830 八十三番一宮寺 [Oct 4, 2019]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

根香寺を出て車道を白峯寺の方向に引き返して行く。結構急な登り坂で息が切れるが、平らに足を置けるのは楽だ。そして、この頃になってようやく、雨が完全に上がって天気が回復してきた。

遍路道との分岐を通過し、鬼無(きなし)への下り口に着く頃には、朝から鬱陶しく広がっていた雨雲が抜け、青空が見え始めた。そして、すぐ足元には瀬戸内海。高松は宇高連絡船が通っていたように海沿いの街だから、五色台のすぐ先は瀬戸内海なのである。

さて、根香寺から鬼無までの下りだが、WEB等をみると1時間半程度で下りれるような情報がある。距離的には5.5km(遍路地図)だからそうなのだけれど、標高差が300m以上ある。そんなに簡単には下れないだろうと思っていた。

実際、ここからの下りは車道と遍路道が混在しており、遍路道の傾斜はきつく、たいへん歩きにくい道だった。それと、右折を指示する遍路シールと左折を指示する案内表示が混在し、どちらを通ったらいいのか迷うケースもあった。

そして、シールも案内表示もそうなのだが、一宮寺までの残り距離が書いていないのである。これはあとどのくらい歩けばいいのか分からないのでつらかった。5時に間に合うかどうか不安をかかえての歩きだったので、尚更である。

麓の街並みまでの標高差は、なかなか減らない。雨が止んだのは大いに助かったが、今度は直射日光が照りつけてきて急に熱くなった。台風一過の南風が吹いてきたのであろう。

標高を下げてくる時は右に左にスイッチバックしていた道が、鬼無が近づくと線路に向けて直角に下るようになる。距離は短くて済むが、傾斜がきつくて膝に響く。犬の吠える民家を過ぎ、県道を突っ切って踏切を渡る頃には午後3時を過ぎた。やっぱり1時間半じゃ無理だ。休みなしで歩いて2時間以上かかっている。

残り距離も分からないし、納札時間には間に合わないかなと思い始めた時、「一宮寺6km」の標石が現れた。そして、「飯田お遍路休憩所」と書かれた立派な一戸建ての休憩所がある。根香寺から休みなしで歩いてきたし、お昼を食べてから腰を下ろしていない。ありがたく休ませていただくことにした。

引き戸を開けて中に入ると、作り付けの椅子に座布団が敷かれ、テーブルが置かれている。トイレと飲み物の用意もある。これだけ立派なへんろ小屋はあまり見たことがない。にもかかわらず、約2時間強い日差しの中を歩いて来たので、冷房がないと暑いなと罰当たりなことを思ってしまった。

改めて時計を見ると3時5分。残り6kmを1時間半で歩くとして、休めるのは最大15分で3時20分には出なければならない。朝から雨降りの中ハードな山歩きをしてきただけに、なかなか腰が上がらなかった。

飯田お遍路休憩所から一宮寺までのルートは、休憩所内にも説明書きがあったけれどたいへん分かりにくい。河川敷に下りる道が最短距離と聞いていたが、どこが河川敷なのかよく分からないのである。太い通りを渡り、遍路シールを追ってどうにかこうにか河川敷に下りた。しかし、そこから先に遍路シールがないのである。

遍路地図を見ると、川を渡るルートと渡らずに河川敷を進むコースが両方ともあるようだが、こんなところで迷っていたら納経時間に間に合わない。通りかかったおじさんに道を尋ねた。

「どっちでも行けるけれども、分かりやすいのはこのまま進む道だよ。右に十何階建てのマンションが見えてくるから、そこで青く塗られた橋を渡ってまっすぐ。しばらく行くと歩道橋に案内があるから、そこを右に入ると一宮寺だよ」と親切に教えていただく。

お礼を言って、河川敷を歩き始めた。


根香寺を出ると、ようやく雨が上がって見通しが利くようになった。


根香寺からの下りでは、遍路道の矢印が別方向を示しているケースがある。残り距離を書いていないのも心細い。


飯田お遍路休憩所。屋根のある休憩所のなんとありがたいことか。

 

河川敷の道を歩き始める。この道はサイクリングロードで時折自転車が走ってくるが、歩くのに支障はない。

そして、自動車も通らず信号待ちもないため、止まらずに歩き続けられるのが大変いい。この日は朝早くから山道を、それも大雨の中を登り下りして来たので、初めてリラックスして歩くことができた。

ただ、昼下がりの強い日差し、それも台風一過の南風で暑くなったのも少々つらい。お遍路休憩所でもエアコンがなくて暑いと思ってしまったように、雨が止んで気温が上がってきたらしい。10月に入っているのに、真夏のような暑さだ。

河川敷の道は何回か橋の下を通り過ぎる。微妙にカーブしているのと堤防にさえぎられて見通しがきかないので、おじさんに教えてもらった高層マンションはなかなか見えてこない。20分、30分と歩き続ける。

ようやく、右手にマンションが見えてきた。青く塗装された橋があったので、階段を上がって橋を渡る。だが、よく見ると向こうにも青い橋があって、おじさんが教えてくれたのがどちらの橋なのかよく分からない。遍路地図を確認したら、どうやら向こうの橋のようだ。まあ、まっすぐ進めば同じことだ。信号待ちはあるが。

