128 第92期棋聖戦、渡辺名人逆転でリターンマッチへ [May 5, 2021]

第92期棋聖戦挑戦者決定戦(2021/04/30)
渡辺明名人 O – X 永瀬拓矢王座

昨年までは名人戦と棋聖戦の間に叡王戦があったのだが、主催者交代のどさくさで開催時期が半年ずれたようだ。昨年はコロナのあおりを受けて準決勝以下1週間で番勝負までやってしまった棋聖戦、今年はきちんと間隔をとってトーナメントが進行した。

準決勝には前棋聖の渡辺名人、四強の一角永瀬王座に対して、山崎隆之八段、中村太地七段が残った。山崎八段はA級昇格の余勢を駆って、中村七段は王座失冠以来のタイトル戦登場なるかと期待されたが、四強の壁は厚く、渡辺・永瀬という見慣れた対戦となった。

注目されたのは対局日である。4月30日というのは、渡辺の名人戦第2局から中1日である。第2局の対局は福岡だったから、前日は移動日である。準備期間なしで挑戦者決定の大一番ということになる。

まして、名人戦第1局で渡辺は逆転負けを喫している。悪い流れを引きずらないためにも、先手番の第2局はきっちり勝ちたい。となると、事前研究の多くは名人戦の準備に費やされたはずで、加えて第3局は4日後の5月4~5日。渡辺名人やや厳しい日程といえた。

かたや永瀬王座。名人戦と同日に王位戦リーグの佐々木大地戦が組まれていたものの、スケジュールには余裕があり、渡辺名人と比較してこの1局に集中して準備できるアドバンテージがあった。

4月30日、振り駒の結果渡辺名人の先手番。両者飛車先を突いて相掛かり。しばらく前まで来る日も来る日も角換わりだったが、このところ相掛かりの戦いが増えている。ちなみに、両者とも直近の対局が相掛かりだった。

後手横歩取りから渡辺名人の6六角と出た手に永瀬が食いつき、攻勢をかける。研究手順だったようで持ち時間をそれほど使わずに進み、一時は評価値で80%:20%と差が付いた。永瀬王座リードである。

ところが、夕方頃から形勢が混とんとなる。永瀬王座は何度か決め手を逃し、自陣に手を戻す間に渡辺名人は5三の地点に戦力を集中する。下図は歩切れの名人に永瀬が2四香と飛車取りをかけ、2五桂とがんばった局面。

このあたりではまだ後手が60%:40%で優勢だったが、この後とうとう逆転。渡辺玉は左辺に逃走し、永瀬は5三を突破された。永瀬としては、得意の粘りこみではなく攻勢をかける展開となったことが誤算だったかもしれない。これで両者の対戦成績は渡辺16勝・永瀬5勝と差が広がった。

渡辺名人としては、序盤では準備の差が出たのか先手番にもかかわらず引き離されたものの、中盤以降決め手を与えずに逆転したのはさすが。対若手に絶対の強さを改めて見せつけた。

その渡辺が、若手で唯一負け越しているのが藤井棋聖である。1年前以来の番勝負でダイレクト・リマッチ。渡辺としては、なるべくなら名人戦を長引かせず、棋聖戦に集中して臨みたいところだろう。

[May 5, 2021]


夕方には永瀬王座が80%:20%でリードしていた局面から、渡辺名人が懸命に粘る。歩切れを突かれた△8四香に▲8五桂で受ける。この場面ではまだ後手優勢だが、この後とうとう逆転して藤井棋聖とのリターンマッチへ。