096 至仏山(撤退) [Sep 15, 2020]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

赤薙山で久々に山歩きした後、次は尾瀬に行こうと思った。燧ヶ岳に登ったのは、もう何年も前のことである。コロナ自粛で山開きが遅れたけれど、直通バスも復活したし宿もやっているようだ。

だが全面再開という訳にはいかず、おなじみの御池ロッジが今年は休業である。ここがやっていないと、いろいろ計画に支障が出てくる。特に、帰りにお風呂に入れないので、そのまま帰るのはちょっと厳しそうだ。

あれこれ考えて、今年は群馬側から入ることにした。尾瀬には何度も来ているが、群馬側からは初めてである。至仏山に登った後、鳩待山荘に泊まり、尾瀬ヶ原から燧裏林道経由で御池に抜け、七入山荘で2泊目という計画である。

計画は立ったけれど、今度は天気がよくならない。8月中は暑いばっかりで、9月第1週は台風。第2週にも続けて強力な台風が来た。第3週も不安定な状態が続いたが、15日から16日は天気予報に雨のマークがない。

2日前に予約して、急いで支度した。そもそも山歩きが休み明け2戦目に加え、泊りがけは昨年以来である。尾瀬なので売店とかあるだろうと思って、食糧はいつもより控え目にした。

9月15日のバスタ新宿7時15分発の尾瀬行は、乗客が4人だけだった。「今日はすいてますから、席どこでもいいですよ。大きい荷物も隣に置いていただいて」と、女性の運転手さんに言われて、他の人から離れて後方の席に座った。

外は曇り。群馬県に入っても、すぐ近くにあるはずの赤城の山が見えない。沼田ICで高速を下りて一般道に入る頃には、けっこうな勢いで雨が降ってきた。これは今日は無理かなと思っていると、峠を一つ越える頃には上がった。

群馬側からのアプローチは、福島側からに比べると開けている印象である。沼田ICから1時間ほどで片品村に入るが、セブンイレブンがあるし、市街地はずっと続いている。片品村から間もなく尾瀬戸倉である。

尾瀬戸倉もずいぶんにぎやかで、周辺は温泉旅館が並ぶ。ここでバスを下りて、乗合タクシーに乗り換える。ホームページでは乗合バスになっているが、乗る人も少ないのでバンである。

「鳩待峠まで行かれる方は、戸倉に連絡しておきますから、バスを下りたらすぐのところにある案内所で切符を買ってください」と運転手さん。10分ほど待つと、駐車場から2人が乗った乗合タクシーが到着した。計5人が鳩待峠に向かう。

鳩待峠までは狭いくねくねした坂である。この日は平日なので一般車でも鳩待峠まで入れるが、休日には車で入れるのは戸倉までで、すべての人が乗合バスに乗り換えなくてはならない。そういう場合はバスになるが、バスだと道幅一杯になりそうだった。

20分ほどで鳩待峠着。リュックを持って鳩待山荘に向かおうとすると、横のポケットに入れておいたはずのステッキがない。運転手さんに言ってもう一度車内を調べるけれども、どこにも見当たらない。

「戸倉の待合所に置いてきたんじゃないですか。案内所に電話して調べてもらったら」ということなので、乗合タクシーの領収書に載っていた番号にかけてみた。しかし、待合所にも案内所にも見当たらないという。どこで忘れただろうか。外した覚えはないから落ちたとすると、新宿までの間かもしれない。

鳩待峠の売店にはモンベルショップがあったことを思い出した。50mほど坂を登って、売店に入る。もちろんステッキはあったが、モンベル製は5900円、尾瀬のおみやげ用が2000円。持ってみるとやっぱり違ったので、高いけれどもモンベルにした。

売店を出て鳩待山荘に向かっていると、売店の女性が電話が入ってますとお店から追いかけてきた。出てみると、新宿から乗ったバスの中にステッキの忘れ物があったという。

ステッキの特徴を説明すると、確認してまた連絡をくれるという。これから山に入るけれども、夕方には鳩待山荘に戻ることと、ステッキは売店で買ったので、もし私ので間違いなければ着払いの宅配便で送ってくださいとお願いした。

