カテゴリー
半世紀前の話

170 越中富山の薬売り [Jun 2, 2021]

この間、久しぶりに佐倉の歴博(国立歴史民俗博物館)に行ってみたら、展示の中に越中富山の配置薬があった。昔は普通にあったけれども現在はほとんど見ないと思っていたが、資料によると現在でも、大阪・奈良ではかなり多くの数が置かれているらしい。

銭湯の桶で有名な「ケロリン」は配置薬の名前で、効能としてはバファリンとかロキソニンに相当する鎮痛解熱役である。だから配置薬の会社の名前はケロリンではなく内外薬品なのだが、配置薬を置いていない人でも「ケロリン」は知っているのではないかと思う。

現在では内外薬品は持ち株会社になってしまい、配置薬メーカーとしての名前は富山めぐみ製薬である。何だか保険会社みたいなネーミングである。

鎮痛・解熱薬としてのケロリンの主成分は、アスピリンと生薬である。バファリンの主成分もアスピリンなので、配置薬だから古くて効き目が弱い訳ではない。アスピリンという名前はドイツのバイエル社の登録商標で、薬品名はアセチルサリチル酸、19世紀末に開発された。

なぜアスピリンが普通名詞のように使われているかというと、それだけ有名な薬ということもあるが(ホッチキスとかテトラポットも、もともと商標である)、第一次大戦でドイツが負けた際に、会社も商標も取り上げられてしまったことが大きい。ともあれ、100年以上の時を超えて使われ続けている薬品である。

ケロリンのホームページによると、東京オリンピックの前の年(1963年)、ちょうど全国の銭湯で手桶が木からプラスチックに代わる時期、ケロリンの名前の入ったプラスチック桶を置いてもらえれば知名度が上がるだろうということで始めたということである。そんなに古い話ではない。

世はまさに高度成長期、一般庶民はお風呂屋さんに行くよりも自宅で風呂に入る時代になり、配置薬よりも薬屋さんで薬を買うことが多くなりつつあったが、ケロリンの名前だけは全国に知りわたることになった。

私もケロリンの名前は知っていたが、配置薬のメーカーということは知らなくて、社会人になって都心の一等地(銀座だったか新橋だったか)に営業所があったのでこんなに大きい会社だったんだと思った記憶がある。

私が小さい頃も、家には配置薬のセールスの人が来ていて、配置薬の箱が置いてあった。何ヶ月か置きにその人はやって来て、中身を確認して使用して減った薬を補充する。使った薬の代金を後から払うというシステムであった。

そうしたシステムか成立する要因として、俗に「薬九層倍」と言われる原価率の低さがあげられる。薬の値段は原価の9倍あるという意味で、それだけ原価率が低ければ、在庫負担の費用や貸倒れ損失を見込んでも儲けは出そうだ。

いまの時代であれば、多くの薬はそんなに長く保存しておけないし、できれば冷蔵庫で保管することが推奨されるから(ロキソニンなど)、いまの薬と違って生薬・漢方薬系のものが主体であったと推測される。

だが、私が社会人になった頃に漢方薬が見直された時期があって、その頃葛根湯などが保険適用されるようになった。ツムラも売上を伸ばして、津村順天堂から名前を変えたのである。

ただ、薬品であれば本来薬剤師のいるお店でなければ売れないことになっており、配置薬は例外的な規定で認められている。在庫を各家庭に置いて販売員が定期的に個別訪問するというやり方もいまの時代には難しいので、徐々に通販などに業種転換せざるを得ないだろう。

「越中富山の薬売り」の別名で知られるように、配置薬の基礎は江戸時代、富山藩(加賀前田藩の分家)の商人によって築かれた。以来約四百年。江戸時代から続いた配置薬の伝統も、近い将来なくなるのかもしれない。

[Jun 2, 2021]

昔なつかしいケロリン桶が、amazonで出品されていました。新品というから、いまだに製造されているようです。値段はそこそこですが、Free Shippingだそうです。