117 第78期名人戦、豊島またも防衛ならず渡辺新名人誕生 [Aug 17, 2020]

第78期名人戦七番勝負(2020/6/10-8/15)
渡辺 明二冠 O 4-2 X 豊島将之竜王名人

豊島竜王名人はこれまで4つのタイトルを獲得しているが、過去に獲得した棋聖、王位はいずれも初防衛に失敗している。取られたらすぐ別のタイトルを取り返すので現在は竜王名人だが、あまり防衛戦に相性がよくない。

名人戦も、初防衛戦の相手がA級順位戦を全勝で突破した渡辺三冠(当時。名人戦と並行して行われた棋聖戦で失冠して二冠)。過去、A級を全勝で突破した棋士はそのまま名人獲得となるケースが多く、ここも豊島苦戦が予想された。

しかし、第4局までの展開は2勝2敗の五分。その一つの要因として、コロナウィルス自粛の余波でタイトル戦進行が遅れており、豊島は叡王戦、渡辺は棋聖戦とのダブルタイトル戦でほとんど準備期間がとれなかったことがあるとみられる。

迎えた第5局、後手番の渡辺が角道を止めて雁木に組むのかと思いきや、飛車を4筋に振って見たことのない駒組。そのまま力戦となり、両者譲らず拮抗したまま終盤戦にもつれこんだ。

2日目夕食休憩をはさんで約40分熟考したはずの豊島名人が8二の飛車を8一に成った。持ち駒が桂一枚で決め手があるのかと思いきや、8二銀とノータイムで指されて固まってしまった。どうやら、この手を軽視していたようなのである。

もともとこの飛車は渡辺陣の右辺で豊島陣をにらんでいた飛車で、角と桂を犠牲に奪ったものである。飛車の脅威はなくなったが、まだ3二にいる角をバックに8七歩成の厳しい攻めが残っている。持ち駒の飛・桂だけでは、渡辺玉を追い詰めるのは難しい。

8二飛で王手したのは、渡辺玉を動かし、8六の歩をとって竜に成るためと解説陣も予想していたし、私もそう思っていた。この日の豊島名人は徹底して受け重視で指していたからである。攻撃に妙手ありと読んで指したなら、8二銀を見逃しているのはおかしい。

豊島がタイトル戦線にたびたび出場し、四強の一角を占めるようになったこの2~3年。熟考したときにかえって悪手を指すという顕著な傾向がある。

時間がない、あるいは一分将棋になってこれまでの優勢を一気に失うケースは、昔から多くあったしいまも変わらない(藤井棋聖だって、1分将棋で自玉の即詰みを見逃したことがある)。しかし、長考の末に疑問手・悪手を指す頻度において、豊島竜王は際立っているのである。

なぜ、そういうことが起きるのか、これから先改善することが可能なのか、それは豊島竜王自身の問題である。藤井棋聖だって、即詰み見逃し以来極力1分将棋を避けるタイムマネージメントを心がけるようになった。

そうした点が改善されないと、せっかくの好局であっても豊島が長考に入った途端「また、やるのではないか」と心配になってしまう。勝ち負けとは別の次元で、すぐれた棋譜にはそれだけで価値があるはずなのである。

渡辺新名人は初挑戦で名人となり、再び三冠に返り咲いた。棋聖戦で藤井棋聖に完敗したのは痛かったが、これで調子を取り戻すだろう。幸い、永瀬二冠はB1、藤井棋聖はB2である。強敵とはいえ、一度に全員が挑戦してくる訳ではない。

[Aug 17, 2020]


第5局は力戦型となった。拮抗した攻防が続いたが、豊島名人が2日目夕食休憩をはさんで指した8一飛成で差が付いた。渡辺挑戦者にノータイムで8二銀と打たれ、7一金の竜取りと8七歩成を同時に受けられなかった。8六に飛車を成っておけば、まだまだ先は長かった。