田酒の旅

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日本酒は辛口が好みである。「上善」のようなフルーティーなものや「越乃寒梅」のような暑苦しい重さは苦手で、純米酒でさばさばした辛口が好みである。

二十年くらい前は「久保田千寿」を好んで飲んでいたが、上越地震で味が変わってしまった。その後贔屓にしたのが青森の「田酒」である。

1升瓶で1万円弱するお高い酒で、しかも入手困難であったが、これもまた味が変わってしまった。麹は生き物だから仕方がない。2、3年前から飲んでいるのは「日高見」という酒である。震災復興した酒蔵で、値段の割にすっきり辛口である。

以下の記事は11年前、2012年2月に青森に行って田酒を飲んだ記事である。
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なぜに田酒(でんしゅ)というのかというと、読んで字のごとく「田んぼの酒」、つまり国内原料にこだわった純米酒というのがHP等に書かれている正式見解である。ただ個人的には、おそらく蔵元の西田酒造店を田酒と略していて、それが酒の名前になったとみているのだが、どうだろうか。

さて、ようやく空港に着いたが、道路は完全に凍結していてバスはゆっくりと進み、市内に入ったのは午後1時を回ってから。ホテルに荷物を預け、古川市場で「のっけ丼」の昼ごはん。そのあと駅前の公共施設ビル・アウガ(ここには市立図書館とかも入っている)の地下にあるなじみのお店へ行って、鮭、にしん、数の子、青森産にんにくなどを調達する。

荷物は宅急便で送ってもらい、さらに他のお店でうにや貝、たらこを見たりしていると、何と「田酒<たっぷり>あります」と書いた紙が貼ってある。地下の市場の中にある食事処「田」である。名前からして田酒が置いてありそうなのだが、問題はまだ3時にもなっていないということであった。

「飲んじゃおうよ。車で来てる訳じゃないし」と奥さん、「もし夜のお店で置いてなかったら後悔するよ」。まあ言われてみるとそのような気もするので、百席以上あるテーブル席に座る。他のお客さんは2、3組。大体みんな同じような年格好なのはおもしろい。

田酒と生ビール、ほっけの焼いたのとお新香の盛り合わせを注文。やがて田酒登場。お猪口で来たので燗酒なのかと思ったが、もちろん冷や酒である。最初の印象はすんなり飲める酒だなということだった。純米酒というと、えてしてちょっと甘みが残るしつこいめの味が多いのだが、そうした後味は全くない。また、日本酒によくあるアルコール臭があまり感じられない。

焼いたほっけもすぐそばで売っているものだから、身離れ抜群でこれもおいしい。ごぼうやかぶの入ったお新香の盛り合わせも絶妙の塩梅で、田酒によく合う。とはいえ、これでお代わりしたら夜まで腰を上げられなくなるのは必定だから、一杯だけでがまんして席を立つ。お勘定は2000円ちょっとで、公共施設の中とはいえかなり安い。

たった一合の田酒だったけれど、その後東横インに帰って日が暮れるまで寝てしまうくらい効いた。その間も雪は降り続き、いつしか外は真っ暗になっていたのでした。

青森郷土料理の店「鱒の介」。駅前ファミリーマートの2階にある。

夜の部は東横インから歩いてすぐ、ファミリーマートの2階にある郷土料理の店、「鱒の介」(ますのすけ)へ。ここは前もってインターネットで調べたところ、田酒を置いてあると書いてあったのである。以前に、とあるホテルの中にある日本料理店で田酒を切らしていたことがあるので(一見さんなので、体よく断ったのかもしれない)、あえて小さな店を選んでみた。

鱒の介とは、鱒のでっかいやつである。ニックネームのように聞こえるが歴とした正式名であり、魚介類図鑑にも載っている。サケ類の中で最も大きな種なのだそうだ。もともとシベリア方面にいる魚で、海流の具合で北海道や本州北部でも獲れることがあるらしい。

それはそれとして、田酒である。さっそくお願いしたところ、最後の1本(1升瓶)だそうである。あるだけは飲ましていただけるそうだ。残っているのが山廃仕込みだけなので、普通の田酒の値段で出しているとのこと。1合860円、決して安くはない。

市場の中と違って、コップを入れた枡に、冷やした一升瓶から注いでくれる。さきほど飲んだ「標準の田酒」よりも、さらにキレがいい。家の奥さんは「まるで水のようだ」と言う。店のおばさんは、「ワインに似ているというお客さんもいます」とのことであったが、そこはやっぱり違う。

「美味しんぼ」の最初の頃に書いてあったけれど、ワインと日本酒には果実酒と穀物酒の違いがある。「生ガキにシャブリは合わない」というセリフがあったが、基本的にワインと魚(特に生の魚)は相性が良くないようだ。ワインに似た日本酒というと「上善如水」のように香りが立った酒を指すことがあるが、個人的にあの香りはあまり好きではない。

その点、田酒は非常にキレがいい。前回も書いたけれど、純米酒のイメージからすると驚くほどの辛口である。しかも、アルコールの辛さではない、米と麹の醸し出す辛口なのであった。これが魚とは非常にしっくりくるのである。醸造用アルコールが加わった「淡麗辛口」とはちょっと違うのだが。そのあたりは、飲んで試していただく他にない。

肴は、まずお造り(まぐろ、いか、ホタテ)。次に焼き物。湯豆腐お新香と続いて、締めはタラのじゃっぱ汁(私はあらが苦手なので十三湖のしじみ汁)とおにぎり。奥さんは田酒をおかわりし、私は他のお客さんの分がなくなると悪いので、同じ西田酒造店の喜久泉をお願いした。お勘定は1万2千円。半分は酒の値段である。

昼間から飲み続けた酒はさすがに効いて、狭いダブルベットに夫婦で泥のように眠った。その間も雪は降り続き、翌朝の東京→青森便が欠航になることはこの時には全く気付かないのでした。

ご興味がおありの方は、こちらに全文。

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という訳で、買ってしまいました、田酒。