028 えらいてんちょう「しょぼい生活革命」 [Oct 29, 2020]

先日、YouTubeをつらつら見ていたら、GoogleのAIによる「あなたへのおすすめ」の中にえらいてんちょうの「入ってはいけない宗教2020年版」が表示された。このハンドルネームは内田樹先生のブログで見たことがあったので、どんなこと言うんだろうと思って動画をクリックしてみた。

見た目はとっぽいにーちゃんである。どうやら、このシリーズは毎年やっているらしい。「アレフ」とか「幸福の科学」とか、まあそのへんは危ないでしょうという集団が取り上げられた後に、「今年、新たに指摘したいのは、NHKから国民を守る党、いわゆるN国党です」と言ったのである。

かねてこのHPでも取り上げたように、N国党は胡散臭いと私も思っていた。とはいえ、国政(?)政党をカルトと断じる感覚の鋭さと新しさは、只者ではない。さっそく、図書館から著書を何冊か借りてきて読んでみた。

著者紹介によると、「しょぼい起業で生きていく」がベストセラーということだが、個人的に読み応えがあったのは内田樹先生との対談「しょぼい生活革命」である。

この対談は、共通の友人(というには歳が離れているが)であるイスラム法学者、中田考先生の紹介と司会で組まれたものであるが、内田先生の気合の入り方が半端でない。自分の著作では同じことを何回も繰り返し言っているだけなのに、この対談では聞いたこともない話がいろいろ出てくる。

それは、えらいてんちょうが内田ファン(なにしろ、えらい店長というハンドルネームは、内田の著作「先生はえらい」にインスパイアされたものだという)であることにもよるだろうけれど、えらいてんちょうの出自を内田先生がリスペクトしているからではないかと思う。

えらいてんちょうこと矢内東紀氏の両親は東大全共闘の闘士、つまり内田先生と同年代か少し先輩にあたる。

そして、学生運動は就職までで、その後は髪を切って大企業に就職するなどという生半可な人達ではなく、沖縄に渡って集団農業をやっていたというばりばりの運動家のご子息なのである。

まるで村上春樹「1Q84」に出てくる「さきがけ」である。村上春樹も同年代であり、まさか彼らのことをモデルにした訳でもあるまいが、すごい地獄耳なのでそうかもしれない。村上春樹自身は学生運動をやっていた訳ではないが、就職はせずジャズバーを自営していた。

現実の彼らは連合赤軍事件の影響で村八分になって沖縄にい続けることができず、東京に戻って弁当屋で生計を立てたという。集団生活はいまでも続いているそうだけれども、みんな年取ってしまって体力的に年中無休では働けず、週休2日になったそうである。

「1Q84」にも出てくるヤマギシ会について、「親父の高校の同級生が行ってます」などとさりげなく言われてしまうと、内田先生も「これはゴマカシが利かんな」と思ってフルパワー出力してしまったのではないかと思う。


YouTubeを見てこの人の本をいろいろ読んでみましたが、内田先生との対談をまとめたこの本が最もしっくりきました。内田先生が相当気合入ってます。

 

「1Q84」がまさにそういう話だったように、宗教と政治の垣根は非常に低い。公明党が宗教団体であることは指摘するまでもないが、共産党だって宗教団体的な側面がある。

しかし、党首の特異な性格で集まってきている人達の変わった団体としか世間一般には映らないN国党にカルトの側面がある、いやほとんどカルトであるという指摘は、なかなかできるものではない。

われわれ世代だと、大学でマルクス経済学が必修だったからだという訳でもあるまいが、常に理論的な主張、行動指針、目指している社会はどういう社会か、などに関心が向かってしまう。政党は政治的な主張をしているはずという先入観がある。

ところが、N国党が実際にやっていること、考え方の方向性、組織の動き方などを見ると、政治団体よりも宗教団体なのである。党首は幸福の科学の信者だというから、もともと別動隊的な性格で作られたのかもしれない。

だとすれば、NHKから国民を守るために何もしていないじゃないかなどという私の批判など、彼らにとって痛くもかゆくもない。オウムがヨガで人を集めたように、彼らはNHK批判で人を集めているだけなのである。

えらいてんちょうに話を戻すと、彼らはビジネスで結果が出るとうれしいけれども、ゲームでハイスコアを出すのとたいして変わらない。おカネがたくさんあってもやりたいことがない、と言う。

彼らより少し上の世代(ホリエモンとか楽天とか)とはそこがちょっと違う。「大組織作って多くの人を雇ってとか、考えただけで頭が痛くなる。それより、やりたくないことをしなくて済むことが大切」だという。「カネで買えないものはない」より、ずっと健康的である。

「しょぼい起業」のコンセプトを私なりにまとめると、みんながみんなサラリーマンやOLに向いている訳ではないし、そうする必要もない。生活が成り立つだけの小さなビジネスを自営して、細々とやっていけばいいのではないかということである。

別に、ご大層な事業計画とか資金調達など必要ない。自宅を店にして小さなビジネスを始め、とにかく人を集めることが大切だという。「カネのない奴は俺んとこに来い」という、かつての植木等(青島幸男)的な考え方である。

人が集まれば情報やノウハウが自然と集まり、謎の売上が立ち、生活とビジネスを一体化すれば固定費を心配しなくて済む(例えば、店に住めば家賃をダブルで払わなくていい)ということである。

ごく当たり前の、常識的な意見である。というよりも、かつては多くの人がこういうまっとうな考え方をしていたのである。いつの頃からか売上最優先、ビジネスは大きくなければならない、コスト削減待ったなしということになってしまった。三波春夫のせいだろうか。

とはいえ、えらいてんちょうが朝早く起きるのが苦痛というのと同じくらい、多くの人とネットワークでつながるなどということが私には苦痛である。「しょぼい起業」などしないで、つつましくリタイア生活を送っている方が無難なようである。


「しょぼい起業で生きていく」。表題は刺激的ですが、サラリーマンが無理なら小さい自営業でやっていく方法もあるよということで、常識的な内容です。

[Oct 29, 2020]