840 八十四番屋島寺 [Oct 4, 2019]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

10月4日の朝は、5時前に起きた。夜中に腹が痛くて、太田漢方胃腸薬を飲んだ。朝から晩まで冷たいものばかり食べていたせいかもしれない。温かいものを食べたかったのだけれど、ホテルを出て店を探すのが大儀で、前日に続いて高松三越のデパ地下で済ませてしまった。

それも、半額のちらし寿司を選んだのがよくなかったのか、ビールと一緒に食べるはずだった煮物にほとんど手が付けられなかった。昼食はロールパンだけだったのに、口から入って行かないのである。

体力を消耗した時には、なま物より火の通ったものの方がいいに決まっているし、まして半額の寿司である。デパートで売っているから悪くなっているはずはないが、体が受け付けるかどうかは別問題である。

朝食は前夜の残りの煮物とコーヒー、リポビタンDで済ませた。この日の歩きは高松市内の中心地だから、お腹がすいたら早くからやっているうどん屋さんでも見つけて入ろうと思っていた。

ただし、この日の泊まりは別の宿なので、フル装備のリュック10kg超である。午前6時を過ぎたのでホテルを出る。琴電片原町まで歩いて琴平行の電車を待つ。6時30分に電車が来て、55分に一宮に着いた。

実を言うと、高松市内のスケジュールをちょっと甘くみていた。前日の五色台が標高400mあるのに対し、屋島寺、八栗寺は200m、他はほとんど街中の平坦地なので、日が高いうちに志度に着くことができるだろうと思ったのである。

ところが、前日に疲労困憊して一宮寺から一歩も前に進めず、屋島寺までの約14kmをまるまる歩かなければならなくなった。ホテルまで約7kmを歩くのは無理だったとしても、栗林公園あたりまで歩ければかなり違ったと思う。

その結果、この日も朝早く、冷たい食事しかとれないで出発することになった。腹も痛いし、体もだるい。それでも、宿を押さえてあるから歩くしかないのである。

一宮駅から大通りに出て、そのまま直進して栗林公園を目指す。栗林公園は平地の庭園だから見えないが、背後にある紫雲山は遠くからでもよく目立つ。片側一車線の車道は、栗林公園近くまでまっすぐ続いているはずである。

栗林公園が近づくにつれて、高校生の自転車が増えてきた。そろそろ8時、通学の時間帯である。郵便局の前を通り、交差点を渡って公園正門まで来た。早くも疲れた。ファミレスの看板が見えるが、ご飯ものは大げさかもしれない。マクドナルドも見えるのであちらにしよう。

そういえば、今回の区切り打ちですでに4泊したが、肉類を全く食べていない。ハンバーガーが食べたいなと思ってオーダーすると、なんと朝なのでハンバーガーはやっていない。「ハンバーガーに近いものですと・・・ソーセージマフィンはいかがでしょう」ということなので、セットでお願いする。

ここのマックは1階でオーダーして受取り、2階に飲食スペースがある。まだハンバーガーをやっていない時間帯だからなのか、3、4人しか人がいなかった。

マックだとコンビニ朝食とたいして違わないようにも思えるが、あたたかいソーセージマフィンと生野菜はありがたかった。丸亀を出てから、朝から晩まで出来合いのパンかお弁当だったので、久しぶりにちゃんとした食事をとったような気がした。

高松市内には何度も来たことがあって、大体の土地勘はある。栗林公園からこのまま直進すると高松市の中心部に至るので、交通量も多い。それよりも屋島を目指して斜めにショートカットした方が、静かである。右折して琴電の栗林公園駅を抜け、用水路沿いに北東に進む。

これまで栗林公園背後にある紫雲山が見えていたが、今度は遠くに平らな屋島が見える。まだ5km以上はあるだろう。志度線の線路を渡ると国道11号、ここを右に行けば屋島である。国道では㌔ポストがあるので、歩くペースが分かる。大体㌔14分、荷物が重い割にはペースはそれほど落ちていない。


前日歩いた琴電一宮駅からスタート、まず市内中心部にある栗林公園を目指す。公園の背後にある紫雲山が目印となる。


栗林公園前のマクドナルドで、ソーセージマフィンセット。前日は朝から晩まで出来合いのものだったので、久々にちゃんとした食事をしたような気がした。


栗林公園から屋島へ、斜めにショートカットして国道11号に出る。ここからは㌔ポストがあるのでペースを計ることができる。

 

さて、この頃から体調がよくなかったのは間違いない。2泊したホテルの写真を全く撮影していなかったり、メモを残していないことは歩いている途中には気づかなかったのだが、帰ってみるとこの間の記録がほとんどない。

休憩した時にはなるべくメモをとるようにしているのだが、この日はマクドナルドで「ソーセージマフィンセット おいしい」と書いてから宿に着くまで約10時間、全くメモがないのである。メモを取っていないということさえ認識していなかった。