数時間後の話になるが、ステッキは山から下りてくると鳩待山荘に届いていた。関越交通や戸倉案内所、乗合タクシーの皆様には、たいへんお手数をおかけしました。いずれにせよ、今回の山は開始早々多難なスタートとなったのでした。


関越交通尾瀬戸倉案内所。ステッキをバスに置き忘れて、たいへんご迷惑をおかけしました。


至仏山登山口。11時半時点ではまだ山頂付近は見えていた。このあたりは、少し前まで駐車場だったらしい。

 

ステッキのごたごたで20分ほど遅れてしまったが、11時半前に鳩待山荘に到着した。いったん大きいリュックを預けて、デイパックで至仏山を往復しようという計画であった。

ところが、荷物預けは問題なかったのだが、至仏山を往復するというと、山荘の人がそれはやめてくださいと言うのである。

「もう時間が遅いですし、今日は天気が不安定なので山頂は激しい雨になるかもしれません。至仏山は、できれば2時、遅くとも3時に下山できるようでないと、危ないです。

燧ヶ岳ならともかく、登頂に2時間半の至仏山でお昼前で遅すぎると言われるとは思わなかったが、来る途中のバスで結構激しく雨が降った。ステッキ忘れで遅れたこともあるし、ここはおとなしく「分かりました。そうします」とアドバイスに従うことにした。

さて、2時下山を目標にするとなると、至仏山はもちろん小至仏山も難しい。笠ヶ岳分岐前にあるという、尾瀬ヶ原が見渡せるという原見岩あたりまでだろうか。いずれにせよ、今回は登る前から撤退決定である。

さて、入山届ポストのところに東電製作のミニパンフレットが置いてある。宿に着いてから確認してみると、「至仏山入山にあたって ・入山は朝9時までとしてください」と書いてあった。

至仏山は山ノ鼻からは登り専用とか、植生保護のため入山時期が限られるなどのローカルルールがある。私のガイドブックにはまだ書いてないけれども、最近そうなったのかもしれない。山小屋の人の指示には従うべきであろう。

時刻は11時半である。1時に下山にかかることにして、登山道に入る。しばらくなだらかな登り坂で、頂上まで行かないと決まったことでもありゆっくり進む。

気づいたのは、登山道の中央がえぐれているのは燧ヶ岳と同じなのだが、その低くなったところを歩きやすいように幅を広げてあって、底に小石が敷いてあることであった。

細くえぐれて足場が斜めっていると、歩きにくい上にひどく疲れる。燧ヶ岳がまさしくそうである。それと比べると、たいへん歩きやすく感じた。

鳩待峠から1kmはそうした緩やかな坂道で、1km過ぎると急な木の階段が現われる。ひとしきり登ると、小ピークをトラバースするように平らな木道となる。息がはずんだところなので、たいへんありがたい。

このあたりになると進行方向左側の景色が、木々の間から少しずつ開けてくる。至仏山から続く稜線の笠ヶ岳や、その向こうに上州武尊山があるはずだが、雲が多くてよく分からない。

1時間ほど歩くと、景色の開けた場所に出た。久しぶりに見る燧ヶ岳と尾瀬ヶ原である。大きい地塘もはっきり見える。大きな動物の形に見えなくもない岩があるので、ここが原見岩であろう。すばらしい展望である。


登山道はそれほど傾斜はきつくなく、燧ヶ岳と比べると歩きやすいように感じた。


一登りすると、いったん平らな木道になる。


木々の間から、稜線の景色が開けてきた。進行方向左側、笠ヶ岳の方向である。

 

制限時間にはまだ少し余裕があるけれども、次のチェックポイントである笠ヶ岳分岐まで標高差100mくらいある。上を見ると雲が流れてきて、至仏山や小至仏山はおろか、稜線すら見えない。景色のいいこのあたりで今日はお開きとしよう。

