061 借りを作らない生き方 [May 25, 2012]

会社勤めをしている時に、「ずいぶんと会社に貸しがあるなあ」と思っていた。結局、リタイア時に50日以上に及ぶ休暇を捨てて来てしまったので、単純計算でも給料の方が少ない。

誰かが言っていたのだが、「人生、貸方に回らないといけない」ということである。この場合の貸方とは、借りがあるよりも貸しがあるような状態で過ごす方が精神衛生上望ましいということであろう。

複式簿記であるから借方と同じ金額の貸方がなければならず、だとすると貸方だけ多くするとはどういうことかと思ってしまうが、おそらく借りる側よりも貸す側に回れという意味にだろう。「貸方」は複式簿記の右側という意味で、貸し借りとは直接関係ない。

わたしなりに翻訳すると、手元の現金を減らしてでも、売掛金や貸付金を増やすということだろうか。売掛も貸付も貸し倒れになると回収できないが(私のいた会社のように)、それでもその方がいいということである。

愛読する内田樹先生がよく言うのだが、高速道路で路肩を走ったりして他人を出し抜くような生き方は、無意識のうちに自分と同じことをする人が多いと困る、つまり「自分のような人間はこの世にいない方がいい」という呪いを自分にかけていることになるそうだ。

同様に、方々で貸し倒れを起こして世渡りをするよりも、回収しそこねる人生を送っている方が、無意識のうちに自分を勇気づける、生命力を高めていく生き方のように思う。

その意味で、借りがあるのにそれを放っておく組織自体も、無意識のうちに「こんな会社はなくなった方がいい」と思っていたことになる。将来ろくなことにならないだろうと思っていたら、実際に3年ほどでコロナ騒ぎになった。

勤めていた会社がどうなっているのか、連絡をとる人もいないので実のところよく分からない。あえて連絡をとるつもりもない。声をかければ教えてくれる人はいるだろうが、安全圏から野次馬根性で聞くのも品がよくない。

売上が下がったことは間違いないし、経費節減がこれまで以上に徹底されているだろう。あのローテク職員でどうやって在宅勤務をしているのか見当もつかないが、もしかすると実質的な給与削減が起こっているかもしれない。

それこれ考え合わせると、ちょうどいい辞め時だったのかもしれないと思う。会社にしたら、協調性もなく言う事を聞かない奴を厄介払いしたつもりなのだろうが、こちらにしたら、若干の貸し倒れを起こしただけで心身の健康を保つことができた。

会社には貸しは作った方がいいし、できれば借りは作らない方がいい。高速の路肩走行と同じでたいていはうまく逃げ切れるが、覆面パトが待ち構えていれば時間も費用もかかる。精神的負担だって渋滞の比ではない。

もっとも、そのくらいのことは屁とも思わない連中が路肩を走るのだろうが、そんなことをするよりもそもそも交通ルールを守る方が賢いことは確かである。

[May 25, 2021]


会計用語のDebit,Creditを借方・貸方と訳したのは福沢諭吉と言われています。