[1.4km]
12:25 根香寺 12:55 →

[Aug 15,2020]


根来寺の境内は広い。かつて人里離れたこの地で多くの僧侶が修行したであろう。山門から長い参道を歩いて本堂。


本堂と山門の中間あたりに大師堂がある。


有名な牛鬼は山門のすぐ脇にいる。さすがに鬼だけあって、境内には入れなかったか。