前日の夜に襲ってきた腹痛はおさまったものの、全身がだるい。お遍路歩きで午前中に15kmというのは別段ハードでもないにもかかわらず、一宮駅から約2時間、8kmくらいしか歩いていないのにすでに夕方のようにしんどい。

前日の五色台で大雨に降られてしまったのがよくなかったのか、あるいは連日出来合いのものばかり食べているのがよくなかったのか。前日はデイパックだったのでこの日の方がつらいのは当り前なのだが、それにしても尋常でない。まだ区切り打ちは半分以上残っている。

国道11号を進むにつれ、屋島が目の前に大きく見えるようになった。そろそろ左折だと思うのだけれど、目標となる屋島ロイヤルホテルまでなかなかたどり着けない。ようやくホテルまで着いて左折すると、大きなスタンドが目前に迫る。「屋島レグザムフィールド」と書いてある。

競技場の横を抜けて住宅街に入る。登山口はまだのようだ。ため池沿いに眺めのよい公園とベンチがあったので、休憩とする。マクドナルドから2時間弱。普段なら水分補給してすぐ歩き出すところなのだが、なかなか腰が立たない。

ようやく腰を上げて、小学校脇の坂を案内表示に従って登る。屋島寺への登山道は公園の遊歩道のように始まっていた。最初は車両も通行できる道だが、やがて歩行者専用の細い道になる。

「御加持水」「食わずの梨」など弘法大師ゆかりの旧跡があり、それらを通りながらスイッチバックで登っていくのだが、このあたりになるとベンチがあるたびに座り込む状態である。

このルートは近隣の方々のお散歩コースになっているのだが、そうした人達が軽装で登り下りしている中を遍路姿で休み休み登るのは、情けないことであった。

たかだか200mほどの標高差を登るのに、小一時間かかった。スイッチバックの坂を登る時には、奥多摩の山道を歩いているのではないかと錯覚するほどだった。

登山道が終わりに近づくと、いきなり山門が現われた。屋島寺に来るのは3度目になるが、過去2回はケーブルカーと車だったので、歩いて来るのは初めてである。頂上台地をしばらく歩いたように覚えていたので、正直なところほっとした。

山門のところでは、小学校低学年のグループが先生に指示されて並んでいた。歩いてきたのだろうか、それともバスだろうか。時刻はそろそろ正午になる。朝7時から歩き始めてお昼までかかるというのは、予想していた中で最も遅い到着時刻であった。


国道を左折して屋島登山道に向かう。屋島をバックにしたレグザムフィールドは、最近になって全面改装された高松市営陸上競技場である。


遠くから見えていた屋島の特徴ある山塊が、目前に迫ってきた。屋島寺は頂上台地の一角にある。


屋島寺への登山口は公園になっている。次第に参道らしくなり、弘法大師ゆかりの旧跡が現われる。

 

南面山屋島寺(なんめんさん・やしまじ)、源平合戦で有名な屋島にある。創建は源平合戦よりはるかに古く、唐から来朝した鑑真和上によると伝えられる。その後弘法大師が、伽藍を整備したとされる。

鑑真と弘法大師では宗旨が全く違うように感じられるが、鎌倉時代に大きな勢力を誇った真言律宗という宗派があり、鑑真が開基した律寺が後に真言宗となることは考えられないことではない。日蓮・四箇格言の「律国賊」というのは、当時鎌倉幕府がバックアップした真言律宗のことを指している。

南面山は真念「道指南」にも屋島寺のある山の名前として出てくるから、もともとの地名であったかもしれない。いずれにしても市街地の北に位置するので、中国故事の「君子(聖人)南面」にちなんで付けられたと思われる。

屋島は周知のとおり源平合戦の激戦地で、那須与一が扇を射たことでたいへん有名である。その時、義経家来の佐藤継信(次信とも)が主君をかばって平家方の矢に射られた場所でもある。佐藤継信の墓が、屋島寺から下る途中にある。

ちなみに、平家が滅亡した関門海峡海戦が壇ノ浦の戦いだが、屋島と五剣山の間の入江も壇ノ浦という。「道指南」には、領主(松平頼重)が佐藤継信の業績を記した碑を一丈四方の壇の上に立てたことから壇ノ浦と名付けられたと書いてある。

この屋島寺で印象深いことがあった。納経を終えてリュックに納経帳などをしまっている時に、外国人旅行客2人を連れたガイドの人に話しかけられた。外国人2人は年配のご夫婦であり、ガイドはボランティアでご案内しますとどこかに書いてあったので、地元の方だと思われた。

どこから来たのかとか今日はどういうコースで歩くのかとか、お遍路に関してよくある質問が続き、私も英語・日本語交じりで答えていたのだが、最後に「八十八番まで回った後に、もう一度来たいですか?」と聞かれたのである。

