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076 デヴィット・グレーバー「ブルシット・ジョブ」 [Sep 4, 2021]

いろいろなところで誉められている本なのだが、正直言って4分の1読まないうちに先が見えた。その大きな理由は、この著者の言いたいことは最初の16ページに尽きていて(最初にWEB投稿した論文)、あとはそれを水増ししただけなのである。読者にとって、まさに「ブルシット・ジョブ」(クソどうでもいい仕事)ではないかと思った。

水増しした300ページ以上のほとんどは、WEB掲載後に読者から寄せられた投書である。「私はこんなくだらないことをさせられている」「ウチの組織はこんなにバカげたことをしている」といった内容を羅列したものと、著者のよく分からない分析である。半分過ぎからは、斜め読みで十分である。

そして、著者が「ブルシット・ジョブ」の例としてあげるところの、ほとんど仕事のない受付嬢とか、数mしか離れていない場所のパソコンを移動するために数百km移動する事務機器販売の下請けやら、会議や書類作りに労働時間の大半を使わなければならない事務職が、「どうでもいい仕事」とは私は思わないのである。

著者に言わせると、給料をもらうためにそう思い込んでいるだけというのだが、そうだろうか。会議や書類作成、ノウハウの必要な職務を外注することは会社のルールで決められており、その根拠は法律・規則であり、おおもとは損害賠償請求を受けないというリスクヘッジである。

社会の役に立っていないし、なくても誰も困らないというけれども、そんなことをいったら軍備だって同じである。世界中がいい人間ばかりなら警察も軍隊もいらない。そうでないから、なくてもいい仕事が次々と発生するのである。

さらに、著者は宣伝やセールスもやり玉にあげる。確かに、セールスはわずらわしいし、CMなどなければない方がいいと個人的にも思う。

けれども、資本主義の社会では自由競争・市場経済が大原則である。誰も宣伝せずセールスもしなければ、最初それを思いついた人間が無限大のメリットを確保する。多くの場合、一般消費者は不利だし不便である。

だから、宣伝やセールスは必要悪で、マーケットを効率的に動かすための必要経費とみなければならない。別に、上司を威張らせるために不必要な仕事を創出している訳ではない。

そしてもう一つの読み進めるのが苦痛な理由は、そんなにつまらない仕事なら、なぜさっさと辞めてより充実した仕事を探すよう仕向けないのかということである。

文句を言うだけで現状を改善しようとしないのなら、それは暴力亭主に泣き寝入りするDV被害者と変わらない。著者にとっては、DV被害の詳細をレポートすることと同様、ブルシット・ジョブの理論を紹介することに意味があるといいたいのだろうが、そんなことをしている時間があったら、すぐに逃げるようアドバイスした方がいい。

ケインズが1930年に予言した「週15時間労働」が実現していない理由を、著者は無意味な仕事ばかりが増えているためだというが、これは原因と結果が逆だと思う。無意味な仕事ばかり増えているのは、「週15時間労働」なんて誰もしたくないからではないだろうか。

以前、「年収90万円」の本を紹介した。その著者は、月に6万円あれば不自由なく暮らせることに気づき、バイトを週2日だけにしてあとは自分の好きに過ごすことにした。週2日のバイト、ほぼ週15時間労働である。

自分ひとり生きていくためには、いまの時代ケインズのいうとおりそれ以上働く必要はない。かつて、そういう場合には「神様が働くと決めている」というのが定番の理由付けだった。いま、神様も仏様も王様もいないので、みんなが好き勝手に動いてそうなっている。

「ブルシット・ジョブ」を暴力亭主と同様に説明したところで、得るものは少ないと思う。

[Sep 7, 2021]

アイデアはすばらしいが、400ページに及ぶ本書の核心は最初にWEBマガジンに掲載された16ページに尽きている。残り300ページ以上にふくらませた作業こそ、まさに「ブルシット・ジョブ」(クソどうでもいい仕事)では?