休憩所もベンチもなかったけれど、木段の表面がきれいだし、誰も下りてこないのでリュックを下ろして座らせてもらう。目の前は尾瀬ヶ原の大展望である。

燧ヶ岳の頂上近くからは一直線に至仏山まで見渡せる場所があったと思うが、ここ原見岩からは角度の関係か尾瀬ヶ原の入口あたりまでしか見えない。それでも、大きい地塘がいくつかはっきり見える。

燧ヶ岳も頂上近くは雲におおわれていて、柴安嵓、俎嵓などのピークを見分けることはできない。昔、2回目に登った燧ヶ岳はさえぎるもののない大展望だったが、あれはたいへんに恵まれたことだったのである。

今日登る予定だった至仏山頂方向を見上げると雲がどんどん流れてきて、心なしか厚い黒い雲のようである。宿の人の言うように、頂上近くは雨になっているかもしれない。

この頃になると、至仏山方向から何組かのグループが下山してきた。時刻はちょうど午後1時、そろそろ引き上げることにしよう。

帰ってからGPSで確認したところ、この日到達した原見岩は標高1912m付近。1/25000図だと1935の小ピークの下、がけのマークがあるあたりのようだ。

すると、笠ヶ岳分岐までは見込んだ通り標高差100mほど。小至仏山にはさらに100m登り、登って下って至仏山となる。あと1時間では難しいが、1時間半あれば登れるように思う。

奥多摩や丹沢の山ならこの時間でも何とかなりそうだけれども、尾瀬は東北の入口、それも2000mを超えるとなると甘く見ることはできない。例えば燧ヶ岳で午後2時半に頂上だとすると、私だってそれは危ないと思う。

そして、至仏山頂は蛇紋岩の露岩で、たいへん滑りやすいそうだ。暗くなる中あせって、あるいは雨でも降ってさらに滑りやすくなった場合、ケガの危険が急上昇してしまう。

もう一つ心配なのは、熊である。今年はコロナで人間の出足が遅い分、野生動物の活動エリアが広くなっていると聞く。ハチや虫は追い払うことができるけれども、クマだとそう簡単に逃げてくれるかどうか。

そんなことを考えながら、来た道を戻る。まだ1時を回ったばかりなのに、何だか暗くなってきて心細い。そんな時間でも、まだ登ってくる人達が何人かいた。上に登っても雲の中だろうから、どこかで戻ってくるのだろう。

鳩待峠の登山口に戻ったのは2時5分過ぎ。まさしく、宿の人のアドバイス通りに戻ってきた。


1900m付近まで登ってくると、尾瀬ヶ原・燧ヶ岳への展望が開ける。


原見岩は別名トカゲ岩ともいうそうだ。


ここまで登ってくると、至仏山頂は雲におおわれて見えない。

 

鳩待峠の下山口(登山口)付近は広場になっており、ベンチが何脚か置かれている。無事下りてきたので、ベンチに座って息を整えた。

この広くなっている場所にはかつて鳩待峠駐車場があって、自家用車やバスが上がって来ていたらしい。現在では、ここから50mほど下りたところに駐車場が移されていて、乗合タクシーも含めそこで発着する。静かだし排気ガスもないし、たいへん結構なことだと思う。

お昼前には私以外にほとんど人がいなかったのに、午後2時のこの時間には下山した人達でにぎわっている。尾瀬ヶ原の方から中学生の団体が上がって来て、先生がいちばん大騒ぎしている。

そうしたにぎわいを遠目で見ながら座っていると、「すみません」と声をかけられた。至仏山方向から下りてきた若い女性であった。

下山カードって出すんでしょうか。登山カードしか置いてないのですが。」

「登山カードは出すけれども、下山カードって出したことないなあ。」

「登山カードと照らし合わせて、下りてきたかどうかチェックしないんですか。」

「ああ、そういう意味なら、登山カードは遭難しないかぎりいちいち見ませんよ。だから、下りてきたことを報告しなくても大丈夫。」

「そうなんですか。ありがとうございます。」

ということだったのだが、私も最初に登山カードを出した時は、出したものをちゃんと見るのだろうか、下山したことをどうやって確認するのだろうかと疑問に思ったものであった。昔の自分に聞かれたようなものである。

