恵山荘

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北海道の鄙びた温泉にはいくつか行ったことがあり、その中には独身時代と結婚後にそれぞれ行ったところもある。恵山荘はそのひとつで、函館市街から津軽海峡沿いに車で2時間ほど行った場所にある。

結婚後とはいっても、子供が小さい時だからもう30年も前である。当時は国民宿舎を選んで泊っていて、ここはそのひとつであった。記事を書いたのは2017年7月だから、かなり経ってから思い出して書いたものである。
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恵山には岩の間から温泉が湧く水無海浜温泉という有名な温泉もあるのだが、こちらは海岸からちょっと上がった高台にある、恵山荘という国民宿舎があって、ここに計3回泊まった。現在では建て替えられて民営化されている。

1回目と2回目は独身の時だから、40年近く前のことになる。当時松風町にあった函館バスセンターから2時間、椴法華(とどほっけ)までバスに乗って、宿の人に迎えに来てもらった。見市温泉の時と違って、一人ではなかったと記憶している。

現在は市町村合併で函館市に統合されてしまったが、当時このあたりは椴法華村という村で、産業といえば椴法華漁港と恵山荘くらいしかなかった。津軽海峡沿いにいくつもの漁港を過ぎ、波に洗われる道路を越え、ようやく着いたのが椴法華であった。すごい田舎だというのが第一印象であった。

でも、ゆっくりお風呂に漬かって、心づくしの夕食を食べて、畳敷きの個室でゆっくりすると、何ともいえないリラックスした気分になったものであった。窓からはちょうど水無海浜温泉らしき風景を望むことができ、部屋の電気を消して、海の色とわずかに違う海岸線を見ながら部屋の冷蔵庫のビールを飲んだ。

その頃まだ20代初めである。この先どんな輝かしい未来が待っているのだろうと意気揚々としていた時期である。あれから40年近く経ってみると、あの頃想像した未来とはかなり違っていたけれど、それなりに楽しかったし、これから先もそんなに悲惨なことにはならないだろうと思われるのは何よりのことである。

この1回目の印象がたいへんよかったので、翌年かその次の年かもう1回行ったのだけれど、まあこれが大変であった。初日はそれなりの好天で、迎えには来てもらわず椴法華から歩いた。ひなびた漁村の道をずっと下って、また登る道だった。宿に着いて、温泉に入って食事をごちそうになり、また部屋で電気を消して海岸を見ながらビールを飲んだ。

ところが、夜半過ぎからすごい雨になったのである。風もすごく強くまた雨も激しく、おそらく台風が来ていたのではないかと思う。あまりの風雨に夜中なのに目が覚めてしまった。そして天井を見ていると、みるみる天井が下がってきたのである。電気を点けて見てみると、防水性の繊維に雨水が溜まっているのか、半球状に垂れ下がっているのである。

こんなものが破裂したら、部屋中水浸しである。もちろんフロントに電話したのだが、「様子を見てください」としか言わない。布団と荷物を半球状に垂れ下がる天井から離してはみたものの、半球の下の方からぽたぽたと水が落ちてきた。

おそらくその建物は、下のパンフレット写真の右側の建屋である。雨漏りしても不思議ないような安普請である。2度3度とフロントに電話するけれども、全く埒が明かない。そのうちに電話がかかってきて、「この天気なので朝のバスが出るとあとは止まることが見込まれます。すぐ出発できるよう用意をしてください」ということであった。

そのバスが何時にどこ発だったのか、バス停までどうやって行ったのか、ホテルの朝食はどうなったのか、全く覚えていないのが残念である。唯一記憶にあるのは、まだうす暗い中支度をして部屋を出て、どこかで待機していたことだけである。

再び恵山荘に行ったのはそれから約10年後、その時には建て替えられて新しくなっていたものの、経営自体はまだ国民宿舎のままであった。まだ子供が小さかったので、ホテルの周りを散歩して歩いた。たんぽぽの首が、やけに長かったのを覚えている。

p.s. 全国の温泉記事バックナンバーはこちら

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昔のファイルから見つけたパンフレット。この右側の建屋が、たいへんな雨もりをしたのでした。