171 堤未果「貧困大国アメリカ」 [Mar 11, 2021]

昨年の大統領選で、普通に考えると自分達のための政治をするはずのないトランプを、暮らし向きが中程度以下の白人層が支持している様子をみて、なんだかアメリカは妙なことになっていると感じた。そういう問題意識でこの本を読んだのだけれど、病巣は想像以上に深いようである。

ルポルタージュはまず、貧困家庭が生み出す肥満の問題から始まる。米国では、学童への給食を無料または割引で行う給食プログラムの有資格者の割合が、40%以上というたいへんな水準に達している。

日本の生活保護にあたるフードスタンプの受給者も数千万人にのぼり、これらのサービスによって食糧を得ている世帯の割合は、米国全体の2桁%の高率といわれる。

ところが、これらの給食プログラムやフードスタンプの予算はここ20年趨勢的に引き下げられており、限られた予算で空腹を満たすため、それらの人々はジャンクフードや炭水化物・糖質に偏った食事を摂らざるを得ない。

糖質制限中だからよく分かるが、糖質制限の最大の問題はコストがかかるということである。白米や精製された小麦を使ったパン、インスタントラーメンは最もコストをかけずにカロリーを摂る手段であり、ローコストで入手可能なジャンクフードとともに、多くの肥満体形を生み出しているのである。

食糧問題にとどまらず、米国の中流以下の家庭から高等教育機関に進める可能性も、年々狭められている。米国の大学入試では親の年収も合否判定の判断基準の一つとされ、学資ローンも教育費用のすべてを賄える額ではない。貧乏な家の子供でも大学には進めるが、大学卒業とともに身動きできないほどのローンを抱えることになる。

学資ローンの大手サリーメイについて、続編の「貧困大国アメリカⅡ」に信じられない話が載っていた。サリーメイでは、固定金利で借り入れた学生に対し、突然、変動金利への変更を通告し、金利を4%から8%にした。学生からの苦情に対し「払わなければ延滞扱いとする」と回答するとともに、苦情窓口をインドに外注して、折衝やコミュニケーションをとれなくしたそうである。

なんと米国では、学資ローンは倒産しても免責されない。つまり、サリーメイからの借金を返済しない限り、クレジットカードも作れなければ、住宅ローンも借りられないことになるのである。

だから、十分な資産のない家庭に生まれた子供にとって最大のチャンスとは、軍隊に入ることなのだそうである。しかし、ここも恵まれた職場ではない。最大の問題は、後遺症が残った場合の補償がほとんどなく、病院に行こうにも診療が1年待ちといった状況ということである。

「ランボー」の最初にも出てきたが、戦地で怖いのは放射能汚染である。もし白血病であることが帰国後判明したとしても、診療まで1年待ちしなければならないとしたら、待っている間にお陀仏である。

こうしたアメリカの現状を聞かされると、思い浮かぶのは「八方ふさがり」という言葉である。アメリカン・ドリームといえば聞こえはいいけれども、それに挑戦できるのは親が金持ちであるか、10万人100万人に一人の才能の持ち主だけである。

だとすれば、大多数の「その他大勢」にとって、現状は革命前と同じようなものである。どちらに行っても行き止まりなら、せめて誰かを巻き添えにしたい。こんな世の中なくなってしまえばよい。そう思うから、トランプに投票してすべてを破壊したくなるのではないだろうか。

よく指摘されるように、アメリカでコロナ感染が止まらないのは、医療費が高いだけでなく健康保険に全員入っておらず、多くの人はかなり悪くなるまで病院に行かないというのが一つの要因である。しかし、トランプがバイデンになったからといって、この問題がすぐに改善できる訳ではない。

思うに、何でもカネの多寡で判断するという新自由主義が、一種「ネズミ講」的な側面を持っているからではないだろうか。新自由主義では、低賃金で働き大量生産製品を消費する大衆がいることにより、少数のセレブにカネが集まる仕組みになっている。

しかし、彼らの踏み台になる大衆が健全に再生産されない限り、集まるカネはいつかは底をつく。ジャンクフードしか食べられず、教育の機会も十分に与えられず、唯一のチャンスが軍隊というのでは、健全な再生産はできないと思わなくてはならない。

[Mar 11, 2021]


この本は十年以上前のアメリカについて書いてありますが、現状は変わらない、というよりもむしろ悪くなっているように思います。