その後、羽根田さんとか山岳遭難関係の本を読んで、登山カードが実際どのように使われるのか知ったのだが、警察も登山カードを出せというだけで、それがどのように使われるのか説明することはほとんどない。

単独行は仕方ないとして、尾瀬に行くとだけ言って家を出た人もかなりの数にのぼるという。もし帰ってこない時に捜索願を出されても、尾瀬ヶ原を歩くだけなのか、燧ヶ岳なのか至仏山なの平ヶ岳なのか分からなければ警察だって探しようがない。

だから、万一ケガをして下りてこられない可能性がわずかでもあるのであれば、登山届は出すべきである。ただ、警察だって知りたいのは入山時刻・下山予定・コースだけなので、携帯番号はともかく住所や氏名、ふりがなまでいらないんじゃないかと思う。

鳩待山荘に戻ると、バスに忘れたステッキが戻って来ていた。大清水から新宿行のバスで戸倉案内所に届けられ、乗合タクシーの人が持ってきてくれたのだろう。ありがとうございました。お手数をおかけしました。

案内された部屋は相部屋ということだったのだが、お布団が1セットしか置いてなかったので、急に泊まる人がいなければ1人で1部屋使える。WEBを見ると、東電経営の山小屋ではこうしたケースがままあるらしい。それを狙って平日に予約している訳だが。

お風呂が沸いていますと案内されたので、1階受付奥の浴室に向かう。一度に5、6人は楽に入れる広さがあるが、一度の利用は3人か4人にしてくださいと注意書きがある。3密回避のためである。幸い、一人だけであった。

尾瀬の山小屋では、原則として風呂は石鹸なしで入ることとなっているが、今年はコロナがあるのでシャンプーとボディソープが用意されていた。環境に配慮した自然素材のもので泡立ちはよくないが、タオルで拭くだけとはかなり違う。

この日の朝は3時起きだったので、wifiで翌日の天気予報をチェックして(TVがないのでネットでチェックするしかない。速度はかなり遅いが、鳩待山荘など東電系列の山小屋にはwifiがある)、7時過ぎには床についた。

さすがに標高1600mは寒く、掛け布団の上に毛布を重ねなければならなかった。この日の朝まで冷房なしでは寝られなかったのに、えらい違いであった。

さて、もう一つ書いておかなければならないのはGo To トラベルキャンペーンについてである。

鳩待山荘はキャンペーンの対象となっているので、免許証で住所を確認できると、宿泊料金が割引となる。通常料金9,000円のところ、Go To トラベル料金5,850円である。翌日の七入山荘も対象だったため、急きょ購入のステッキ代が出てしまった。

その昔、震災直後の尾瀬沼ヒュッテで復興補助2,000円があったが、それを上回る大盤振る舞いである。住所確認するということは、東京都在住だと9月現在では適用にならないということで、小池都知事への嫌がらせであろうがかなり不公平である。

個人的には、旅行会社が大々的に募集するツアーはともかく、個人旅行でそれぞれ別々の場所に行くのなら東京都とそれ以外を区別しなくてもいいのではないかと思う。10月以降、宿泊料金割引に加えて地域振興クーポンのようなものが付くらしい。東京の人も対象となるので、不公平がなくてよかったと思う。

この日の経過
鳩待峠(1591) 11:25
12:40 原見岩(1912) 13:00
14:05 鳩待峠(1591)
[GPS測定距離 4.9km]

[Oct 19, 2020]


下山する頃には、鳩待峠はけっこうな人出だった。この後、尾瀬ヶ原方面から中学生の団体が帰ってきた。


前日はエアコンなしで眠れなかったのに、この日は毛布が必要になるとはさすが標高1600m。相部屋にならなかったのはありがたかった。


鳩待山荘夕食。この日の夕食は2人、チキンカツ、鴨のロースト(多分)、こんにゃくの刺身、すいとんなど。