「これから八十八番までまだいくつかお参りしなければならず、その後一番までさらに歩く予定なので、まず無事に予定通り歩くことが大切です。その後のことは、まだ考えられません」と答えた。

屋島寺に着くまでそんな質問をされるとは思ってもみなかったし、この答もとっさに出たのだけれど、いま考えてもこう答えるのが適当だったと思えるし、とっさにしてはよく答えられたと思う。

自分自身を振り返ると、仕事でもプライベートでも、計画を立ててそれを予定どおりこなすことに神経を使うことが多かった。家族旅行にせよ出張計画にせよ、予定を立てて宿や切符を予約するのだけれど、当日になると子供は病気になり電車は不通になる。

万一そうなっても旅行中止とか出張先の約束が台無しになるということがないように二重三重にリスクヘッジするのが昔からの習い性であった。そのおかげと多分に幸運にも助けられて、どうしていいか分からないというような窮地には陥らずにここまできた。

だから、「八十八終わってその次は」というようなガイド氏の質問も理解はできるのだけれど、それを考えるのは無事に帰ってからのことだと思うし、そういう趣旨で答えられたのはよかったと思う。

それに、この時点ですでに体調が悪く、無事に宿まで歩けるかどうかという不安がない訳ではなかった。標高差200mを登るのに何度も休憩しなければならない状態だし、強い日差しで顔が腫れ、午前中から汗を拭くとひりひりする。


麓から屋島までは整備された遊歩道。散歩コースになっているらしく、軽装で登り下りする人達がたくさんいた。


屋島登山道を登り切ったところが屋島寺山門。小学生は登山道で登って来たのだろうか。


屋島寺の境内は、屋島の頂上台地にあってかなりの広さがある。

 

屋島寺のトイレは納経所の付近にはなくて、少し歩いた公園のあたりにある。ベンチもあるので座ってひと休みしていると、ツアーで来たらしい観光客の団体が大勢でやってきた。

屋島寺はお遍路と参拝客だけが来るのではなく、観光客も大勢来る札所である。私自身、過去に屋島に来たのは2度とも観光であった。かつて、琴電屋島から屋島寺までケーブルカーが通っていたが、利用客が減少し2004年に廃止された。

その観光客が「お昼はどこで食べるの?」「この奥に…」などと話しているのを聞いて、ここでお昼を食べるのは止めにしようと思った。食堂がどこにあってどれくらいの大きさかは分からないが、これだけ大勢が一度に入ったらかなり待つことになる。すでに、屋島まで登るのに予定時間をオーバーしている。

この日の泊まりは志度である。5時までに志度寺が無理なら翌日に回せばいいにしても、この日も午前6時から活動しているので日が暮れる前には宿に着きたい。時間はすでに12時半である。

案内図にしたがい、八栗寺への遍路道を目指す。来た道とは反対側、屋島の東側を下りることになる。ひと気のない庭園のような場所を抜けていくと、廃墟となったホテル前の展望台に出た。

ホテルは廃業して数十年経っているだろう。室内は荒れ放題の状態で、もはや雨宿りすらできそうにない。なぜ取り壊してきちんと更地にしないのだろうと思う。その廃ホテルの荒れ様に比べ、目の前に広がっている景色はすばらしいものだった。

屋島寺は初めてだが、屋島に来たのはこれで3度目である。1度目はまだケーブルカーが走っている時で、頂上駅から広い公園を歩いた。出張のついでだったので、それほど長居はしなかった。

2度目は家族を連れて車で来た。源平合戦の舞台なので、この展望台には立ち寄っているはずである。見覚えのある景色のようでもあり、そうでもない。あまり注意深く見ていなかったに違いない。

五剣山はほぼ目の高さにある。ということは、これから海沿いの海抜0mまで下りて、再び標高200~300mを登り返すということである。すでに一宮寺からの十数kmの市街歩きと、屋島寺への登りでかなりへとへとである。しかし、今日の宿は八栗寺のまだ先である。

これから歩く東側斜面の下には、入江をはさんで市街地が広がっており、家々がすきまなく建て込んでいる。その向こうが五剣山で、特徴ある5つの頂上を現わしている。五剣山の北寄りの山麓が茶色に削られているのは、採石場になってしまったのだろうか。

下りて登って2時間では、とても無理なような気がした。加えて、海岸近くには真念和上のお墓がある洲崎寺がある。こちらもお参りしておきたい。この体調で大丈夫だろうか。ともあれ、歩いて下りるしかない。展望台の先から、登山道が始まっていた。

この日の経過
(高松→)琴電一宮 6:55 →[5.9km]
8:20 栗林公園前マクドナルド 8:45 →[6.9km]
10:35 屋島登山口下休憩所 10:45 →[1.7km]
11:55 屋島寺 12:30 →

[Oct 3, 2020]


屋島寺本堂。


屋島寺大師堂。


本堂エリアから少し歩くと、ホテル廃墟前にこれから歩く八栗寺への道が見渡せる展望台がある。