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268 F・H・バーネット「秘密の花園」 [Sep 23, 2021]

ここ数年、目が悪くなったせいもあって、字の大きな少年少女向けの作品を読むことが多い。

そうした本の多くは、言葉は悪いが子供だましのように思えて最後まで読まないでやめてしまうのだが、この本はたいへんすばらしかった。登場するのが子供達だというだけで、大人向けの作品ではないかと思うほどである。

作者のバーネットは、「小公子」「小公女」で知られる児童文学の大ベストセラー作家である。もちろん、それらの作品は子供の頃読んだのであるが、「秘密の花園」は題名のイメージから、これまであまり読もうと思わなかったのであった。

その本をなぜ読もうと思ったのかと言うと、梨木果歩が推薦していたからである。梨木果歩自身が、童話を書いているようでいて実は子供向けでないという作家なので、もしかしたら同じようなカラーなのではないかと思ったのである。

その通りであった。読み終わったとたん、というよりも読んでいる途中から、何度も前の場面を読み返したくなった。

この作品が発表されたのは1911年、第一次世界大戦前である。主人公の少女はインドに派遣された役人の娘で、王族のような暮らしをしている。当時、インドはイギリスの植民地だったのである。

そういえば、この作品より20年ばかり前になるシャーロック・ホームズのシリーズでは、相方のワトソン博士はアフガニスタン(!)から帰還した軍医という設定だった。当時はこういう設定がごく現実的だったのである。

この「秘密の花園」が安心して読めるのは、「悪意の人」がほとんど出てこないからでもある。世間一般には「悪意の人」だらけで、純粋な善意が背中から襲われることがしばしばあるけれども、この作品ではそういうことは起こらない。

あえて言えば、ポリティカルにコレクトでない発言を連発する主人公の少女が「悪意の人」に近いが、中盤以降善意の人になってしまう。その背景には自然があり神がいるというのが作者の言いたいことで、読者には自然に伝わってくる。

逆に、そうしたいわゆる差別発言がないと、この作品のニュアンスは正しく伝わらない。誰が誰をどのように差別していたか、それは何に基づく差別なのかを理解しないで、ただ差別はいけないと言われるだけでは、別の意味の差別が生まれるだけではなかろうか。

(ちなみに2000年以降の訳では、こうしたポリティカルにコレクトでない言葉は省かれている。でも、「私をインド人だと思ったって?」とか「あんたの背中は曲がっていると聞いたんだが。」では、ニュアンスが全然違うと思う。登場人物がそれで激高する理由も分からないし。)

その意味で、パラリンピックがNHKの1日の放送時間の大半を占めるというのは、どうみても悪平等である。契約上、オリンピックを放送してパラをやらない訳にはいかないのだろうが。

少なくとも、前回とりあげた「ブルシット・ジョブ」より何倍か勉強になるし、読んでいて楽しめる本である。

[Sep 23, 2021]

20世紀初めに書かれた少年少女向け作品ですが、年金生活者の親父が読んでもいまだにリーダブルです。