130 第79期名人戦、渡辺名人初防衛 [Jun 4, 2021]

第79期名人戦七番勝負(2021/4/7-5/29)
渡辺 明名人 O 4-1 X 斎藤慎太郎八段

タイトル獲得実績は単独歴代4位である渡辺名人だが、名人の防衛戦は初めてである。かたや、A級参加初年度で挑戦権を手にしたさいたろう八段、フレッシュな対決となった。

第1局、渡辺名人優勢の局面から斎藤八段の驚異的な粘りがあり、いつの間にか形勢不明となり、最後は逆転で斎藤八段が幸先いい1勝をあげた。これで面白くなるかと思われたが、第2局から4連勝で渡辺名人が初防衛を果たした。

この中でカギになる対局となったのは、第4局と思う。渡辺名人の先手番で迎えた本局、名人勝てば防衛まであと一勝に迫り、斎藤八段が勝てば2勝2敗と振り出しに戻る。矢倉模様の出だしから、難解な中盤戦が続いた。

Abemaで見ていると、2日目の午後まで50%:50%という評価値が続いた。評価値50%というのは、双方最善を尽くせば千日手を意味することが多い。

とはいっても、画面に現れるAIの読み手順10手くらいでは全然千日手にならない。数十手先の千日手を読むことは、おそらく人間には無理である。

と、ある時点で、評価値がいっぺんに渡辺名人に振れた。50%から60数%まで動いたと記憶している。とはいっても、斎藤八段が疑問手を指したわけではなく評価値上位3手くらいの中だったし、名人も絶妙手を指した訳ではない。

察するに、ベスト以外の手順を選ぶとこの時点で千日手にならなくなったということではないかと思う。以降も、渡辺名人はAI推奨の一手は指さないのだが、人間として指しやすい手順を選び、優勢を拡大した。

下の局面では名人すでに97%の勝勢である。しかし、Abema解説の藤井猛九段によれば、「97%って言われたって、私なら勝てませんね。絶対間違える」ということである。いずれにせよ一手違いで、先手の玉は極端に狭い。

ただ、この時点で斎藤八段が秒読み(残り10分以内)だったのに対し、渡辺名人は20分以上残していた。まず飛車を取り(7二に打った金を玉で取ると詰む)、その飛車で王手して8七のと金を取って大勢が決した。

その手順はAI推奨の最短勝ち手順ではなかったものの、確実な勝ち筋であり、紛れの余地もほとんどない。人間対人間の対局では、最短手順が必ずしも最善ではないという好例だと思う。

この激戦を制して3勝目をあげた渡辺名人は、続く第5局も勝ち、4勝1敗で初防衛を果たした。若手相手に抜群の安定感があり、番勝負ではほとんど負けていない。ただ一人負けている相手が藤井二冠で、これから棋聖戦のリターンマッチが始まる。

名人としては、タイトル戦が重なることになるスケジュール面での課題がなくなったのは何よりのことで、6月早々に始まる棋聖戦に集中することができる。棋王戦、王将戦、名人戦と3タイトル防衛を果たして、間違いなく期するものがあるだろう。

藤井二冠は棋聖戦と王位戦のダブルタイトル戦となることに加えて、並行してB1順位戦、竜王戦決勝トーナメントも戦わなければならない。このクラスまで上がってくると楽な相手などいない。まさに、試練の時である。

[Jun 4, 2021]


第4局は終盤まで難解な激戦だった。上の局面でAbema解説の藤井猛九段は「97%(評価値)でも私が先手なら勝てないですね」と言っていた。AI推奨の6三金とは違ったが、▲7二金から飛車を取って渡辺名人が初防衛に前進。