070 変な健康食品・九龍虫 [Oct 22, 2020]

いまから半世紀前のこと、世にも奇妙な健康食品が流行したことがあった。九龍虫という昆虫である。これを生きたまま食べると、その(断末魔の)体液が非常に滋養強壮に効くというので、スポーツ選手をはじめ肉体派の方々が愛用されたのであった。

私は実際、この現物を見たことがある。どういう状況であったのか記憶が確かでないのが残念だが、親戚のおっさんが持ってきて食べたのである。大きさは蟻より少し大きい程度だったが、いずれにせよ気味が悪いものであった。

その後妙に流行した健康食品には、紅茶キノコだとか飲尿療法だとか不思議なものがいくつかあったので、食用昆虫ならばそれほど奇異とはいえないかもしれないが、それにしても変なものであった。

この虫が長く記憶に残った大きな要因が、「巨人の星」に出たことである。応援団長時代の伴宙太が、ひよわな野球部員に活を入れるため、自宅に呼んで強精料理を無理やり振舞うのだが、その中に九龍虫がいたのである。

私が見たのもマンガと同じく、パンをエサにうごめいている虫たちであった。梶原一騎もこういう世界にたいへん造詣の深かった人であるから、当然自らも試したことがあっただろう。

PL出身の人気選手が、にんにくエキスを注射しているなんて話があった(本当かどうか分からない)。食べるならともかく注射するというのは、効果以上に害の方が大きいような気がするが、紙一重の差が結果を左右するスポーツ選手が、そういうものに頼るのは分からないではない。

中国四千年の歴史の中で、不老長寿、滋養強壮に効果があるというものは動物、植物、鉱物の別なく試され、効果のあったものもあれば害の方が大きかったものもある。有名な例は水銀で、不死の薬品と信じて水銀中毒で命を落とした人は多い。

九龍虫についてはどうやら毒性はないようなので、食べたとしても体に害を及ぼすことはない。たんぱく源として昆虫を食べる人は海から遠い場所では少なくないから、多少なりとも効果があっておかしくない。

とはいえ、本当に効果絶大なら本家本元の中国で盛んに食べられておかしくない。ところが、どうやら九龍虫のブームは日本だけらしいので、効果についてもそれなりという可能性が大きい。

体育会系の猛者(梶原一騎とか)がマッチョぶりをアピールするために食べたのを、誰かが珍しがって広めたのではないかと個人的には思っている。以来半世紀、九龍虫のブームが再びという話はないようだ。

[Oct 21, 2020]


巨人の星で伴宙太が食べたことで、後世に証拠が残った。その後も紅茶キノコはじめさまざまな変な健康食品が流行したが、その中でもいま考えても変なものだった。