能條純一「哭きの竜」

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いままさに、藤井聡太竜王への挑戦権をかけた第36期竜王戦決勝トーナメントが進行中である。1年1期だから、竜王戦ができたのは36年前ということになる。

竜王戦創設にあたっては読売・朝日の新聞社間闘争があって、当時は「究極」「至高」のメニュー対決もあった(w)。だが、私のイメージの竜王戦創設は、なんといっても「月下の棋士」で怖い顔をしたおじさんが「王竜戦!!」と将棋界最強を決める戦いを構想したというものであった。

「月下の棋士」は能條純一が一般誌に進出してしばらくしてからの作品だが、その出世作は何といっても「哭きの竜」である。以下は2005年6月、もう18年も前の記事になる。
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この漫画を連載中に読めたのは全くの偶然である。当時はバブルの全盛期で、その日も酔っ払って帰りの電車に乗ろうとしていた。たまたま読む本がなかったので、ふと気が向いて「近代麻雀」という雑誌を買った。読んだら網棚に捨てていく本だから(サリン事件よりだいぶ前のことである)、別に読みたいものがあった訳ではなく、ただの退屈しのぎであった。

そうしたら、いきなり巻頭カラーで、迫力たっぷりの男達のどアップである。準主役のやくざの親分が自分の太股にドスを突き立てて、「気ィを沈めるんや・・・気ィをな」とにらみを利かせるや「竜、この勝負、代紋賭けて受けてやるわ!」と叫び、かたや竜が「ふっ」と笑い、得意の決め台詞「あんた、背中が煤けてるぜ」を放つ。雷鳴が轟き、竜がカン連発。三暗刻の聴牌が、三槓子リンシャンツモドラ12とかになって・・・というあのシーンである。これはすごい作品だ、とすぐに直感した。

翌月からこの作品を読むためだけに近代麻雀を何年間か買うことになった。近代麻雀の単行本など当時もかなり探さなければ見つからなかったが、急いで手に入れた(上の場面は単行本の2巻か3巻目)。そして周りの人たちに薦めまくったのだが、案の定この作品はきわめてマイナーな雑誌の連載にもかかわらず、コミック愛好者のすべてが知る人気作品となったのである。

「哭き」というくらいなので、竜はやたらとカンを連発する。ヤミテンはほとんどしないので、相手にすれば楽だと思うのだが、カンドラがもろノリだし、リンシャンからツモってしまうので手がつけられない。手が狭くなるので攻められた時にしのげないような気もするが、絶対に振り込まない。そもそもこのマンガは麻雀漫画ではなく、ヤクザ漫画なのである(当時、能條純一は麻雀のルールを知らなかったという説もある)。

当時は、なぜ親分衆が竜を手元に置きたがるのか、その意味があまりよく分からなかった。上のシーンでも、このヤクザの親分は麻雀では竜にコテンパンにやられるのだが、その間に対立派閥に対して放っていたヒットマンが襲撃を成功させ、一家の実権掌握に成功する。そこのところがいまいちピンと来ないまま年を重ねてきたのだが、カシノ歴を重ねた今ならよく分かる。ツイている奴に乗るというのはそれほど重要なことなのだ。

この作品の後、作者の能條純一は一般コミック誌に進出し、いまだに活躍中である。ただし、この作品に匹敵する迫力のある作品は実はひとつしかない。佐世保の小学校の事件があったので今なら連載自粛が確実な「翔丸」である。「哭きの竜」に話を戻すと、「あんた、背中が煤けてるぜ。」の後は、確かこう続くのである。「あんたの背中には、一人の命も背負えない・・・やめなよ、極道は」うーん、たまらないっす。

p.s. 1970年代少女マンガを中心にCOMICS記事を書きました。バックナンバーはこちら

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「竜、この勝負、代紋賭けて受けてやるわ!」「あんた、背中が煤けてるぜ」麻雀にそこまで命を賭けなくても、と読んだ当時は思いましたが、ポーカーに集中してから、なるほど、と腑に落ちました。