信号を左折し、交通量の多い大通りを進む。倉庫やガソリンスタンド、警察もある。いくつめかの信号のところに歩道橋があり、一宮寺へはここを右折せよと書いてある。時刻はもう4時半を過ぎたが、あと500mくらいのはずで、何とか間に合いそうだ。

右折してから先に案内もシールもなく困ったが、右側に学校があるので道は間違いない。そろそろ左に見えてくるはずと思って進むと、それらしき建物が見えてきた。午後4時50分、納経終了時間ぎりぎりに一宮寺到着。

すぐに納経所を探し、お参り前にご朱印をいただく。「5時を過ぎてもお参りは大丈夫ですか」とお伺いすると、「本堂の扉は戸締りしますが、お参りはできますよ」とのこと。安心して、本堂に向かう。

根香寺のような広い敷地だったらあせるところだが、一宮寺は比較的コンパクトで、あわてることなく読経することができた。大師堂のお参りを終えて、細い道路を越えたところにあるトイレをお借りし、ベンチに座ってようやく一息つく。

神毫山一宮寺(しんごうさん・いちのみやじ)。八十番札所はもともと阿波・土佐・伊予と同様に一ノ宮であるが、明治の神仏分離により別当寺の一宮寺が札所となった。

この間読んだ本に、日本も神仏分離の際に仏像や仏画など貴重な文化財を破壊したのだから、バーミヤンで石窟を爆破したタリバンのことをどうこう言えないと書いてあった。そのとおりだと思う。逆に言うと、それほどの激情(パッション)がなければ革命などできないということである。良きにつけ悪しきにつけ。

神毫山の山号も、一ノ宮(神)の寺ということで付けられたものである(毫は揮毫の毫で、筆先という意味)。ただし、讃岐の多くの札所と同様に戦国時代に焼失し、再建されたのは江戸時代に入ってからである。

 


河川敷に出ておじさんに道を聞き、サイクリング道路をまっすぐ一宮寺方面へ。日が照ってきてからは暑いくらいである。


納経時間10分前になんとか一宮寺に到着。先に納経印をいただく。


一宮寺本堂。

この日は4時前に起きて電車で移動し、午前6時には歩き始めたのですでに11時間経過している。さすがに疲れた。

最初の予定では、白峯寺・根香寺・香西寺と回って一宮寺まで歩き、できれば法然上人ゆかりの仏生山までお参りしたいと思っていたのだが、とても無理だった。山道はどのくらい時間がかかるか分からないのに、迂闊なことであった。

香西寺に回らず鬼無に下りたのは、一宮寺からホテルまで少しでも前に進んで翌日を楽にしたかったからだけれど、とてもこれ以上は進めない。残念だけれど、一ノ宮にお参りして引き上げよう。

讃岐一ノ宮の田村神社は一宮寺から通りを隔てた東側にある。だが、参道に回るには細い路地をぐっと回り込まなければならず、すぐには着かない。ようやく参道に出て、大鳥居の奥が田村神社本殿である。二礼二拍手一礼でお参りする。

古くから崇敬を集める神社で境内はたいへん広く、本殿の他にも幾柱かの神様をお祀りしている。おそらく、初詣でには多くの参拝客でにぎわうのだろう。コンパクトな一宮寺のたたずまいと位置関係と比較すると、まさしく一ノ宮と別当寺である。

一宮寺から田村神社で路地を行ったり来たりして方向感覚がおかしくなってしまい、琴電一宮駅まで行くのにちょっと迷った。駅に着いたのは午後6時前。この日はまるまる12時間歩いたことになる。

一宮から片原町まで琴電に乗り、歩いてホテルまですぐである。この日の歩数は60,357歩、GPS測定による移動距離は27.9kmでした。

最後に、この日のホテルと翌日以降の体調悪化について少し書いておきたい。

前日は国分から移動し、当日は一宮から移動して高松に連泊した。泊まったホテルはホテルWAKABAといって、高松三越の隣にあるたいへん便のいいホテルである。素泊まり5,450円もリーズナブルで、JR高松にはちょっと遠いものの、琴電片原町からすぐ近くである。

後から考えると、ホテルの写真をひとつも撮っていないということ自体、体調がどうかしていたのだが、とにかく朝は早くて暗くなるまで歩いて、ちゃんとした食事を食べに行こうという気がおきなかった。

結局、朝はコンビニで調達して昼は行動食、夜はデパ地下で半額弁当ということを2日間やったのであるが、ただでさえ体力がなくなっているところにこの食事はよくなかった。

加えて、狭いユニットバスや、1台しかないコインランドリーの順番待ちや洗濯機・乾燥機の入れ替えで何度も部屋とランドリーを往復して睡眠時間が削られたことなど、マイナス要因が多かった。

高松周辺で1日余裕をみてスケジュールを立てていればここまでハードにはならなかったはずで、事前準備の至らなさに後悔するばかりである。

この日の経過
根来寺 12:55 →[7.3km]
15:05 飯田お遍路休憩所 15:20 →[6.0km]
16:50 一宮寺 17:20 →[0.4km]
17:25 田村神社 17:35 →[1.2km]
17:55 琴電一宮 (→高松(泊))

[Sep 5, 2020]


一宮寺大師堂。


讃岐一宮・田村神社は一宮寺のすぐ隣にあるが、本殿にお参りするにはぐるっと回り込まなければならない。


この日の夕食も三越のデパ地下で半額のちらし寿司。ハードスケジュールの上にこういう食事は、後から考えると体調を崩す大きな要因となったかもしれない。