第5期叡王戦七番勝負(2020/6/21-9/21)
豊島将之名人 O 4(2持将棋)3 X 永瀬拓矢叡王
タイトルに昇格して2期が4-0のストレート決着であっさり決まった反動という訳でもあるまいが、第5期叡王戦はいつ終わるのか分からない長期戦となった。
まず、コロナの余波で4月開幕が延期となった。ようやく開催にこぎつけた6月21日の第1局は千日手指し直しの上豊島勝利。7月5日の第2局は持将棋。
叡王戦の呼び物ながら今期初めて実施に至った持ち時間1時間の第3・4局は、永瀬先手の第3局がまたまた持将棋。同日の第4局は深夜に及ぶ232手の激戦を後手番の永瀬が制して、タイに持ち込んだ。同日の解説を勤めた藤井猛九段ではないが、「いつ終わりますかね。『そして伝説へ』でしょうか」という先の見えない番勝負となった。
リスケジュールされた番勝負の日程は、8月10日の第7局までしか組まれていない。第8局以降がいつ、どのような条件で戦われるのか、なかなか発表にならない。どこまで続くのか、いつまで続くのか分からない状況である。
こうなると、長丁場になればなるほど本領を発揮する永瀬叡王の得意とする分野と思われた。実際、第4局は豊島絶対有利の場面もあったのに、両者1分将棋の末、永瀬叡王が逆転している。
第7局まで終わって、永瀬叡王の3勝2敗2持将棋。ただ、ここで状況が大きく変わる。豊島は並行して戦っていた名人戦が決着し、永瀬は王座戦五番勝負が始まったのである。これまでとは状況が逆になった。
事前研究に定評のある豊島に時間の余裕ができ、永瀬はダブル日程である。第8局はこの状況がもろに影響したのか、75手という短手数で豊島が快勝、決着は第9局にもつれ込んだ。
第9局は第8局後に振り駒の結果、豊島先手番。採用した作戦は角換わりから5八金。膠着しやすい4八金としなかったのは、永瀬に千日手でゆさぶられるのを避けたためかもしれない。
第8局ほどではなかったが、111手とこの二人にしては短い手数で豊島竜王が連勝、カド番から逆転で叡王を奪取、再び二冠に返り咲きとなった。
名人戦から続いた番勝負のダブル対局がようやく終わったら、来月から竜王戦七番勝負が始まる。いまだ初防衛を果たしていないゲンの悪い防衛戦だが、そろそろ貫禄を示したいところ。叡王戦第8局以降は、好調時の将棋に戻っているようだ。
惜しくも防衛ならなかった永瀬前叡王だが、千日手あり持将棋ありの大乱戦で豊島竜王をおおいに揺さぶった。まさに、永瀬ワールド全開であった。課題があるとすれば、長手数にならないとやはり豊島竜王に一日の長があるということであろう。
これから後は王座戦に集中できるが、全勝で突っ走るB1順位戦が佳境に入るし、王将戦リーグも始まる。王将戦では対豊島の再戦があるし、王位戦・棋聖戦で敗れた藤井二冠にも借りを返さないといけない。他のメンバーも最近のタイトルホルダーばかりなので、王座戦に一点集中といかないのが難しいところだ。
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あと一点指摘したいのは、持将棋後の指し直しルールについて。
番勝負の持将棋は一局扱いとするまではいいのだが、このタイトル戦の特色は変動持ち時間にある。かつての中原・加藤一二三の名人戦なら後日指し直しで問題ないのだが、今回の場合、微妙に有利不利があったように思う。
私見では、第7局の前に指し直し第2局と指し直し第3局が挟まれるべきであり、前者は持ち時間5時間の永瀬先手、後者は持ち時間1時間の豊島先手である。それが、すべて持ち時間6時間となってしまった。
序列3位のタイトルだから、それなりに時間をかけて凡ミスのないようにするなら、初めから持ち時間6時間でやればいい。3時間とか1時間という持ち時間は、ある意味ミスをして逆転することを想定した番組である。
結果的には、それぞれの先手番で2回の持将棋があったので、そのあたりの有利不利があやふやになってしまったが、これでいいのなら最初から持ち時間5時間か6時間で統一した番勝負とすべきと思う。
もう一つ有利不利がなくなる方法は、いかなる場合も即日指し直しというルールだが、ネットとはいえ実況中継を前提とした棋戦では難しいかもしれない。対局者はいいとして、運営や解説者が厳しそうだ。
[Sep 23, 2020]
第5期叡王戦の流れが変わった第8局、先手番の豊島が飛車を切って速攻、75手という短手数で決着した。豊島の名人戦が終わり、永瀬の王座戦が始まるというスケジュールにも影響されたか。