112 令和3年GWの山岳遭難 [May 27, 2021]

今年のゴールデンウィーク、人が多そうなときには山に行かないし、あまり天気もよくなかったので天気予報も注意して見ていなかった。槍ヶ岳で遭難というニュースを聞いた時にも、休みがここしかないから強行したんだろうと思っていた。

槍ヶ岳で滑落と聞けば、まず北鎌尾根かと思ってしまうのは仕方がない。「そう簡単に見つからないよ」と奥さんと話したのだけれど、1日で発見された。それだけでなく、通報したパーティーの残り2人も心肺停止で発見され、死亡が確認されたという。

槍ヶ岳でそんな簡単に遭難者が見つかって、しかも死亡事故が起こる場所ってどこだろうと思った。調べてみると、なんと飛騨乗越だという。夏であれば、主要登山道といっていいルートである。なぜ、そんなところで大事故が起こったのだろう。

山小屋関係者によると(この時期開けているのは槍ヶ岳山荘か)、当日は猛吹雪でほとんど視界がなかったという。滑落は夏でも起こるけれど、進路が分からなくなりそのまま疲労凍死するような天候は、天気図さえ見ていれば避けられるというのがこれまでの考え方であった。

YouTubeで今年のGWに槍ヶ岳へ向かった人の動画がupされていたが、テン場のあるババ平から先は吹雪いて前が見えない状態で、撮影者は天狗原分岐まで行けずに引き返した。

結局、槍ヶ岳山荘でテン泊予定のところ徳沢に戻ることになったが、無事に鍋を楽しむことができた。遭難のあった日か前後1日2日くらいの話である。

あの動画をみると、ババ平から標高差200mかそこらで天候が急変した。槍ヶ岳はさらに1000m登るから、どういう状況だったのか想像するだに恐ろしい。

遭難したパーティーがどのようなスケジュール、どのような装備で遭難に至ったのか、現時点で情報はほとんどない。ただ、この時期槍ヶ岳までこういう人達が行くのかという情報がないということは、それなりの経験・装備があったのだろう。

では、登っても大丈夫という判断はどうだったのか。下に示したのは、当日午前9時の天気図である。もちろん、彼らが見たのは2、3日前の予想天気図だっただろうが、正直言ってこの天気図から大荒れの天候を予想するのは無理である。

低気圧が通過したばかりで風は強そうだし、次の低気圧がすぐそこに来ているから安定した天候は望めないだろうが、二ツ玉低気圧が来ているとか、沖縄あたりの台風から前線に湿った空気が流れ込んでいるような、いかにも大荒れの天気図ではないのである。


今年のGWには、槍ヶ岳と谷川岳で遭難事故があった。休みがここしか取れなかったんで強行したんだろうと想像していたが、天気図をみると風は強そうなものの大荒れになるようには思われない。

 

今回のカギとなるのは下図に示した、5月としては観測史上最大級の寒気団が日本列島まで下りてきていたという点である。

「5月としては」と書いたが、真冬にしてもかなり強力な寒気団で、そのため地表近くと山の上でかなりの気温差が生じていた。いわゆる「大気の状態が不安定」になっていたのである。

山で大気の状態が不安定というと、夏場に地表の温度が高くなって午後になると落雷や突風、夕立が起こりやすいというイメージがあるが、上空に強い寒気がきた場合も同じである。夏と比べて登る人が少ないから目立たないだけである。

標高2000mくらいまでは天気図のとおりだが、2000mを超えると前線が来ているのと同じ状況ということである。「5月としては史上最大級」は大げさにしても(4月から2~3日過ぎただけ)、注意しなければならなかったことは間違いない。

加えて、夏場の天候急変は比較的短時間で通り過ぎてくれるけれど、今回の寒気団は強力で通過までかなり時間がかかった。結果として、1日で疲労凍死に至ったのである。

かつての立山大量遭難事故も1日で疲労凍死したけれども、あの事故は経験の浅い登山者が夏山装備で吹雪に突っ込んだものであった。登山経験があり装備がきちんとしていた人は助かっている。

今回の遭難事故について書かれるのはしばらく先のことになりそうだが(羽根田さんが書いてくれないかな)、おそらく、これまでの遭難とは違った側面から考察しなければならないだろう。

山に行く人の多くは天気図くらい見ているはずだが、今回は天気図だけで防ぐことは難しかったように思える。気象庁も上空の観測データをホームページで公表しているものの、分かりやすくは書いていない。

それと、気象庁は最近ホームページをリニューアルして、たいへん見づらくなった。近所のアメダスや警報・注意報はすぐ出てくるのだけれど、広範囲のアメダスや山の天気を見ようとするとたいへん手間がかかる。慣れないということもあるのだろうが。

個人個人がデータから読むのが難しければ気象情報提供サービスに頼ることになるが、それらの会社がどういう会社でどこまで信用できるか分からない。個人的には、信頼性のよく分からない情報に命の危険はかけられない。

結局のところ、危ないと思ったら引き返す、できるだけパーティーを組んでいざという時助け合えるようにすることだが、それも万能ではない。今回も、パーティーを組んでいたのに全員亡くなったのである。

立山やトムラウシのように明らかに先に進むべきでなかったという状況証拠がないだけに、考えさせられる遭難事故であった。詳しい情報が待たれる。

[May 27, 2021]


ところが上空の気象をみると、5月としては観測史上最大級の寒気が襲来していた。天気図だけでは分からない。私も気をつけないといけない。